Sound Unitedの買収について、HARMANのデイブ・ロジャーズ氏(ライフスタイル事業部プレジデント)は「ホームオーディオ、ヘッドフォン、ハイファイ(高品位オーディオ)、カーオーディオといった主要カテゴリーにおける事業の足跡を拡大する戦略的ステップだ」と表現している。
これまでカーオーディオとポータブルスピーカー、ヘッドフォン、イヤフォンに強みを有していたHARMANは、Sound Unitedの買収によってホームオーディオとハイファイ分野の有力ブランドを新たに獲得することで、あらゆるオーディオ領域をカバーできる“総合企業”となる。
もう1つの狙いとして想定されるのが、技術とプラットフォームの統合だ。Sound Unitedが有するHEOSを、HARMANの親会社であるサムスン電子の製品群でサポートすればシナジーを生み出せるだろう。
サムスン電子はGalaxyブランドで展開するスマートフォンだけでなく、日本ではなじみは薄いがスマートTVでも世界的には強みを持っている。同社のスマホやスマートTVがワイヤレスネットワークを介してHARMAN/Sound Unitedのオーディオデバイスとつながるのは、かなり大きな強みとなるはずだ。
またサムスン電子の製品に、価格帯ごとに異なるブランドのオーディオ技術を組み込むといったことも可能だろう。パナソニックがTVに自社の「Technics(テクニクス)」部門が設計したスピーカーを組み込むのと同じように、サムスン電子のTVにB&Wのスピーカーが組み込まれるようになる可能性がある。
加えて、カーオーディオ分野のさらなる強化にもつながるだろう。HARMANの収益の柱は、自動車向けオーディオシステムの自動車メーカーへの販売にある。
自動車メーカーは、それぞれに“独占的な”オーディオ技術を求める傾向にある。高級車ならなおさらだ。
Harmanの自動車向けオーディオブランドには「Harman Kardon」「JBL」「Mark Levinson」「AKG」「B&O」があるが、ここにB&Wも加われば、さらに幅広い自動車メーカーや車種、およびグレードへの展開が可能となり、差別化された音響体験を提案できるようになる。自動車メーカー側から見ても、1つの窓口から多くのブランドにアクセスできる利点は大きい。
冒頭で触れた通り、オーディオ業界は堅実な成長が予測されている。CESの主催者としても知られるCTA(米国コンシューマーテクノロジー協会)によると、コンシューマーオーディオ市場の規模は2025年で約608億ドル、2029年には700億ドル規模になると予想している。
「HARMAN+Sound United連合」の誕生は、そんなオーディオ業界により大きな再編を促す可能性がある。
特に影響を受けそうなのは、ワイヤレスオーディオで独自の立ち位置を持つ独立系ブランドであるSonosだ。同社はWi-Fiスピーカーで大きなシェアを持っているが、HARMANがSound UnitedのHEOSを活用するようになれば、かなり強力なライバルとなりうる。
Sonosは独自のエコシステムとユーザーエクスペリエンスが強みだが、その洗練度をさらに高め、差別化を図る必要があるだろう。
Bose(ボーズ)もまた、HARMAN+Sound United連合によって新たな競争圧力に直面するだろう。
プレミアムヘッドフォン/スピーカー市場において、BoseとHARMAN(JBL/AKG)は長年のライバルだ。B&Wブランドが加わることで、HARMANはこの分野での存在感がより高まることになるだろう。
ノイズキャンセリング技術やデザイン性、ブランドイメージではBoseにも強みはあるものの、高級路線は薄い。何らかの形で戦略を立て直す必要があるかもしれない。
BoseはプレミアムヘッドフォンやスピーカーにおいてHARMANと広く競合する。B&Wブランドを手にすることで、HARMANはBoseに“ない”部分で勝負を仕掛けてくる可能性がある(画像はBose SoundLink Home Bluetooth Speaker)ヤマハはAVレシーバーを得意とし、Sound United傘下のデノン/Marantzと競合している。HARMANがSound Unitedを手に入れることで、ヤマハはこの分野でより強い競争にさらされるだろう。
ここまで紹介してきたメーカー(ブランド)は、事業の一部または全部の譲渡/譲受といった方法で再編を行う可能性も否定できない。
ソニーについては、HARMAN(あるいは親会社のサムスン電子)と“全方位的な”競争が発生するだろう。手持ちの“コマ”に微妙な違いがあるため、ソニーとHARMAN/サムスン電子がどのような競合関係になるかは予測しにくい面もあるが、少なくとも「スマートフォンとの統合体験」において比較されることは増えるだろう。
ソニーは「Xperia」ブランドでスマートフォンを保有している。HARMANを有するサムスン電子も自社で「Galaxy」ブランドのスマートフォンを展開しているので、「傘下ブランドのオーディオ機器との統合体験」における比較は多くなりそうである
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