プロナビ

Appleはデータプライバシーを再構築できるか?:今日の惨状を明らかにした日本語電子冊子が登場(2/3 ページ)

» 2021年04月07日 22時00分 公開
[林信行,ITmedia]

スマホ登場前から果たしていたプラットフォーマーとしての責任

 プライバシーは何よりも重視すべきというジョブズ氏の2010年の言葉も虚しく、ちょうどその頃からIT業界から個人の行動を追跡して広告などを表示する「トラッキング」技術の濫用に火がつき始める。

 アプリに埋め込まれたコードから大量の情報を収集して売り買いするデータブローカーなる仕事が脚光を浴び、追跡、その他の個人情報収集が「アプリを無料で提供するビジネスモデルの上で仕方がないこと」と言う空気が作られ、どんどん加速していったのがそれからの10年だった。

 実はユーザーのプライバシーを何よりも重視するというAppleの姿勢は、iPhone登場のはるか前にも見てとることができる。他社がクッキーという技術を使ってユーザーの意図しないところで個人情報を抜き取らないように、2003年に誕生したSafariの最初のバージョンから初期設定でクッキーを受け入れない初期設定にされていたのだ。iOS 11とmacOS High Sierraからトラッキング防止機能「Intelligent Tracking Prevention」(ITP)が提供される。

 Webの技術を作った人たちは、理想主義で、その技術が個人情報の抜き取りに使われるなんて想定していなかった。そのため、彼らが用意したページが切り替わるたびにいちいち同じ情報を入れ直さないで済む便利な技術が、ユーザーの意図しないところで個人の趣味趣向を追跡するために悪用されるのを防げなかった。

 そこでAppleが導入したのが、悪質と思われるWebサイトを学習してインテリジェントに「追跡」を防ぐ技術だ。Appleは、同社が悪質と思うWeb上の追跡行為を研究し、それを無効化した。もちろん、追跡する側もやられっぱなしではない。Wi-Fi通信時に使うIDや、接続された周辺機器、あなたのMacにインストールされたフォント(字体)の種類まで、あらゆるものをヒントにあなたが誰かを特定して情報を盗もうとしかけてくる。

 しかし、AppleはSafari新バージョンの発表会のたびに、そうした手法1つ1つをネタバラシをして、そこへの対抗措置を発表し続けてきた。

 ユーザープライバシーを保護するWebブラウザなども登場していたが、アプリ1つ1つでプライバシー保護を行うよりも、全ての根っこであるOSの部分からプライバシー保護を行った方が効果的だ。

 AppleはOSというプラットフォーム(土台)を提供する会社としての責任を果たしたという高い評価を受ける一方で、広告に頼らないビジネスモデルだったからこそ、それを強みにできたといううがった見方も多い。

 実際、広告を収益モデルにしているOS提供会社には、最初の間はためらいがあった。しかし、その後はOS提供会社やソーシャルメディアの会社など、今日、プライバシー重視をうたわずに事業を続けている会社がないことを考えると、やはり、この十数年、そうした会社はユーザーから必要以上の情報を搾取していたと言えるのかもしれない。

Apple Privacy さまざまなユーザーデータを保護するApple

ネット広告の再定義

 AppleがSafariのITPを導入した際に、インターネット広告会社は「もう、これで我々のビジネスは終わりだ」と悲鳴を上げていた。しかし、その後、潰れるネット広告会社はなく、実際、彼らの多くは順調にビジネスを続けている。そもそもよく考えたら、「追跡」なんていう技術そのものが最近出てきたもので、実はネット広告ビジネスはその前から存在し十分うまくやっていた。

 Appleも、ネット広告そのものを全て否定しているわけではない。ユーザーのプライバシーを侵さない形であれば広告はしても良いと、広告効果を測定するための技術も無償で提供している。

 SKAdNetworkという技術は、広告を出した後、アプリが何本くらいインストールされたかを調べるためのアプリ開発者用技術だ(ただし、どんなユーザーがダウンロードしたかの情報は一切取得しない)。一方、Private Click Measurementという技術は、iOS 14.5と iPadOS 14.5のアプリに対応し、オンデバイス処理を利用することでデータ収集を最小限にしながら、ユーザーをWebサイトへ誘導する広告の効果を広告主が測定できるようにする。

 Appleが「プライバシー保護」をうたいつつ、こういった技術を提供するのが、ここ十数年の過剰な追跡に基づいた悪いネット広告の習慣を改め、もう1度、健全なネット広告の文化を再興させようという思いがあるのかもしれない。

 ただし、そうした健全な広告は応援するが、これまでのような追跡型の広告行為は一切容認しない。

 これまでWebページ→Webページの間でのトラッキングはITPが防いでくれていたが、一方でアプリが、他のどんなアプリを利用しているかを追跡したり、どんなWebページを見に行ったりしたかを追跡する、といった行為も行われている。

 近々、リリースされるiOS 14.5では、これがユーザーの同意なしではできなくなるApp Trackingという機能が搭載される。2020年6月に開催されたWWDC(世界開発者会議)で実装予定が発表されていた機能だ。

Apple Privacy ユーザーが自身のデータの扱いについて確認できるプライバシーラベル(右)。ユーザーがトラッキングの許可を確認する画面が表示される(左)

 iOS 14.5にアップデート後、ユーザー行動を追跡しているアプリを起動すると「このアプリがあなたの行動をトラッキング(追跡)しようとしている」との通知が現れ、許可するか否かを選べる。

 2020年、Appleが食品の成分表示のようなラベルで、アプリ1個1個がプライバシーデータをどのように活用しているかのラベル表示を義務付けた時には、いくつかのアプリが「ここまでたくさんのデータをのぞき見していたのか」とインターネットでも話題になった。

 今回も、この仕様変更が行われることで、ユーザーの知らないところでこっそり行動をのぞき見していたアプリは、そのことがユーザーにバレてしまうことになる。

 なお、確認を取るまでもなく追跡を許可しない、という人は「設定」アプリで「Appからのトラッキング要求を許可」という項目をオフにしておけば良い。なお、この設定画面でトラッキング(追跡)しようとしているアプリをまとめて確認し、アプリ単位で許可したり、拒んだりといったこともできる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年10月25日 更新
  1. “置き場所に困る”大容量ポタ電の壁を打破! 冷蔵庫を3日動かすEcoFlow「DELTA Gen4」シリーズが日本上陸 (2026年10月23日)
  2. 若者向けのカラフルな新「Dell 14S」が日本上陸 11月1日まで4.5万円引きの14万9800円から (2026年10月22日)
  3. 「Galaxy Watch9」を1週間使って分かったこと Pixel Watchと比べた使い勝手は? (2026年10月23日)
  4. FCCLが「FMV Keyboard X」の一般販売を開始 ハイスペックマウス「FMV Mouse X」も同時発売 (2026年10月22日)
  5. 折りたたみ型から薄型まで! スマホやタブレットで“本気”の文字入力に使える持ち運び用キーボードを選ぶコツ (2026年10月23日)
  6. 「iPhone Duo」を1週間使って分かった、全部盛りではない“上質さ” 心地いい開閉ヒンジの内部を見るために“非破壊検査”してみた (2026年10月21日)
  7. 天空が12月25日に発売する「GPD WIN Max 3」国内正規版 実機に触れてきた (2026年10月23日)
  8. 約22万円の新型「Mac mini」で初めてのローカルAI体験 ストレージの価格高騰対策にピッタリかも (2026年10月20日)
  9. スマホは「バッグの中」から「外」へ AULUMUのスリングバッグ2種で移動時のプチストレスを解消した (2026年10月22日)
  10. PFUから33万円キーボード「HHKB Professional Elite」登場! 英語配列のみで有線特化の“原点回帰” 全世界300台限定 (2026年10月22日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー