M3チップファミリーについて、AppleはGPUの刷新がもっとも大きい改良点とアピールしている。3Dグラフィックスの品質を向上する「レイトレーシング」「メッシュシェーダー」の処理をハードウェアベースで行うアクセラレーターを搭載した他、ユニファイドメモリを効率的に利用できるように、ハードウェアでの最適化を行う「Dynamic Caching(ダイナミックキャッシング)」が盛り込まれたからだ。
レイトレーシングは、光跡を演算で追いかけることで画素の色や明るさを決めるもので、複雑なライティングや反射する物体を正確に描ける。
メッシュシェーダーは、多くの頂点情報で構成される3Dモデルを、より簡素な計算でレンダリングするための効率的な仕組みといえばいいだろうか(詳しく説明すると極めて深いテーマなので、本稿では掘り下げることはしない)。
これらのハードウェアアクセラレーターを利用できるアプリでは、M2チップファミリーと比べて大幅なパフォーマンスアップを期待できる。例えばEPIC Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 5(UE5)」には、AppleのグラフィックスAPI「Metal」で、M3チップファミリーにおける両アクセラレーターを利用する機能を備えている。UE5を利用して開発されたMac(macOS)向けゲームタイトルは、M3チップファミリーの性能向上の恩恵にあずかりやすい。
例えばNEOWIZの「偽りのP(Lies of P)」では、4.5Kの24型ディスプレイをフルに生かしつつ、グラフィックスの画質オプションを「最高」に設定しても30fps程度の描画を維持できる。
MetalFX Upscaling(超解像設定)を「バランス」、グラフィック品質のプリセットを「中」に設定した場合、2240×1260ピクセル描画時のフレームレートは54fps程度まで向上する。MetalFX Upscalingをさらに一段階引き下げれば、見た目には大きな変化なく安定して60fpsを引き出せるようになる。
なお、Metalを用いるアプリのパフォーマンスは、macOSのターミナルのコマンドラインから「Defaults write -g MetalForceHudEnabled -bool yes」とタイプすると出てくるオーバーレイ表示から確認できる(消したい場合は「Defaults write -g MetalForceHudEnabled -bool no」とタイプする」。
偽りのPは、GPUへの要求が決して高すぎるゲームではない。しかし、M3チップ搭載のiMacでこれだけ遊べれば、満足するユーザーは多いのではないだろうか。
今回の評価機は、16GBメモリ構成の10コアGPUモデルだった。そのため、これが8GBメモリ構成、あるいは8コアGPUモデルになると、これとは異なる結果になるかもしれない。しかし、評価機を試した限りは、偽りのPにおいてコマ落ちや画質上の制約は一切起きなかった。
これは、GPUの処理を止めずにGPUが利用するメモリ容量を動的にコントロールするDynamic Cachingが有効に働いたからであろう。UE5ならではのライティング表現なども美しく表現される。
現時点ではMetalネイティブのMac向けゲームは、あまり多くない。しかし、UE5を使った本格的なゲームが、ベースグレードのM3チップ搭載モデルでも快適に遊べるとなれば、今後の普及ペースによってはUE5を使って開発されたゲームのMacへの移植が進むかもしれない。
3Dグラフィックスベンチマークテストアプリ「3DMark」のiOS/iPadOS版には、レイトレーシング描画を行う「Solar Bay Unlimited」というテストが実装されている。これを評価機で実行してみたところ、M2チップを搭載する「15インチMacBook Air」と比べてフレームレートが42〜59%改善した。ハードウェアでレイトレーシングを高速化する効果は“てきめん”といえそうだ。
「59%」という数字は、Solar Bay Unlimitedを動かす3ループの平均値によるものだが、冷却ファンの無い15インチMacBook Airでは、3ループ目の性能落ち込みが大きくなる。
「42%」という数字は、ピーク性能が出る1ループ目の数字で、こちらの方が実力値を反映していると考えられる。
ここまで見てきても分かる通り、M3チップのポテンシャルは思った以上に高い。従来の「Pro」チップが担っていた役割をある程度カバーできそうだ。
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