パソコンのあり方の再定義といえば、もう1つ。今回のMacBook Airと13インチMacBook Proの差も非常に面白い。プロセッサは同じものなので、GPUのコア数が同じモデルでは、基本スペックが同じになるのだ。では、一応はProの名がつくMacBook ProとAirの差はというと、空冷ファンがついているか否かだ。
MacBook Airは、スマートに静かな動作を好むコンシューマー向けのノートPC。発表会で登場した既にM1搭載Macに触った人たちのビデオによれば、M1プロセッサ搭載Macは驚くほどエネルギー効率が良く、本体が熱くならないらしい。とはいえ、3Dレンダリングや4Kビデオ編集など負荷の大きい処理を続ければ、自然とプロセッサの温度も上がってくる。最近のプロセッサは温度がある程度以上に達すると、それ以上熱くなって熱暴走しないように動作速度を遅くするなどして対策をとる。
空冷ファンを備えていないMacBook Airでは、この熱さの限界への到達が必然的に早い。これに対してスペック的には同じでも、空冷ファンを備えたMacBook Proは、ファンによってプロセッサが冷却されるので、それだけ長い間、高速な動作が続けられる。よってそうした利用をするプロユーザー向け、ということなのだ。
こんな大胆なパソコンの常識の再定義、自らプロセッサを作っているAppleでもない限りできない印象がある。
ちなみにIntel依存からの脱却は、部品などの提供会社までも含めて二酸化炭素排出を減らすとしているAppleの戦略的にも有利だ。既にM1搭載Macは再生アルミなどを多くのリサイクル部品を使って作られているが、今後、プロセッサ自体もリサイクルされたレアメタルなどで作られるようになれば、Macは最もエシカルに作られるパソコンになりそうで、その点でも期待が持てる。
Appleがパソコンをどう再定義しようが、ユーザーにとっては関係ないのかもしれない。ユーザーにとってM1搭載Macの速い、バッテリーが持つ、安い以外のメリットは何か。
1つは、何といっても利用できるアプリが一気に増えることだろう。M1搭載Macでは3種類のアプリが動く。
1つ目は、Apple M1に最適化済みのファットバイナリだ。Appleが今後も2年間はIntelプロセッサ搭載Macの販売も継続するため、全てのMac用アプリはM1とIntelの両方に対応しなければならず、どちらのプロセッサでも動作するように両方のコードが入っているのがファットバイナリだ。
2つ目は、現状のMac用ソフト、つまりM1への最適化がまだのアプリである。Intel専用アプリを認識すると、macOS Big Surに組み込まれたRosetta 2という技術がコードをM1向けに翻訳しながら実行する。翻訳が入るため、少し動作が遅くなるが、アプリの動作を重くしがちなMetalなどの標準グラフィックスエンジンを使った部分などは関係なく高速化される。その結果、翻訳を介していてもIntel Macより速く実行できるアプリも多いという。
3つ目は、iOS用アプリだ。iPhoneやiPad用に作られたアプリは、開発者が「Mac用のアプリも書き出す」というオプションを選ぶ一手間をかければMacでも利用できるようになる。iOS用には200万本近いアプリがあり、Macで動作するアプリが一気に爆発的に増える可能性がある。ただし、全てのアプリが利用できる訳ではなく、開発者がそれを望んで上記のひと手間をかけたアプリのみだ。開発者によってはあえてMac版は出さないというところもある。
一方、CPUがIntel製ではなくなることから、Boot Campなどを使ってWindowsを利用することはできなくなる。
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