「Apple Intelligence」は何がスゴくて、何がいまいちなのか?(4/4 ページ)

» 2025年04月03日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]
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徹底したプライバシーへの配慮がベース

 そしてApple Intelligenceの5つ目の特徴は、AppleのハードやOSがそうであるように、とにかくプライバシーを最重要視した設計になっていることだ。新しいSiriをiPhoneで呼び出すと、画面の縁がカラフルに輝き始める。この光がついている間は、ユーザーとのやり取りを覚えているので「シンガポールの人口は?」と聞いた後、続けて「マレーシアは?」と聞いても答えてくれる。しかし、この光が消えると、Siriの記憶も消える。

 同様に、ユーザーが知らない間に勝手に利用されることがある、サーバ上のAI処理、プライベートクラウドコンピュートも同様に処理が終わったら即座に記憶が消され、その痕跡が残ることがない。

 AppleではないChatGPTに外注した処理でも、ChatGPTにいちいちやりとりの内容を忘れさせるように配慮をしているようだ。

 2024年のWWDC(世界開発者会議)では、いずれApple Intelligenceがカレンダーの予定も参照して、割り込んできた予定によって子供を迎えにいく時間がどう変わるかなどについてアドバイスをするシチュエーションが紹介された。

 残念ながら、まだ英語圏のApple Intelligenceでもそこまではできないが、いずれできるようになった時、この情報が、しっかりとプライバシーが守られていないと自分の予定や居場所、子供が何時にどこにいるかといった情報までがハッカーなどの手に渡る危険があり安心して仕事を任せられない。

 それだけにAppleは「そんなところまで?」と驚くような細かなところまで、時には少し使い勝手を犠牲にしてまでプライバシーの保護にこだわっている(例えば前回Siriに伝えた内容は覚えていないし、自分の趣向なども学習してくれない)。

 ここまで徹底してプライバシー保護に細心の注意を払っている、だから他の会社では提供できない、最もプライベートな事柄についてもアシストが可能になる、というのがAppleのAIに対する考え方だ。

今後はもっと文化的にニュートラルな方向に進化してもらいたい

 ここまでの5つの特徴は、いずれも素晴らしく、AI系サービスの中でもApple Intelligenceをユニークな存在として際立たせているが、もちろん、いいことばかりではない。

 まずは先にも触れたが、一体どんなことができるのか全体像がつかみにくいことだ。ただ、それで言えば、これまでもそもそもOSにどんな機能が用意されているかも手探りだった。

 プロンプトを打ってみないとできるかできないか分からない対話型のアプローチよりも、あらかじめできることがメニューやアプリとして用意されている分、Apple Intelligenceの方が分かりやすいという人もいるかもしれない。例えばビジュアルインテリジェンスなどの機能は、現時点ではまだ日本語ではお店の情報などを調べることができないが、今後、突然そうしたことができるようになった場合、ユーザーはそれをどのようにして知るのだろう、という疑問がある。

 個人的に、それ以上にApple Intelligenceで一番残念なのは、画像生成のImage Playgroundだ。

 プライバシー保護など、さまざまな理由からできるだけデバイス上での処理に重点を置いているため処理能力が低く、他の描画AIと比べると描ける絵の質が低く、iPhoneを描かせてもAndroidのようになり、Apple Vision Proが他社の安価なゴーグルのように描いてしまうことはある程度は妥協しよう。

 だが、個人的な好みの問題もあるのかもしれないが、現在のImage Playgroundで生成される絵柄のスタイルが、アメリカンテイストが強めで文化の押し付けを受けているように感じる。できれば、もっと多彩なスタイルを提供するか、開発者が独自の描画スタイルをプラグインとして提供できるようにしてもらいたい。

 そもそも最初からアクの強いスタイルを搭載するのではなく、最初はできるだけニュートラルなところから始めて、後から個性の強い絵柄をプラグインで追加すべきだったと思う(どっちの順番にするかで大きな差が生まれると思う)。

 この辺り、最近のAppleは鈍感になって、普通のアメリカ企業になってきた印象を抱くことが最近増えている。ミー文字(Memoji)やジェン文字にも同じ印象を持っていれば、iPhone 16eのTV CMなどにもそれを感じている。

 初代iPhoneが登場した当時などは、世界中の人に受け入れてもらえるように、できるだけ「やり過ぎない」ことを心がけ、製品のあらゆる側面が洗練に洗練を重ね、誰にも受け入れられる中立かつミニマルな表現に抑えられていた。

 スティーブ・ジョブズ氏が存命中の時は、ピカソが「雄牛」という作品を描くにあたって行った絵のシンプル化のプロセスを社員に見せて、いかに「削ぎ落とすか」を教えていたというのは有名な話だ。ジョブズ氏は亡くなる直前に、「自分が生きていたらどうしたかは考えず、とにかくベストを尽くせ」と言い残したのは有名な話で、ティム・クックCEO体制のAppleは、いくつもの新しいやり方を生み出して成功しており、それは評価している。

 ただ、Appleはグローバルで影響力が大きい企業だし、毎年数億台単位で売れる自社の製品がそのユーザーにどのような文化的な影響を与えるかに関してだけは、かつてのセンシティブさを取り戻してもらいたいと思っている。

 とはいえ冒頭でも触れた通り、現状はまだまだApple Intelligenceの初期バージョンだ。これからApple Intelligenceの機能は、おそらく10年くらいかけてどんどん進化していくので、3年後くらいには、この記事で書いたような心配事も全て解消されている可能性もある。少なくとも、世界中が今のImage Playgroundの絵柄に世界中が慣れてしまうのではなく、もっと自分の文化的背景や個性を表現するためにApple Intelligenceを活用できている未来を期待したい。

Image PlaygroundにiPhoneを描かせたら、他社製のスマホのような絵が出力された。Apple Vision ProとMac miniの写真を読み込ませて描かせたら、他社のVRゴーグルのような見た目になった。正直、Image Playgroundの品質はまだまだ低く、Appleブランドを冠して出荷していいレベルには達していないと思う。ただし、半日後には出力結果が変化して今度はApple Vision Proがヘッドフォンのように描かれるようになった。このように絶えずアルゴリズムが進化しているのも事実だ。それだけに同機能には「β版」と銘打たれている
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