HARMANによるSound Unitedの買収による変化は、短期的にはそれほど見られないだろう。傘下の各ブランドが、いずれも強いアイデンティティーを確立しているからだ。それぞれの各ブランドにある“らしさ”を失えば、ブランドにロイヤリティー(忠誠)を感じているユーザーの離脱を招いてしまい、その価値は意味をなさなくなる。製品の値段や販売チャネルも、急激に変わる可能性は低い。
しかし中長期的に見ると、部品の調達や生産面での協力、技術の交流が進み、結果としてブランド間のコラボレーション製品が登場する可能性もある。ブランド間で重複する製品がある場合は、一部ラインアップの整理を進めるだろう。ブランドごとに価格帯や得意ジャンルを分け、重複する製品セグメントは1つのブランドに寄せる、といった格好だ。それぞれに接するユーザーの嗜好に合わせた製品開発や価格設定を進めていくだろう。
例えばワイヤレススピーカーを取ってみると、JBLブランドは「ポータブルスピーカーとパーティースピーカー」、B&Wブランドは「高音質ハイエンドモデル」、デノンブランドは「高音質志向ながらもコストパフォーマンスを重視し、ホームシアターとも連携可」といったようなすみ分けが考えられる。
またAppleが行っているような、スマホを起点とした統合的な体験価値をグループ全体に広げることも期待したい。
今回のHARMANの買収劇を見て、ファッション業界における「LVMH」や「Kering」といった例のように「全方位のブランドを1つの企業(傘下)にまとめる」という戦略なのかと想起した人もいるかもしれない。
LVMHやKeringのような「ブランドコングロマリット」は、さまざまな価格帯/カテゴリー/顧客層をカバーする多数のブランドを持株会社として(場合によっては自ら)投資/支配し、マーケティングの最前線は各ブランドに任せるという二層構造で成長してきた。
これらのブランドコングロマリットは、エントリー価格帯のブランドで若年層を「養育」し、人生の節目や収入の増加に合わせて上位メゾン(ブランド)へと「誘導」することで、LTV(顧客生涯価値)を最大化する戦略を実施している。成長の方向は多様だが、どう成長したとしても、“行き先”となるブランドを複数用意しておくことが肝要なのだ。
Sound Unitedの獲得を通して、HARMANはLVMHやKeringと同様の「隙間のないブランド階層」と「経営の設計図」を手に入れたといえる。オーディオへの接点を持ち始めた消費者が、オーディオ製品への興味の方向が変化したとしても、そこに好みのブランドがあり続ける――ちょっと言い過ぎだろうか?
HARMAN幹部の意識の中には、そうしたプランがきっとあるのだろう。
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