では、「外れた7割」について説明していこう。厳密には、予想が外れたというよりは、ICATの“作り”が予想の斜め上で「NVIDIAさん、そうきましたか……」と驚かされたという方が正確かもしれない。というのも、その名前とは裏腹に、ICATの実態は「動画再生ソフト」だったからだ。
「どういうこと?」と思った人も多いと思う。順を追って説明しよう。
ICATは、最大4つのビデオ(動画)を開いて、それらを作業ウインドウ内に自由に分割配置して、同時再生できる。各動画は任意のシーンの任意の箇所を拡大することができるようになっているので、ユーザーは、入力した最大4つの動画の画質を、自身の目視で比較できる、というわけである。なお、AIなどの力を借りて画質を自動採点するような仕組みは搭載されていない。
こう聞くと、当初の「FSRとかDLSSを有効化した時のGPUのレンダリング結果を比較するためのツール」という説明と、実際のICATの姿はだいぶ違うような気もするが、これにはいろいろと理由があるようだ。
まず、1台のPC(というか1つのGPU)でFSR、DLSS、ISS、FCASの全てを適用してゲームを動かすのは困難である。DLSSはGeForce RTXシリーズでないと動かせないし、ゲームタイトルによっては「DLSSが利用出来る環境ではFSRを利用できないようにする(無効化する)」という排他設計になっていることもある。
そうなると、GeForceを搭載するグラフィックスカードとRadeonを搭載するグラフィックスカードを取っ換え引っ換えしながら同じゲームを動かして、その映像を録画し、後で見比べるしかない。故に、ICATは「最大4つのビデオを同時再生できる動画再生ソフト」になったのである。
筆者は今回、「ICATを使ってみてレビューしてくれ」というミッションを受けた。そこでまず困ったのがどのゲームで試すかというタイトルの選定だ。
描画結果の画質を比較するということは、完全に同一のシーンを使う必要がある。ゲームはコントローラー(あるいはキーボードやマウス)を使って主人公キャラクターを動かしてプレイするものがほとんどだが、筆者の所有しているゲームはアクション性の高いゲームばかりで、「完全に同一のシーン」を再現することが難しい。
ICATで画質を比較する場合、録画するのは「ベンチマークモード」を備えるゲームタイトルがピッタリである。基本的に同一のシーンを用いてテストしてくれるからだ。
要件は他にもある。比較対象となるFSR、DLSS、ISS、FCASといった“全て”の技術に対応していることが望ましい。全ての技術に対応するタイトル探しは思いの外厳しく、マーケティング的な理由なのか、ほとんどのタイトルが「AMDの技術には積極対応しているが、NVIDIAの技術は消極対応」か「NVIDIAの技術には積極対応しているが、AMDの技術は消極対応」という“両極端”な対応状況である。
残念だが、筆者の手持ちのタイトルには、これら2つの要件を満たすものは無かった。
ただし、ICATの主目的は「DLSSの優位性のアピール」であるはず。そこで、筆者所有のタイトルのうち、DLSS対応でベンチマークモードも備える「Shadow of the Tomb Raider」(スクウェア・エニックス)を使って検証を進めることにした。アルゴリズム的にはISSとFSRと同系統なので、ISSを「仮想的なFSR」として見るのもありかと思う。
なお、Shadow of the Tomb Raiderは、仕様上はFCASにも対応していることになっている、しかし、筆者のPC環境ではRadeon RX 6900 XTを組み合わせても有効化できなかった(設定メニューが不活性となってしまう)。そして、なぜかGeForce RTX 3090でDLSSを有効化すると、FCASも利用できるようになるという不思議な振る舞いをしてしまう。故に、今回はFCASを使った検証は見送った。
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