1月7日(米国太平洋時間)、LenovoがCESに合わせて新型ノートPC「ThinkPad X9」を発表した。14型の「ThinkPad X9 14 Gen 1 Aura Edition」と、15.3型の「ThinkPad X9 15 Gen 1 Aura Edition」の2サイズから選べる。日本でも既に発売されており、直販サイトにおける最小構成の価格は14型が18万8980円、15.3型が20万3995円となる。
このThinkPad X9だが、気になるポイントが大きく2つある。ThinkPadのアイデンティティーでもあるポインティングデバイス「TrackPoint」がないことと、「X9」という名称だ。名前的にはフラグシップの「ThinkPad X1」シリーズを意識していると思われるが、なぜ“9”なのかが気になる。
同社は2月26日、アジア太平洋地域の報道関係者向けにLenovo Aura Editionを説明するイベント「Discover Lenovo Aura Edition AI PCs」を開催した。このイベントでLenovoのトム・バトラー氏(ワールドワイドコマーシャルポートフォリオ/製品マネジメント担当エグゼクティブディレクター)に質問する機会を得た。ThinkPad X9に関する気になることを聞いてみよう。
14型の「ThinkPad X9 14 Gen 1 Aura Edition」。アジア太平洋地域向けのイベントいうこともあって、今回はイベント会場では全ての展示機が米国英語(US)キーボード構成だった
イベント参加者向けに実施されたレノボ・ジャパン横浜事業所(大和研究所)の見学ツアーでは、ThinkPad X9 14 Gen 1 Aura Editionの日本語キーボード構成(左)とイギリス英語キーボード構成(右)も展示されていた(日本ではイギリス英語キーボード構成は未発売)LenovoはCore Ultra 200Vプロセッサ搭載ノートPCに「Lenovo Aura Edition(レノボ オーラエディション)」というサブブランドを付けて展開している。このサブブランドはコンシューマー/コマーシャル(ビジネス)の両ラインで展開されており、2025年2月時点では以下のモデルが展開されている(★印の付いているものは日本未発売)。
Aura EditionのノートPCはLenovoがIntelと共同開発したことが特徴だ。共同開発のキックオフは2022年で、同年内にレノボ・ジャパンの横浜事業所(大和研究所)内に共同研究ラボが設置された。以来、両社は製品のあらゆる側面で共同検討を進め、製品化に至ったのだという。
Lenovo Aura Editionに関する年表。大和研究所史観で書かれているためタイムラインはコマーシャル製品(ThinkPad)中心だが、コンシューマ製品(Yoga)に関する検討も並行して進められてきた
ThinkPad X1 Carbon Gen 13は最軽量構成で1kgを切る重量となったことが特徴だが、軽量化には基板(マザーボード)の層を10層から8層にしたことも貢献している。その際に、Intelとの共同開発体制が役立ったというコマーシャル製品におけるAura Editionは、フラグシップ製品であるThinkPad X1と、この記事の主役であるThinkPad X9の2シリーズで展開されている。新機軸はあるものの、ThinkPad X1シリーズは「従来のThinkPad(Classic ThinkPad)」の延長線上にあるといえるが、ThinkPad X9シリーズは従来のThinkPadにない要素を複数採用している。
開発の初期段階(2023年第2四半期)時点において、ThinkPad X9シリーズはファンレス設計とすることを検討していたという。その過程で、基板上の主要部材(SoC、メモリなど)を一定の範囲内に収めて効率的に放熱を行う「Engine Hub(エンジンハブ)」という機構のアイデアも生まれた。
AI(≒NPU)のパフォーマンスを重視する観点からファンレス設計は見送られたものの、Engine Hubはそのまま採用されることになった。次に行われたのが、集中した部材をどうやって効率良く冷却する方法の検討だ。
そこで採用されたのがが「Flex Cooling(フレックスクーリング)」という機構だ。これは2基の冷却ファンをほぼ左右対称に配置して効率良く部材を冷却する仕組みだ。Flex Cooling自体は既にThinkPad Pシリーズ(モバイルワークステーション)の一部モデルで採用されているが、ThinkPad X9シリーズでは底面カバー(Dカバー)の形状を工夫したり、部材の配置や形状を工夫することによってよりコンパクトな冷却ファンでも確実な冷却パフォーマンスを得られるようにした。
ThinkPad X9シリーズの底面カバーは、ちょうどEngine Hubの部分だけ盛り上がっている。よく見ると、冷却ファンが配置される場所の一部に大きな吸気口が設けられている。この工夫により、比較的コンパクトなボディーでもFlex Coolingシステムを採用できたという
排熱が余計な場所に漏れ出さないように、Engine Hubにはスポンジによる“壁”が設けられている。また、2つのファンをつなぐヒートスプレッダーの中央部にある三角形の部材は、左右のファンによる排気がぶつかり合わないようにするためのものだハイブリッドワーク時代に合わせて、ノートPCでは内蔵スピーカーやWebカメラの品質を問われることが多くなってきた。ThinkPadでも、ここ数年はこれらの進化に注力してきた。ThinkPad X9シリーズもその点で同様だが、薄型を目指したことによる困難もあった。
その1つがスピーカーだ。従来のThinkPadではスピーカーをボディーにネジ止めしているのだが、スピーカーにネジ穴を設けるとスピーカーのサイズが小さくなり、音量を出しづらくなってしまう。よりコンパクトなThinkPad X9(特に14型モデル)では、その影響が甚大だ。
そこでThinkPad X9シリーズでは、スピーカーを「ファイバーロック」(面ファスナー)で固定するという工夫に打って出た。これはPC業界では初めての取り組みだという。これにより、本体とスピーカーの両方にネジ穴を用意する必要がなくなり、スピーカーのサイズを大きくできる。
そして副次的効果として、ネジによる着脱が不要となるため、スピーカーの交換修理が楽になったそうだ。
ThinkPad X9シリーズレビューでは、スピーカー固定用のネジが見当たらない。単にファイバーロックで固定しているだけなので、すぐに外せる(灰色のバッテリー左右にあるネジは、バッテリーの固定用でスピーカーとの共締めはないThinkPad X9シリーズでは、Webカメラにも注力している。通常、PC用のWebカメラにはPC用のカメラセンサーを使うことが多い。その点、本シリーズではよりピクセル(画素)サイズの大きいスマートフォン向けと同等のカメラセンサーを採用している。
このWebカメラは、周辺の画素をひとまとめにすることで集光能力を高める「ピクセルビニング」にも対応しており、特に照明輝度の低い環境でもより鮮やかに撮影できるようになった。“同等”という面が気になるかもしれないが、一般にスマホ向けのカメラセンサーはノートPCのベゼルに搭載するには巨大過ぎるので、縦方向のサイズを小さくしてもらったそうだ(同様の理由でレンズもカスタマイズを施している)。
ソフトウェア面でも工夫をすることで、ビデオ会議の相手によりきれいな映像を届けられる。
スマートフォン用と同等のカメラセンサーを用いることで、画質を改善してる。なお、X9シリーズは顔認証にも対応しているが、顔認証用の赤外線カメラは別体となっており、投光ユニットと合わせて1つの基板上に実装している
ちなみに、大和研究所ではWebカメラの品質を高めるために「イメージングクオリティーラボ(IQL)」を新設した。このセットは「DxOMark」が提供しているHDR撮影テストソリューションで、これを参考にしてさまざまな人種(肌の色)の人でも高品質に撮影できるように調整を施しているというこのように、ThinkPad X9シリーズは、従来のほとんどのThinkPadと同様に日本で開発されたグローバルモデルだ。しかし、冒頭で触れた通り「ThinkPadらしくない」部分もある。それはどういう理由なのだろうか。
「TrackPointなし」「サンダーグレー」のプレミアムThinkPadに「伸びるディスプレイ」搭載ThinkBook――LenovoがAI時代の新ビジネスノートPCを投入
Lenovoが「Copilot+ PC」準拠のAI PCを一挙投入 Core Ultra 200V搭載モデルは「Aura Edition」に
レノボ、ビジネスノート「ThinkPad」からCore Ultra採用モデルなど計14シリーズを投入
「ThinkPad」2024年モデルは何が変わった? 見どころをチェック!
なぜ高い? 59万円超のフォルダブルPC「ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1」の秘密に迫るCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.