PC向けGPU(グラフィックスカード)はもちろん、家庭用ゲーム機でも一般的になりつつある「リアルタイムレイトレーシング(RT)」。前回は、レイトレーシングという技術のそもそも論と、Microsoftがレイトレーシングパイプラインを統合した「DirectX Raytracing(DXR)」をリリースしたことがゲームグラフィックスに与えうる影響について解説した。
今回は、RTを使うことによってゲームグラフィックスがどのように変わっていくのかを考察していく。
2018年のDXRの発表とほぼ同時に、ゲームエンジン「Unreal Engine」を手がける米Epic Games、米Electronic Arts(EA)の先行技術開発チーム「SEED」、技巧派のゲーム開発スタジオであるフィンランドRemedy Entertainment、そして3Dベンチマークソフト「3DMark」で知られる米UL(※1)が、このDXRのβ版を活用して、当時の最高性能のGPUを搭載したWindows PCで動作するリアルタイムデモを発表している。
ゲームではなく“リアルタイムに動くデモプログラム”ではあったが、4社共に「レイトレーシングをゲームグラフィックスに利用していくには当面はこうするべき」といった未来予想図を当時のゲーム開発者に示すには十分だった。「こんなことができる(かもしれない)」と夢や希望を与えるものにはなっていたと思う。
(※1)3DMarkを含むベンチマークソフトの開発チームは元々、フィンランドを拠点とするFuturemarkという独立した企業だった。同社はULにより買収されたが、ベンチマークソフトの開発チームは引き続きフィンランドに拠点を構えている
4社のデモプログラムには、共通点もあれば異なる点もある。
共通点は、全ての表現をRTで置き換えるつもりがなく、適材適所でラスタライズ法と組み合わせようという方針(考え方)だ。主立ったレンダリングは従来から親しまれているラスタライズ法で行って、ラスタライズ法では難しいレンダリングをRTで実践する――言い換えれば“いいとこ取り”あるいは“ハイブリッド”な活用法である。
この「ハイブリッドレンダリング法」は、スケーラブルなゲームグラフィックスを設計する上でもメリットが大きい。そのため、現在では1つのゲームタイトルを複数のゲームプラットフォームに対応させるための方策としても活用されている。例えば、GPUの性能が低いマシン上では従来通りのラスタライズ法だけの描画に留め、GPUが高性能なマシンではレイトレーシング法を積極利用する、といった具合だ。
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