時代と共に移り変わる“性能”の意味 メーカーやアーキテクチャへのこだわりはもはや不要？：私のPC遍歴30年（3/3 ページ）

[本田雅一，ITmedia]

Macintoshの再評価につながった「Mac mini」

　AppleのMacintosh（Mac）は、世の中のトレンドを見るために常に購入していたのだが、ある時から存在感が失われ、筆者にとって“縁のないもの”になっていった。高価で壊れやすく、しかもOSがすぐにクラッシュする――そんなコンピュータでは、仕事にならない。

　そんな中、同社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏がAppleに復帰した。彼は経営体制を立て直していき、製品も少しずつだが改良が進んだ。

　そんな中、Appleは2005年に「Mac mini」をリリースした。その価格は6万9800円からと手頃で、「これなら手を出してもいいかもしれない」と考えた。UNIXベースの「Mac OS X」も進化し、安定とは言わないまでも、成熟が進んでいた。それにフォントレンダリングの美しさ、「Quartz」による滑らかな描画も魅力だった。

　結局のところ、これをきっかけに、デスクトップのパーソナルコンピュータはMacになってしまった。ちょっとした「遊び」で導入してみただけのはずのMac miniが、実はデスクトップ環境を入れ替える大きなきっかけになったのだ。

2005年1月に登場した初代「Mac mini」

　当時は、完全にMacに移行したわけではない。持ち歩くラップトップ（ノート）モデルが大きく重かったからだ。PowerBookやiBookを外出先で使おうと、全く思えなかった。「Webを見るときに、より美しい文字とレイアウトで楽しめるから、デスクトップはMacの方がいいな」と思った程度だ。

　仕事の道具としては、やはりまだWindowsを主流としていた。

クラウド時代の到来がもたらした「融和」

　一方で、この頃はインターネット上にアプリケーションを実装していく流れが確定した。いわゆる「クラウド」時代の到来だ。

　クラウドが当たり前になると、パーソナルコンピュータに求めることも変わった。ソフトウェア（アプリ）の多くはサービスとして動くようになったことで、MacとWindowsの違いがさほど意味を持たなくなっていったからだ。

　CPUの処理能力が飽和しつつあったこともあり、スペックよりも「ネットワーク接続」「バッテリー駆動時間」を重視するようになったし、環境よりも「習慣」を大切にするようになった。PCは、もはや「選ぶ」時代ではなく「使い慣れた環境がそのまま最適解」になる時代へ移ったといってもいいだろう。

　筆者が現在Macを使っているのも、そうした流れの中で自分自身に適した製品を選んでいるからであり、そこに思想的な理由はない。いつでもWindowsとMacの両方を行き来できる柔軟性は、かつては存在しなかったものだ。

筆者のメイン環境は、現在Macとなっている。昔では考えられなかったことだ（画像はイメージです）

　しかし今、PC業界はまた大きな“転機”を迎えた。

　Appleは「Apple Intelligence」、Microsoftは「Copilot+ PC」というように、AI（人工知能）処理に特化したNPU（Neural Processing Unit）を“内蔵”したコンピュータを推す機運が高まっている。その評価軸はCPUやGPUだけではない。むしろ、NPUのピーク処理性能を表す「OPS」（1秒当たりの処理回数）がより注目されるようになった。その影響で、CPUやGPUも性能をOPSで示すことが増えている。

　これからしばらくの間は、デバイス内の情報をいかに「使いやすさ」につなげるかを各社が争うことになる。以前のような「Apple対Microsoft」的な“異種格闘技”の特集もなくなっていくだろう。

「自分が求める価値」を選ぶ時代へ

　今回、編集部からは「私のPC遍歴」を執筆するように依頼された。しかし書き進めるうちに、「PCの歴史」を追いかけるような構成になってしまった。読者の皆さんも、読んでいてそう感じただろう。

　しかし、これはある意味その通りで、ある時点から「テクノロジージャーナリスト」として活動するようになったことで、自分自身が「何が好き」「どんなブランドがいい」といった思想的なことよりも、「何が最も価値が高いのか」といったことに興味が移っていったのだ。

　昔の筆者なら「今度の新しいスペックで、どんなワクワクする何かができるだろうか？」と考えていた。しかし、今は「自分が何をしたいか？」が先に出てくる。パーソナルコンピュータは自分の人生の中に根付いて、自分自身がやりたいことを実現するための道具となっている。

　もちろん、ハードウェアは今も昔も変わらず進化している。しかし、その進化を応用する手法（ベクトル）は変化してきている。最近でいえば、「AI機能をどう強化していくか？」が大きなテーマになっている。ただ、自分自身がパーソナルコンピュータに何を求めてるのかを明確に認識できているのであれば、実はAI性能でさえ不要なのではないかと気付くかもしれない。

　何しろ、今のアプリケーションの大多数はクラウドで実装されている。ゆえに「自分自身が使うデバイスはどうあるべきなのか？」という観点でにおいて、製品選びのプロセスは、以前より複雑になってきている。

　ただ1つ言えるのは、パーソナルコンピューターにせよスマホにせよ、メーカーやOS／アーキテクチャにこだわって選ぶ時代は終わったということだ。自分が求める価値を見極め、それにフィットする製品を選ぶ時代になりつつある。

　自動車（クルマ）の世界にあてはめると、クルマ選びの軸がエンジン性能などの「スペック」から「ライフスタイル」あるいは「ライフステージ」に移ってきた経緯と似ているのかもしれない。