ノートとしてMaxな性能を持つ新型MacBook Pro その速さの秘密に迫る新たなる表現者の出番を待つ(3/4 ページ)

» 2021年10月21日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]

速さの秘密は“古い常識”からの脱却

 Appleが、まだIntel製プロセッサをメインに採用していた時代の昔話をしたい。

 といっても、実は今はまだAppleにとって2年かかるとしている、IntelプロセッサからAppleシリコンへの移行期間の1年目だ。今やすっかり定着したM1プロセッサが出たのは、2020年11月のことなので、そんな昔ではない。

Apple MacBook Pro Apple M1、M1 ProとM1 Maxのダイサイズ比較。トランジスタ数はそれぞれ160億個、337億個、570億個と大きく異なる

 この前M1時代といえるPC業界では、最高性能のPCは、他社が発売する汎用プロセッサ(CPU)の中で最も性能が良いものと、他社が発売するGPUの中で最も性能が良いもの同士を組み合わせて作るものだった。実際、2019年に発表された16インチMacBook Proの前モデルも、IntelのCore i9というプロセッサと、最大8GBのグラフィックスメモリを搭載したAMDのRadeon Pro 5600MというGPUの組み合わせが自慢だった。

 これらのプロセッサは異なるメーカーの部品であり、PCの基板上でバスと呼ばれる回路を通して、これまた他のメーカーの提供によるDDR方式のDDR4メモリなどと相互接続されている。

Apple MacBook Pro クリエイター向けPCやゲーミングPCでは、CPUとGPUをそれぞれ別のチップで供給するのが一般的だ

 Appleシリコン(Apple製プロセッサ)の発想は全く逆だ。

 CPUもGPUも自社で1つのチップとして作り、さらにはデータの格納庫となるメモリも統合してしまえば、相互の通信もより速くなり、より優れたパフォーマンスが発揮できるのではないか。この仮説に基づいて設計され、驚異的なコストパフォーマンスを発揮したのが最初のM1プロセッサだった。実際にいくつかの製品に搭載し発売されると、それまでの価格性能比の常識を覆す驚異の性能を発揮し大きな話題となった。

 実際、PC業界中が注目する大騒ぎとなり、一時的だったがIntelの株価が大きく下落した。

 このような統合型チップSoC(システム・オン・チップ)が、ノートPCで採用されるのは初めてではなく、Intelが提供するプロセッサにもGPUを内蔵しているものが多い。しかし、これらは高価な他社製GPUを搭載せずにPCの価格を安く抑えたり、実装面積を少なくしたりするためのことが多く、プロが使うハイエンドノートPCは独立したGPUを使うことが、業界の常識となっていた。

 これに対して、M1 ProとM1 Maxは、統合型メモリの採用で驚きのパフォーマンスを実現したM1の実績を基に生まれたハイエンドノートPC用のSoCという、これまでの常識を覆すジャンルのチップだ。実際に製品を作ってみたことで、従来のハイエンドノートPCに対していくつもの大きなアドバンテージがあることが見えてきた。

 1つ目はパフォーマンスだ。これまでのようにCPUやGPUがバラバラの製品の場合、例えばグラフィックに対して何らかの処理を施す場合、基本的にGPU用のメモリにある画像データを一度、システムのデータにコピーしてから処理をして戻すといった形でデータの転送が頻繁に起きてしまう。これに対して統合メモリアーキテクチャのM1系プロセッサは、グラフィックデータを一箇所に置き、CPU、GPUや機械学習用のニューラルプロセッサがそのデータを直接処理できるため、データの移動という無駄がない。

Apple MacBook Pro M1 Maxのブロックダイアグラム。大容量の画像や動画データを処理する際に、左右にある共有メモリとCPU、GPUのやりとりをできる限り抑え、効率良く処理できるようにしている

 メモリ容量のアドバンテージもある。従来GPUに割り当てられるグラフィックスメモリは8GB程度で、かなり容量が大きいものでも24GB程度だった。

 ところが、統合型メモリのアーキテクチャでは、M1 Proが扱える最大容量の32GB、M1 Maxは最大64GBの容量まで扱うことも可能だ。

 もちろん、これだけの広大なメモリへのアクセスを実現するからにはバスと呼ばれる接続部の通信速度も重要だが、M1はバンド幅が68.25Gbpsだったのに対し、M1 Proは倍以上の200Gbps、M1 Maxはさらに倍の400Gbpsになっている。

 今回のスペシャルイベントではSF映画「スタートレック」に出てくる宇宙船エンタープライズ号のかなり精密な3Dモデルが紹介された。この3Dモデルのデータは容量が100GBもあり、その細部を確認する作業はこれまでのPCではほとんど実用的ではなかったが、これがM1 Maxの64GBメモリでは快適にできたという話が出ていた。

Apple MacBook Pro スペシャルイベントでは、エンタープライズ号の内部まで細かく描かれた映像が流された

 そしてもちろん、GPUを統合したSoCだからこそ、消費電力上のアドバンテージも出てくる。

 最大性能でWindowsの8コアプロセッサ搭載ノートPCと同じ電力を使った時に1.7倍以上の性能を発揮、あるいは同程度の性能を発揮させた際、消費電力は70%ほど低いという高効率な設計になっている。

 2020年末に登場したM1が、プロセッサのコストパフォーマンスの常識を覆し、PCの性能選びから「GHz」の表記を過去の遺物にしてしまったように、M1 Pro、M1 Maxは、これからの高性能ノートPCにおけるエネルギー性能比の常識を壊しにかかっている。

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