では、ONEXGPUによってPCの性能はビジネス用途でどれくらい向上するのだろうか。今回はUL BenchmarksのPCMark 10を使用した。PCMark 10はPCのアプリケーション実行における総合的なパフォーマンスを計測するベンチマークツールだ。
今回はEssentials、Productivity、Digital Content Creationの3つのカテゴリーで計測を行う。Essentialはアプリの起動(App Start-up Scode)、ビデオ会議(Video Conferencing Score)、Webブラウジング(Web Browsing Score)、Productivityはスプレッドシート(Spreadsheets Score)、ワープロ(Writing Score)、Digital Content Creationは写真編集(Photo Editing Score)、3Dレンダリング(Rendering and Visualization Score)、映像編集(Video Editing Score)の速度を測定する。
計測機材にはデル・テクノロジーズの「XPS 13 9380」(Core i5-8265U、メインメモリ8GB、Windows 11)を用いる。内蔵ディスプレイのみ、4K外部ディスプレイ2台(内蔵ディスプレイオフ・CPU内蔵グラフィックス機能)、4K外部ディスプレイ2台(内蔵ディスプレイオフ・ONEXGPU 100W)、4K外部ディスプレイ2台(内蔵ディスプレイオフ・ONEXGPU 120W)の4パターンで計測を行った。
古いモデルであるためにスコア自体が見劣りするが、相対的な傾向として見ていこう。内蔵ディスプレイでの速度を基準とすると、CPU内蔵グラフィックス機能のみで4K外部ディスプレイ2台を接続した場合には、トータル18%程度の速度低下が見られた。特にVideo Conferencing Scoreは著しく、約34%も低下している。Teamsを使ったオンライン会議が重たくなるのも納得のスコアだ。
一方、ONEXGPUを使用するとトータルで約50%の速度アップとなった。GPUであるだけにRendering and Visualization Scoreでは230〜270%という大幅な高速化が見られたが、それ以外のEssential、Productivityでも内蔵ディスプレイより10〜30%高速という結果になっている。
PCMark 10の基準スコアは簡単な作業を行うための一般的なPCの場合、Essentialsで4100以上、一般的なオフィス作業や簡単なメディアコンテンツ制作の場合、Productivityで4500以上、写真、動画、その他のデジタルコンテンツ編集の場合、Digital Content Creationで3450以上とされている。
内蔵ディスプレイでも簡単な作業がやっとだったモデルでも、ONEXGPUを利用すればデジタルコンテンツ編集がこなせるパワーアップが図れることになる(Productivityはぎりぎり足りないという逆転現象にはなっているが)。
また、ONEXGPUはThunderbolt以外にOCuLinkでも接続できる。OCuLinkはThunderbolt同様にPCIeを外付け可能にすることを目的としたインタフェースだ。
コントローラーを必要とするThunderboltとは異なり、PCIeの配線をそのまま引き出した、良くも悪くもシンプルなものとなっている。XPS 13にOCuLinkポートはないので、One-Netbook Technologyの「ONEXPLAYER」でThunderboltとの違いを計測した。
顕著な差が出たテストはPhoto Editing Scoreで、OCuLinkとThunderbolt 4の差は25%程度だったものの、その他のテストではわずかな差にとどまった。Photo Editing Scoreはメインメモリとグラフィックス用メモリ間の転送量が多く、Thunderboltコントローラーのオーバーヘッドが影響しやすいテストだったということだろう。
ONEXGPUによるパフォーマンス向上は十分期待に応えるレベルだった。ただし、10万オーバーという、下手すればもう一台本体が買えてしまう金額は、社用PCにかけるにはちょっと高額かもしれない。もっとも、複数のノートPCを使っているのであれば使い回しもできる。
この「高性能なグラフィックスボードを複数のPCで使い回す」というのはあまり想像していなかった光景ではないだろうか。
ノートPCの小型化や軽量化に寄与した技術は数多くある。HDDからSSDへの移行、それに続くM.2スロットの採用は速度だけでなく物理容量面でも大きなアドバンテージとなった。CPU内蔵グラフィックス機能は基板実装面積の縮小に直結したし、USB Type-CやDisplayPort Alternate Modeはインタフェースの種類を減らしても利便性を維持することができた。
そして、Thunderbolt/USB4の20Gbps〜40Gbpsにも達する高速性は、内部接続に限られていたインタフェースを筐体外部にまで延伸し、ノートPCに今までに無い拡張性をもたらすことに成功した。
過去にはデスクトップPCを置き換えることを目的とした「デスクトップリプレイスメントモデル」というジャンルの大型ノートPCが存在したが、持ち運ぶには不向きで、デスクトップほどの拡張性がなく、程なく廃れていった。
真のデスクトップリプレイスメントはThunderbolt/USB4で実現されるのかもしれない。
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