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全ユーザーにAI PCを届ける――IntelのゲルシンガーCEOの新たな野望 今後10年で15倍に成長する「シリコノミー」とは?Intel Innovation 2023(1/2 ページ)

» 2023年09月26日 16時00分 公開
[西川善司ITmedia]

 Intelは9月19日から20日まで(米国太平洋夏時間)、コンピュータに関連する開発者や技術者を対象とするイベント「Intel Innovation 2023」を開催した。対象者が対象者だけに、各種講演の内容はディープなものだったが、パット・ゲルシンガーCEOが登壇した基調講演では、同社の技術的な取り組みや、新製品に関する発表も行われた。

 この記事では、ゲルシンガーCEOの基調講演から特に注目すべきトピックについて、解説を交えつつ紹介する。

ゲルシンガーCEO 2024年発売予定の「Arrow Lake」(開発コード名)の初期テストチップで使われる「Intel 20A」プロセス用ウエハーを手にするパット・ゲルシンガーCEO(画像提供:Intel)

半導体を中心に回る経済「Siliconomy」の提唱

 昨今の産業界におけるAI(人工知能)技術への関心の高まりは、IT業界に留まらず、一種の社会現象ともなっている、大きな経済圏、あるいは経済的なエコシステムを構築しつつある状況だ。

 今後、半導体業界がそのエコシステムの中核として大きな役割を担っていくのではないか――Intelはそう考えているようである。基調講演の冒頭、ゲルシンガーCEOが口にした「Siliconomy(シリコノミー)」という単語が、そのことを物語っている。

 語感からも分かる通り、Siliconomyは現代の半導体の材料となる「silicon(シリコン)」と、経済を意味する「economy(エコノミー)」を合成してできた造語だ。

Siliconomy Intelが提唱する「Siliconomy」という概念。わざわざ「名詞」であることや、その定義まで記されている。昨今のAIブームが、そのモチベーションとなっているようだ
Siliconomyの成長 ここ5年で、いわゆる「コネクテッドデバイス」の台数は4倍に増えた。そのことを背景に、同社はこれからの10年間でSiliconomyの規模が15倍になると考えている

 Siliconomyにおいて中心的な役割を果たすべく、Intelはハードウェアとソフトウェアの両面において自社の技術やソリューションを強く訴求していくという。ハードウェア面では、NPU(推論プロセッサ)を始めとするAIアクセラレーション機能を統合したプロセッサ製品を幅広く取りそろえ、ソフトウェア面では「OpenVINO」「OneAPI」といったニューラルネットワーク系のAI開発フレームワークの普及に努める。

 加えて、エンタープライズ向けには自社のTPU(機械学習プロセッサ)プラットフォームである「Intel(Habana) Gaudi」の普及を進めていくという。

AIプラットフォーム 自社が擁するプロセッサ(CPU/GPU/NPU/TPU)製品やAI開発フレームワークを普及させ、それらを使ったサービスを広げることでSiliconomyを拡大していく
Gaudiを進化させる Intelが買収したHabana Labsが開発したTPU「Intel Gaudi(Habana Gaudi)」は、第3世代(Gaudi3)に進化する

これからの時代に向けて「AI PC」を提案

 このSiliconomyにおいて重要なのが、一般的なPC(クライアント)でもAIを「当たり前の機能」として利用できるようにすることだ。そこでIntelが生み出したキーワードが、ずばり「AI PC」である。

 AI PCを普及させる“仕掛け”の第1弾が、12月14日に正式発表される予定の「Core Ultraプロセッサ」(開発コード名:Meteor Lake)である。

 Core Ultraプロセッサには、全モデルにNPUが搭載される。Intelは、今後のCPU製品へのNPU搭載を拡大していくという。

AI PC! 今後のIntelは「AI PC」推しを強化していくという
Core Ultra AI PCの“第一歩”は、Meteor Lakeこと「Core Ultraプロセッサ」で刻むことになる
Acer Core Ultraプロセッサを紹介するセッションでは、Acerのジェリー・ジャオCOOが登壇し、自社のモバイルPC「Acer Swift」の新モデルを披露した。Core Ultraプロセッサを搭載しており、同社のAI PC初号機となるようだ

 ゲルシンガーCEOは「約20年前、我々は『Centrino(セントリーノ)』という、高性能な無線通信(無線LAN/WiMAX)に対応するハイコストパフォーマンスのノートPCブランドを推進していた。これにより、Wi-Fi環境を普及させた。(同様に)全てのCPUにNPUを搭載することで、全てのユーザーにAI PCを届けることを目指したい」と述べる。

 かつてのCentrinoのように、AI PCもIntelお得意の“ステッカー戦略”を進めるのだろうか……?

Centrino かつて、Intelは自社製のCPU、Wi-Fi/WiMAXアダプター、チップセットをまとめて採用したノートPCに「Centrino」というブランドを付与していた(写真は、Core 2 Duo世代における「Centrino 2」)。AI PCも同じように訴求するのだろうか……?

デスクトップPCの「AI PC」化は2024年以降?

 別の記事でも触れたが、Core Ultraプロセッサはモバイル(ノートPC)向けCPUとして提供される見通しだ。現時点での情報を総合すると、デスクトップ向けの次世代CPUは、現行の「第13世代Coreプロセッサ」(開発コード名:Raptor Lake)の改良版になると思われる。

 ゲルシンガーCEOは今後のクライアントCPUのロードマップに言及し、デスクトップ向けCPUへのNPU搭載は、2024年末に登場予定の「Arrow Lake」(開発コード名)以降になると明言した。今後はデスクトップPCもAI PC化していくということである。

Arrow Lake 2024年末にリリースされる予定のArrow Lakeでは、デスクトップPCも「AI PC」にするという。つまり、デスクトップ向けCPUも含めてNPU搭載を推進していくということだ

これからIntelが推進するAI PCだが、具体的なユースケースが伴わないと利活用が進まない可能性もある。そのことを意識してか、今回の講演では具体的な使い方の説明もあった。

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