ゲームの中で「レイトレーシング」はどう使われる? 実例を見てみようレイトレーシングが変えるゲームグラフィックス(第2回)(3/3 ページ)

» 2022年05月23日 12時00分 公開
[西川善司ITmedia]
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RTは実際にどう使うべきなのか?

 ラスタライズ法とレイトレーシング法を組み合わせたハイブリッドレンダリングでは、ラスタライズしてピクセル化した画面上の各ピクセル(に対応する3D座標)から3Dシーン内にレイを投げて、3Dシーン内の情報を回収することになる。

 最近は「4Kゲーミング」などといって、4K解像度(3840×2160ピクセル)のゲームグラフィックスがもてはやされる傾向にある。しかし、2022年現在における最高クラスのGPUでも、RTを絡めて30〜60fpsのフレームレートを“安定して”維持できるのはフルHD解像度(1920×1080ピクセル)が限界だ。

 フルHD解像度は、画素数に換算すると約200万ピクセルとなる。1ピクセルに対して1つのレイを投げるだけでも、合わせると約200万本のレイを投げることになる。この約200万本のレイが3Dシーンの情報回収して回るわけである。当然、1ピクセルに投げられるレイの数が多すぎれば、処理も重くなりすぎてリアルタイム動作に支障が出てきてしまう。

 先に挙げた4つのデモプログラムの中で、一番処理負荷が大きかったのはEpic Gamesの「Reflections Real-Time Ray Tracing Demo」である。このデモでは、1つのピクセルに対して影の生成で1本、鏡像の生成で2本、環境遮蔽で2本の計5本ものレイを投げている。描画はフルHD解像度なので、計算すると1920×1080×5=1036万8000本のレイが飛び交っているということになる。

 このデモの鏡像生成では、投げたレイが第三者のオブジェクトに衝突すると、そこからを起点に追加のレイを投げる「2バウンス処理」も行っている。つまり、状況によっては鏡像生成だけで1ピクセル当たり4本のレイを発するケースもある

 さらに、このデモにおける環境遮蔽は、フレーム単位でレイを投げる方向を微妙に変更し、8フレーム後に集約することで合計16本分のレイ情報を描画に反映するという手法を取っている。そのため、完全な環境遮蔽が画面に反映されるまでに8フレーム程度の遅延が生じてしまう。

 一般的なゲームグラフィックスでは当面、フルHD解像度でRTを利用する場合であってもレイの本数は1ピクセル当たり1桁台が主流で、良くて2桁台前半になりそうだ。

Reflections Real-Time Ray Tracing Demo

 ちなみに、映画用のCGレンダリングでは、1ピクセル当たり数千本から数万本以上のレイが投げられている。最近はゲームでの利用を想定して少ないレイ数で上質なレイトレーシング結果を得る技術も開発されているが、そのあたりの話は回を改めて取り上げることにしたい。

当面は鏡像生成のために用いられる?

 ここからは、いろいろなRT対応ゲームやデモプログラムを動かした経験則に基づいて、筆者の考察と推測を述べたい。

 ここ数年のGPUにおけるRT処理性能を鑑みると、浮動小数点演算のパフォーマンスが10TFLOPS台前半のGPUを備えるグラフィックスカードでは、RT処理できる表現要素は1個+α程度となる状況が当面続くと見ている。ちょうどPS5や「Xbox Series X」の内蔵GPUの演算性能も、まさにこのあたりにある。

 具体的にいえば「影」「鏡像」「環境遮蔽」「間接光」のうちいずれかにRTを使いつつ、限定的な場面でもう1つ使うという程度で、その他の描画は従来のラスタライズ法を用いて賄うことになりそうだ。先述の「ワンポイントリリーフ」的なRT活用法である。

 もしも4要素のうち複数の処理をRTで、しかも30〜60fpsで安定的に描画するとなると、少なくとも20TFLOPS級以上の演算能力を持つGPUが必要になるだろう。

GT5 PS5版の「グランツーリスモ5」では、「レイトレーシング優先」の設定を行うとリプレイやデモにおいてレイトレーシング処理をした映像を出力するようになる。ただし、そのように設定した場合でもゲーム本編ではレイトレーシング処理は行われない

 4つの効果のうち、1つしか処理できない――そのような状況でにおいて、現代ゲームグラフィックスは、どの効果を“優先して”レイトレーシングを使って描画すべきなのだろうか。費用対効果の面で考えれば「鏡像」だろう

 その理由は、リアル系ビジュアルをウリとするゲームをプレイしてみると分かる。鏡像表現が“不自然さ”を最も克服できていないのだ。よって、RTのリソースを鏡像表現に割くことで、描画の不自然さを大きく和らげることができる。

 実際、PS5やXbox Series X向けのゲームタイトルでは、鏡像表現にRT処理を適用するパターンが多い。もちろん、ゲームグラフィックスのスタイルによって優先順位は変わるとは思うが。

GT5 PS5版グランツーリスモ7で、レイトレーシング優先にした状態でリプレイモードを実行した際の画面ショット。画面外の黄色い「ホンダ・ビート」が、画面内の「マツダ・デミオ」の側面に映り込んでいる。この鏡像表現は、レイトレーシング法によるものだ。このタイトルでは、RTの処理能力を主に鏡像処理に割いている

 次回は、レイトレーシング法をゲームグラフィックスに用いたときに起こりうる技術的な問題と、その解消法への取り組みなどを見ていくことにしたい。

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