NVIDIAは11月16日、同社のGPU「GeForceシリーズ」向けのコンパニオンソフトウェア「GeForce Experience」の最新版を公開した。その概要は、同日に公開した拙著で既に紹介している。
今回の新バージョンは、新しい超解像技術「NVIDIA Image Scaling and Sharpening(NVIDIA ISS)」の実装と、GeForce RTXシリーズ向けの超解像技術「DLSS(Deep Learning Super Sampling)」のバージョンアップが目玉なのだが、同社は合わせて「Image Comparison & Analysis Tool(ICAT)」なるツールを公開している。
この記事では、ICATがどのようなものなのかを紹介しつつ、ICATを使ってNVIDIA ISSと新しいDLSS(DLSS 2.3)の“実力”をチェックしていく。
「ICATとはどんなツールか?」という問いに対して、短く答えるとすると「ゲームにおける画質の比較を行うためのツール」という説明が妥当だろう。
しかしそうなると、NVIDIAは「このツールをGPUのレンダリング結果の正当性について、検証や自己検証するために作ったのかな?」とか「競合であるAMDの『Radeon』のレンダリング結果をこき下ろすために作ったのかな?」とか邪推したくなってしまう。15年以上前、両社は実際に“やり合って”いた時期があるので、特に後者については余計にいぶかしんで見てしまう。
結果的に、この予想は(自己診断だが)「3割くらいは正解、7割くらいはハズレ」ということになる。まず、「3割くらいは正解」について解説していこう。
AMDは2020年10月、Radeon RX 6000シリーズを発表した。そのタイミングで「うちにもDLSSのような超解像ソリューションがありますよ!」ということで披露されたのが「AMD FidelityFX Super Resoultion(FSR)」である。
なお、AMDは既に、2019年のRadeon RX 5000シリーズにおいてFSRの類似技術「AMD FidelityFX Contrast Adaptive Sharpening(FCAS)」を実装している。ただし、こちらは解像度変換には非対応で陰影の鮮鋭化に特化したものだった(参考記事)。
それだけに、FSRはRadeonユーザーにとって待望の解像度変換対応の超解像ソリューション……だったのだが、実際のリリースは2021年6月まで待つことになる。
さて、このFSRの動作メカニズムは、2010年前後のハイエンドTVがよく採用していた「超解像処理スケーラー」とよく似ている。具体的には、GPUがレンダリングした各フレームを入力画像として扱い、画像中の各ピクセル周辺の輝度変移などに応じて陰影補間を行いつつ解像度を変換していく。
実態としては、近代GPUのほぼ全てが採用している共通アーキテクチャである「プログラマブルシェーダー」の中の「Compute Shader」ベースで構築された(≒プログラムされた)ポストプロセス(あるいはポストエフェクト)と見なして良い。原理が原理だけに、RadeonだけでなくGeForceシリーズはもちろん、IntelのGPUでも動作可能ということにもなる。
多くのメディアは、FSRの「互換性の高い超解像技術」という部分に注目し、そのことを強調して記事をまとめている。それらを読めば、「FSRはRadeon以外でも使えるのに、DLSSはGeForce RTXシリーズでしか使えないんだ……」という感想を持つ人も少なくないかもしれない。
実際にそんな感想を持った人がいたのかは定かではない。しかし、“何でも必勝”を信条とするNVIDIAがそんな状況を面白いと思うわけがない。「いやいや、DLSSの方が全然高度なことをしているんですよ」と説得力をもって説明するにはどうしたらいいか――ICATの開発に至った背景には、そんなNVIDIAの思いも透けて見える。
ともあれ、同社は「FSR、DLSS、ISS、FCASをそれぞれ適用して同じゲームの映像を“しっかりと”見比べてほしい」と考えていることには違いない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.