Mac向けのApple Siliconは、M1チップファミリーから数えて“第3世代”となった。登場から約3年が経過し、実際のアプリでの使われ方や、ユーザーの使い方のトレンドなどの蓄積がある程度できたことは間違いない。ゆえに、M2チップファミリーでは間に合わなかった、使われ方のフィードバックを実現した結果、ProとMaxの位置付けの変更が行われたのだろう。
具体的には、Proチップ搭載モデルで使われるであろうアプリ、あるいはユーザーの振るまいを検証した結果、PコアよりもEコアが活躍する場面が多く、結果としてより低い消費電力で効率良く処理をこなせるEコアの数を増やしたのだろう。
一方で、Maxチップ搭載モデルでは、処理をピチピチに詰めて並列化するような使い方をすることが多かったのかもしれない。ゆえに、Eコアを少し減らしてでもPコアを増やしたと考えれば合点がいく。どちらにしても、用途ごとの最適化を行った結果であることには違いない。
このことは、最終的に搭載する製品や用途ごとにSoCを設計する「Appleらしさ」が発揮された結果ともいえそうだ。
M3 Proチップについて、Eコア重視になってPコアが減ったからといって、CPU全体のパフォーマンスは低下していない。CPUコアの設計が大きく変わっていることから予想できることでははある(もちろん、実機でも確認したい)。
Appleによると、M3チップファミリーは、M2チップファミリーと比べてPコアは最大15%、Eコアは最大30%の性能向上を果たしたという。M1チップファミリーからM2チップファミリーへの移行時は、Eコアの処理効率こそ改善していたものの、CPU全体の処理パフォーマンス改善はそれほど大きくなかった(動作クロックの向上にプラスα程度)ことと比べると、大きな進歩といえる。
Eコアについては、電力効率(いわゆる「ワッパ」)も最大30%改善した。「Eコア」と言いながらも、そこそこ高い性能を発揮できそうだ。
今回のM3ファミリーでは、Pコアについても大きな性能改善が図られている。Eコアと合わせて、複雑な処理はより短時間に終える一方で、低負荷の処理はより効率良くこなせるようになった。M1チップファミリーのピーク性能を、M3チップファミリーなら半分の消費電力で発揮できる。
Intel Macからの乗り換えはもちろんだが、使い道によってはM1チップファミリーを搭載するMacからの更新を検討してもよいだろう。
こうした設計の最適化は、例えばメモリインタフェースにも見受けられる。
M1/M2チップファミリーでは、メモリインタフェースを「Proチップは無印(エントリー)チップの2倍、Maxチップは、そのさらに2倍(無印比で4倍)」と、単純かつキレイに拡張していた。当然、メモリの帯域幅(≒アクセス速度)もリニアに2倍、4倍と増えていた。
M3チップファミリーでも、このアプローチを取っても良かったと思うのだが、今回はM3 Proチップの帯域幅は無印チップの1.5倍(毎秒100GB→毎秒150GB)にとどまっている。M2 Proチップと比べると毎秒50GBも“狭く”なっている。
そしてM3 Maxチップにいたっては、CPUコアの基数によって帯域幅が異なり、下位の14コア構成では毎秒300GBと、M2 Maxチップから“据え置き”だ。上位の16コア構成では毎秒400GBと“広く”なったものの、無印チップの約2.7倍にとどまっており、今までのような大きな差はない。
なお、M3 MaxチップのCPUコアの基数は、メモリインタフェースの兼ね合いからか、メモリの容量とも連動している。14コア構成では36GBまたは96GBを選択可能で、16コア構成では48GB/64GB/128GBのいずれかを選べる。
必要なメモリ帯域は、CPU/GPUコアの処理スループットやアプリが扱うデータの量に依存する。「何がなんでも最大の帯域幅」ではなく、「実際の用途に最適な帯域幅」という最適化が行われたわけだ。
M3チップファミリーでは、GPUコアにも注目したい。
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