Apple Intelligenceの3つ目の特徴は、その本質が番頭型AIであることだ。
多くのAIサービスが、どんな仕事でもこなす汎用(はんよう)型のAIを作っているのに対して、Apple Intelligenceで核になっているのは、ユーザーからどんな仕事を振られたかを見て、この仕事ならばiPhone単体で処理ができるとか、この仕事は少し複雑だからプライベートクラウドコンピュートというサーバ上で処理した方がいいとか、これは複雑なテキストのやり取りだから、こういう仕事はChatGPTに外注した方がいいとか、仕事の内容と適性を見て適材適所でそれを他に振っていく番頭さんのような機能があることだ。現在の外注先はChatGPTだけだが、今後、他のAIと連携する可能性もある。
ひっそりと公開されたAIモデル「MGIE」など、いくつか学術的評価の高い画像生成AIを開発してきたAppleだが、今回から利用可能になった画像生成機能のImage Playgroundやジェン文字では、これらのMLLM(Multimodal Large Language Model)に仕事を振っているようだ。
汎用性の高いChatGPTは既に述べた作文ツールに加え、Siriにちょっと難しめのことを聞いた場合やビジュアルインテリジェンスからも頻繁に用事を頼まれている。
なお、ChatGPTは間違った答えを出すことも多い「Appleブランド」ではないサービスだ。その品質には責任が負えないと言わんばかりに、Apple IntelligenceがChatGPTに仕事を外注するときは毎回必ず「ChatGPTを使用しますか?」とユーザーに確認を取る。
既にChatGPTに加わる新たな外注先のウワサがいくつかあり、人気対話型LLMのClaudeの名前も上がっているが、処理の外注先はAIとは限らず、今後はアプリもApple Intelligenceと連携できるようになる。
例えば、路線検索アプリに「インテント」という仕組みを追加すれば、Apple Intelligenceが、そのアプリの知恵を拝借してユーザーに聞かれた駅への乗り換え情報を教えられるようになる、といった具合だ。
このようにApple Intelligenceは時間の経過と共にAppleによっても「新たにできること」が追加されれば、他社によっても「新たにできること」が追加されていく。
5年後くらいには、おそらくどんなことを頼んでも一通りこなしてくれるように進化するのだろうが、それまでの過渡期の間、Apple Intelligenceに何ができて何ができないかを、いかにユーザーに把握させるかはAppleにとって大きなチャレンジになるだろう。
Apple Intelligenceの4つ目の特徴は、プロンプト不要でとにかく簡単に使える設計になっていることだ。
1984年、マウスでの操作を一般に広めた初代Macの誕生は、それまでの“呪文のような命令語”をうまくタイプしてくれる人しか使えなかったMS-DOSやApple IIなどのパソコンとは異なり、そもそもどんな操作ができるかが全てメニューとして表示されており、誰でも数十分で基本操作を把握できるようになっていた。
これまでのAIとApple Intelligenceへの移行でも、同じような使いやすさの革命を起こそうとAppleは思っているようだ。
例えば作文ツールを使った文章の清書も、あらかじめパレットによく使うであろう清書のパターンがメニューとして用意されているので、プロンプト的なものを一切書かずにワンクリックで清書も行える。
一方、画像生成のImage Playgroundも元にする写真を選んだり、背景やアクセサリーなどをクリックして選んでいくだけで画像が生成される。一応、プロンプトの入力欄のようなものもあるが、ここにいくら「シンプルな線画で猫の絵を描いて」といったことを書き込んでも、ちゃんと反映されるのは何を描くかだけで、「シンプルな線画」といった部分は全て無視される。
どのようなスタイルの絵になるかは、Image Playgroundの画面の下にある「スタイル」で決定される。現段階では「アニメ」「イラスト」「スケッチ」の3種類が用意されているので、これを使って切り替える。
このアプローチの強みは生成した絵を並べた際に、全てが同系統のスタイルでそろうことだ。
ただ、用意されている3つのスタイルのどれもあまり好みでない筆者のような人間には、全く使う気になれないツールとなるかもしれない(これについては後述する)。
作文ツールのパレット。一番上がプロンプト欄で、その下によく使う「校正」と「書き直し」、その下に区切りで分けて文体変更(フレンドリー/プロフェッショナル/簡潔)、さらに区切られて文章情報の変換系機能(要約/要点/リスト/表)、そしてChatGPT連携の「作文」が並ぶ。機能を全て並べるのではなく、何が大事で、何がそうでないかの優先順位を見極めて強弱を付ける。これこそが「デザインの仕事」だImage Playgroundではプロンプトを打つこともできるが、基本は撮影しておいた写真を選んで、そこに背景(ディスコ、山、星空など)や身につけたいアクセサリー(帽子、スカーフ、サングラスなど)をクリックで追加していくだけだ。ほとんどキーボードを使わずに絵を生成できる。
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