PC業界の常識を壊す、Apple M1プロセッサ搭載Mac(2/3 ページ)

» 2020年11月12日 06時00分 公開
[林信行ITmedia]

パソコン業界の常識を再定義する

 パソコンのあり方の再定義といえば、もう1つ。今回のMacBook Airと13インチMacBook Proの差も非常に面白い。プロセッサは同じものなので、GPUのコア数が同じモデルでは、基本スペックが同じになるのだ。では、一応はProの名がつくMacBook ProとAirの差はというと、空冷ファンがついているか否かだ。

Apple M1 Mac 左はファンレスのMacBook Air、右は冷却ファンを備えたMacBook Pro

 MacBook Airは、スマートに静かな動作を好むコンシューマー向けのノートPC。発表会で登場した既にM1搭載Macに触った人たちのビデオによれば、M1プロセッサ搭載Macは驚くほどエネルギー効率が良く、本体が熱くならないらしい。とはいえ、3Dレンダリングや4Kビデオ編集など負荷の大きい処理を続ければ、自然とプロセッサの温度も上がってくる。最近のプロセッサは温度がある程度以上に達すると、それ以上熱くなって熱暴走しないように動作速度を遅くするなどして対策をとる。

 空冷ファンを備えていないMacBook Airでは、この熱さの限界への到達が必然的に早い。これに対してスペック的には同じでも、空冷ファンを備えたMacBook Proは、ファンによってプロセッサが冷却されるので、それだけ長い間、高速な動作が続けられる。よってそうした利用をするプロユーザー向け、ということなのだ。

 こんな大胆なパソコンの常識の再定義、自らプロセッサを作っているAppleでもない限りできない印象がある。

 ちなみにIntel依存からの脱却は、部品などの提供会社までも含めて二酸化炭素排出を減らすとしているAppleの戦略的にも有利だ。既にM1搭載Macは再生アルミなどを多くのリサイクル部品を使って作られているが、今後、プロセッサ自体もリサイクルされたレアメタルなどで作られるようになれば、Macは最もエシカルに作られるパソコンになりそうで、その点でも期待が持てる。

Apple M1 Mac 環境への配慮は、今回も抜かりない

Mac上で膨大なアプリケーションが動作

 Appleがパソコンをどう再定義しようが、ユーザーにとっては関係ないのかもしれない。ユーザーにとってM1搭載Macの速い、バッテリーが持つ、安い以外のメリットは何か。

 1つは、何といっても利用できるアプリが一気に増えることだろう。M1搭載Macでは3種類のアプリが動く。

 1つ目は、Apple M1に最適化済みのファットバイナリだ。Appleが今後も2年間はIntelプロセッサ搭載Macの販売も継続するため、全てのMac用アプリはM1とIntelの両方に対応しなければならず、どちらのプロセッサでも動作するように両方のコードが入っているのがファットバイナリだ。

 2つ目は、現状のMac用ソフト、つまりM1への最適化がまだのアプリである。Intel専用アプリを認識すると、macOS Big Surに組み込まれたRosetta 2という技術がコードをM1向けに翻訳しながら実行する。翻訳が入るため、少し動作が遅くなるが、アプリの動作を重くしがちなMetalなどの標準グラフィックスエンジンを使った部分などは関係なく高速化される。その結果、翻訳を介していてもIntel Macより速く実行できるアプリも多いという。

 3つ目は、iOS用アプリだ。iPhoneやiPad用に作られたアプリは、開発者が「Mac用のアプリも書き出す」というオプションを選ぶ一手間をかければMacでも利用できるようになる。iOS用には200万本近いアプリがあり、Macで動作するアプリが一気に爆発的に増える可能性がある。ただし、全てのアプリが利用できる訳ではなく、開発者がそれを望んで上記のひと手間をかけたアプリのみだ。開発者によってはあえてMac版は出さないというところもある。

Apple M1 Mac これまでのIntel CPU搭載MacとM1搭載Macを橋渡しすべく、Universal 2やRosetta 2、仮想環境などが提供される

 一方、CPUがIntel製ではなくなることから、Boot Campなどを使ってWindowsを利用することはできなくなる。

※記事初出時、ParallelsでWindowsが利用できる旨の記載がありましたが、本件について改めて調査中です。結果が分かり次第更新します(2020年11月12日22時30分)。
※仮想環境でのWindows利用については「AppleとParallelsともに、対応を鋭意努力中」とのことでした(2020年11月13日19時)。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月21日 更新
  1. 「こりゃ買えないわ」の声――ついに30万円突破の128GB DDR5メモリも (2025年12月20日)
  2. 3COINSで1万6500円の「10.1インチ タブレット」を試す 雑に扱える手軽さで、子供や大人の2台目に検討の価値アリ (2025年12月20日)
  3. 香港と深センのPC向けメモリ/ストレージ価格はどうなっている? 日本の状況と比べてみた (2025年12月19日)
  4. Thunderboltがあればメイン環境を持ち歩ける? 「ThinkPad P14s Gen 6 AMD」と外付けGPUユニットを試してみた (2025年12月19日)
  5. ナカバヤシ、小型トラックボールを内蔵した薄型ワイヤレスキーボード (2025年12月19日)
  6. PC版「ホグワーツ・レガシー」の無料配布が間もなく終了 累計販売4000万本突破、“ハリポタ”舞台のオープンワールド・アクションRPG (2025年12月18日)
  7. Steamで2025年最後の安売り「ウインターセール」開催中! 恒例の「Steamアワード」も投票開始 (2025年12月19日)
  8. スマートホーム“ガチ勢”向け「SwitchBot AIハブ」を試す 映像内の“出来事”をトリガーに家電操作できるAIカメラ実現 (2025年12月15日)
  9. 電源内蔵で配線がスッキリする「エレコム スイッチングハブ EHC-G08MN4A-HJB」が17%オフの4980円に (2025年12月18日)
  10. メモリは64GBキットを断念する空気感――128GBは何と20万円前後に (2025年12月13日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー