AppleがWWDC21で示した巨大プラットフォーマーの責務WWDC21レポート(1/3 ページ)

» 2021年06月09日 18時15分 公開
[林信行ITmedia]

 Appleの毎年恒例となる開発者向けイベント、WWDCが今年も開幕した。2020年に続き、完全オンライン開催だ。イベント冒頭の基調講演では、秋にリリースの5つの最新OS(iOS、iPadOS、watchOS、tvOS、macOS)、そしてプライバシー戦略の最新の発表といった予想通りの発表に加え、コロナ禍の社会を意識したかのような健康機能に関する発表、快適なスマートホームの実現、存在感を増すApple製品群のサブリーダー、AirPodsとHomePod miniの開発中機能についてもアナウンスがあった。

 とにかく盛り沢山な内容だが、今後、他プラットフォームも追随し、これから先5年くらいのデジタルライフスタイルの新たなスタンダードになりそうな内容ばかりだ。

WWDC 2021 Apple本社のApple ParkもWWDC21で彩られた

 1時間47分の基調講演ではあるが、日本語字幕も用意されている。デジタル社会がどこに向かっているのかを知りたい人には、ぜひ見てもらいたい。特に医療関係者には開始57分くらいから始まる「Health」のセクションは必見だろう(なお、大滑り感満載の冒頭3分は飛ばしてもいいと思う)。

 この記事では、基調講演で語られた全てを語ることはできないが、筆者なりの見方で振り返ってみたい。

WWDC 2021 WWDC21で基調講演の口火を切るティム・クックCEO

行政や他企業を巻き込んで未来の風景を作る

 最近のWWDCでは「今度のOSと言えばこの新機能」という見栄えよく、印象に残りやすく、派手な名前がついた新機能の発表をあまり見かけない。それに代わって存在感は控えめだが、生活の質をしっかりと本質から改善してくれそうな新機能が、驚くほどたくさん発表される形が多い。

 改めて言うまでもなく、パソコンやスマートフォンは今日の我々の仕事道具であり生活の道具だ。その設計がどうなっているかは、我々の仕事の質や生活の質に直接大きな影響を与える。

 それらを作っているプラットフォーマー企業には、話題を呼びそうな派手さよりも、我々のQuality of Life(生活の質)を高めるべく真摯(しんし)な議論を重ねていることが求められる。今回の一連の発表は、Appleがその能力について極めて優れている会社であることを改めて印象付けてくれた。

 生活の質を向上させる新機能の中には、昨今のAI(機械学習)技術の向上で実現したものもそれなりにあるが、それ以上に徹底した検証とデザインの洗練だったり、行政や他の企業と丁寧な話し合いだったりで生み出されているものも少なくない。

 実は、まさにこういう丁寧な開発こそ、ベンチャー企業にはできない大企業プラットフォーマーに求められる部分ではないかと思う。

 行政や他企業との連携の具体例から紹介しよう。

 最も分かりやすい事例は、iPhoneを運転免許証などの身分証明書代わりにする機能だ。

 新iOSのウォレット機能に追加される機能で、相手はNFCリーダーなどを使って正当性をチェックできる。これまでのラミネートカードの身分証明よりも圧倒的に偽造が難しいだろう。

WWDC 2021 iPhoneで運転免許証などを読み込み(左)、ウォレットで読み出しているところ(右)

 現在、Appleは、これを飛行機搭乗時の身分証明書として使えないか、いくつかの空港と交渉したり、米国のいくつかの州で、より広い身分証明に使えないか話し合いをしたりしているようだ。いずれ、こちらの方が信頼性も高く、簡単に身分確認ができるという認識が広まれば、用途や採用する機関もさらに広まるだろう。

 将来的には、運転中もiPhoneさえ持っていれば免許証は不要という社会も実現するかもしれず、その頃にはiPhoneを持っていればサイフを持ち歩かなくてもいいという未来が現実になっているかもしれない。

 同じウォレットには、車や家、そしてホテルの部屋の電子鍵、セキュリティーゲートを通るのに使える電子社員証を収納する機能も追加される。車ではBMWが2021年内に対応車を販売開始予定のようだ。自宅の鍵は家の錠前に対応させた電子ロックに切り替えれば使えるようになる。ホテルはAndazを含むハイアット系ホテル1000拠点以上が既に対応予定を表明しており、予約したホテルの鍵を電子的に受け取っておけば、フロントでのチェックインは不要で直接、自分の部屋に向かって鍵を開けることができる(こちらはwatchOS 8搭載のApple Watchでも利用できる)。

WWDC 2021 iPhoneやApple Watchを使って自宅やホテル、車の電子キーとして利用できる幅が大いに広がる。さまざまな企業が対応を表明している

 実は家の鍵とホテルの鍵は既に実現していた技術だが、これまでは電子ロックメーカーやホテルの独自アプリを利用していた。今回、これらの機能がOS標準として採用されたことで、今後、こうしたライフスタイルがさらに一気に広がることが期待できる。

 「他企業との連携」という視点で言えば、Appleが中心となってスマートホームを実現するIoT機器を標準化する標準化団体「Matter」についても紹介された。

 旧Zigbee Allianceが改名した団体だが、セットアップの簡単さや使いやすさで定評のあるAppleのスマートホーム機器のプラットフォーム「HomeKit」の技術がオープンソース化されたのを受けて、それを取り入れた標準となっている。開発されたスマート家電などのIoT機器は、AmazonのAlexaやGoogleのGoogleアシスタント、そしてAppleのSiriに対応する。

WWDC 2021 WWDC21では「Matter」についても言及があった。今後の普及が期待される

 なお、Appleだけあって、HomePod miniなどのSiriを通して使う際は、やりとりのデータが他社のサーバを経由することがなく、プライバシー保護の観点でも安心だと言うのが同社の主張だ。

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