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新型SoC「M3ファミリー」でAppleが示した“進化と成熟”本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2023年11月03日 15時45分 公開
[本田雅一ITmedia]

 Appleが11月1日に発表した新型の「MacBook Pro」「iMac」では、SoC(System on a Chip)が「Apple M3ファミリー」に刷新された。

 MacやiPad(上位モデル)向けのApple Siliconは従来、台湾TSMCが保有する5nmプロセスで製造されていたが、第3世代のM3ファミリーは3nmプロセスとなり、回路の微細化が進んだ。3nmプロセスは、iPhone 15 Proシリーズに搭載されている「A17 Proチップ」では既に採用済みだが、Mac/iPad向けチップとしては初採用となる。

 M3ファミリーの主な仕様は公開済みで、前回のコラムでも触れている。やや重複する部分もあるが、本稿では改めてM3ファミリーについて掘り下げて見ていきたい。

 なお、本稿執筆時点ではM3ファミリーを搭載する新モデルをテストしているわけではなく、あくまでも取材を通して分かった範囲で述べる。この点はご了承いただきたい。

【訂正:11月7日22時】初出時、M2 Maxチップのトランジスタ数を誤って記載していました。お詫びして訂正いたします

概要 M3チップファミリーの概要

プロセスの微細化で増加した「トランジスタ」 使い道は?

 プロセスの微細化は、言うまでもなく同じ面積に集積(搭載)できるトランジスタ数の増加を意味する。

 エントリークラスの「M3チップ」では250億個、その上位に当たる「M3 Proチップ」は370億個、さらに上位の「M3 Maxチップ」は920億個のトランジスタを集積している。

 ここで注目したいのが、M2チップファミリーと比べた際のトランジスタの数の変化だ。

  • M3チップ:+50億個(200億個→250億個)
  • M3 Proチップ:−30億個(400億個→370億個)
  • M3 Maxチップ:+250億個(670億個→920億個)

 見れば分かるが、M3チップやM3 Proチップはトランジスタ数が増えている一方で、Proチップではむしろ減っている。この辺は、前回も指摘した「Pro」と「Max」の位置付けの変化を反映した結果なのかもしれない。

 M3 Proチップは、過去世代よりも「エントリーチップの強化版」という位置付けが強まっている。プロセスルールが微細化されたことも相まって、ダイのサイズは先代のM2 Proチップ比でかなり縮小されているだろう。将来的に、M3 ProチップはMacはもちろん、「iPad Pro」など一部のiPadにも搭載しようと考えている可能性がある。

模式図 M3チップファミリーのダイの模式図。3nmプロセス化によって同じ面積でより多くのトランジスタを集積できるようになったが、M3 Proチップは先代(M2 Proチップ)比でむしろ減少している

 このようなProとMaxの位置付けの変化は、CPUコアの構成比率の変化からも分かる。

 M3チップは、高性能コア(Pコア)が4基、高効率コア(Eコア)が4基の計8コア構成で、数字上はM2チップと変わらない。M3 Proチップは最大でPコア6基、Eコア6基の計12コア構成で、M3チップと同様にPコアとEコアの比率を「1:1」としている。

 M2 ProチップがPコアとEコアの比率が「2:1」(Pコア8基+Eコア4基)だったことを考えると、M3 ProチップのCPUパフォーマンスに不安を覚えるが、実際は処理効率の向上もあり、パフォーマンスは下がっていない(詳しくは後述する)。

 M3 Proチップにおけるトランジスタ数の“減少”は、主にCPUコアのバランス変更と、メモリインタフェースの帯域幅(≒チャンネル数)の削減による部分が大きいと推察している(この件も後述する)。

 一方で、M3 MaxチップのCPUコアは、最大でPコアが12基、Eコアが4基の計16コア構成とされた。M2世代ではProもMaxも「Pコア8基+Eコア4基」という構成だったことを考えると「Pコアを増やしたのね」という感想を持ちがちだが、M3世代で比べるとProからEコアが削減されていることは見逃せないポイントだ。M3 Proチップは「Pコア全振り」になったともいえ、M2世代とは明らかに考え方が変わっている。

ファミリー間の比較 M3 Maxチップは「最大16コアのCPU」とされているが、その最大構成は「Pコア12基+Eコア4基」となっている

 このようなバランス変更は、どのような背景で行われたのだろうか。

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