では、そのようなiMacのたたずまいの魅力に触れていこう。
保護カバーを取り、保護シールをはがすと乳白色のベゼルに囲まれた23.5型のディスプレイが現れる。形状はiPhoneよりちょっとだけ厚い約11.5mmの真っ平らな板だ。背面が美しいカーブを描いていたこれまでのアルミiMacとは、ここも違う。
今回のレビューで貸し出しを受けたのはブルーのモデルだ。ディスプレイ下のやや広い部分は控えめなパステル調の青色になっている。対して、アルミ素材の側面と背面はかなり鮮烈な青だ。
実はここも初代iMacと変わらない哲学、いや、全Apple製品共通の哲学である。Appleはデジタル機器で最も重要なのはディスプレイに表示される情報だと考えている。だから製品の外装がディスプレイの表示より目立ってしまい、仕事や映像鑑賞の妨げになるのは本末転倒という考えだ。一見、カラフルで派手に見える歴代のApple製品も、実は正面から見ると目立つのはディスプレイだけで、他は存在感が控えめで大人しい。
一方、側面や背面の考え方は全く異なる。iMacの背を壁に向けて置く人もいるが、会社のデスクや受付デスク、教卓、さらにはリビングルームの中央に置く人もいる。こうした場合、iMacは背面や横からも見られることになる。その際、部屋に存在する巨大な異物ではなく、むしろ、ユーザーが部屋に飾ったインテリアとして楽しめるようにするのが基本の考えだ。
主張をミニマルにし、他のインテリアと調和を図ったのがここ数年のiMacだが、新型iMacのシルバー以外のカラーバリエーションでは、iMac自体をユーザーが自らの好みで選んだ色のインテリアと見立てて、あえて主張の強い色で存在感を目立たせていて、どの色も鮮やかだ。
ミニマル志向の筆者は、鮮やかな色にひかれつつも、買うとしたら主張を抑えたシルバーかなと思っていた。しかし、今回、借りたブルーのモデルは、どうしても色付きモデルを選べない人が、一歩踏み出してカラーモデルを選ぶのにうってつけのモデルだと思えた。
というのも、光が当たっている場所は、確かに鮮やかな青なのだが、そうでない場所は黒かグレーなのではないかと見間違えるくらいに色が沈んで、それほど色の主張を強く感じない絶妙な色使いだったからだ。
本体の側面に目を向けると、左側面下部にヘッドフォン端子がある。のぞき込むと、端子の中まで本体色で塗られている。かなり真剣にのぞき込まないと中の色までは分からない場所だ。ヘッドフォン端子の色が何色だって、音質が良くなるわけでも、使えるアプリの種類が増えるわけでも、性能がアップするわけでもない。にもかかわらず、Appleはこんなところにまでこだわっている。なぜか。
思い浮かべてほしい。全員ではないかもしれないが、仕事に臨むとき、適当な服で仕事をするのと、気合を入れて選んだ勝負服を着て仕事に臨んだときでは、仕事に対しての向き合い方も変わってくるはずだ。
ここで「靴下の色だけ今日の服に合っていなかったかも」と気がつくと、なんだか急に不安になって仕事への自信も揺らいでくる。一方、靴下一つに至るまでうまくコーディネートできていると、それだけで気持ちも引き締まり、仕事への態度も変わってくる。
Appleは「こんなところは誰も見ないから」と緩んだ気持ちで靴下を選ぶメーカーではないということだ。
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