最後に、石黒教授は「ダイバーシティ(多様性)」「インクルージョン(包摂)」とアバターの関係について、大阪・関西万博の意義と、同万博で自らが手かげたパビリオンの目的と絡めて語った。
もう1つ、大事なことがダイバーシティとインクルージョンだ。世界中でこの言葉が大事だと言われる理由は、未だに差別が存在するからだ。
肌の色、身体障害、外見など、差別の多くは肉体に起因している。しかしアバターを用いれば、それらは意味をなさない。アバターの姿形を通じて、誰もが平等に、能力に応じて社会参加し、働くことができると私は考えている。
そうした未来社会を提案する場として私がプロデュースしているのが、大阪・関西万博のパビリオン「いのちの未来(FUTURE OF LIFE)」だ。万博会場の中心、大屋根リングの中央に位置する真っ黒な外観のこの建物は水に包まれており、命の象徴/起源としての水をデザインに取り入れている。中にはさまざまなロボットやアバターが配置され、未来の人とロボットの共生を体感できる設計にしている。
万博のプロデューサーを引き受ける際、私は「今の時代に本当に万博をやる意義があるのか?」と悩んだ。約50年前(1970年)の大阪万博では、新幹線や携帯電話、リニアモーターカーのような革新的な技術が人々に未来への希望を与えた。しかし現代は技術の進歩があまりにも早く、6カ月間の開催期間中にも新しいAIやロボット技術が次々に生まれる。そうした中で私がたどり着いた結論は、技術そのものを見せるのではなく「未来を考える場を提供すること」にこそ意義があるということだった。
今の私たちは、地球環境の維持や遺伝子編集、核エネルギーといった技術を手に入れ、もはや未来を神に託すのではなく、自らが責任を持って決断する時代に生きている。だからこそ、この万博を通して来場者に「50年後の未来を考えて、自分は何を作りたいのか?」「人間とは何か?」「地球をどうしたいのか?」といった根源的な問いに向き合ってもらいたいと願っている。
私のパビリオンは3つのゾーンに分かれている。「ゾーン1」では、日本の人型文化の歴史、文楽やアンドロイドなどを紹介し、人と命の関係性を振り返る。ゾーン2は、50年後の未来を舞台に、おばあちゃんと孫娘のストーリーを通じて、未来の暮らしとテクノロジーがどう関わるかを描いている。人工授精や人工子宮、核融合などの技術が社会をどう変えるかを考えるきっかけになるだろう。そして「ゾーン3」では、1000年後、人類がどんな姿や存在として進化するのかを、芸術家たちと共に創造した幻想的な世界で表現している。
このパビリオンでは、人間は最初のヘッドセットの受け渡し以外には登場せず、全ての案内やガイドはアバターが行う。まさに、人とアバターの共生社会のモデルとして設計されている。また、現地に来られない人のために、「Fortnite」を活用したバーチャルパビリオンも用意しており、リアルとほぼ同じ体験ができる。公式サイトからアクセス可能だ。
この万博を通じて、私はアバターと人間が共に生きる未来の社会を日本から世界へ広げていきたいと考えている。これは単なる技術展示ではなく、未来を思考し、自分の人生や社会のあり方を再考するための“きっかけの場”だ。私たちの未来は誰かが与えてくれるものではなく、自分自身が考え、作り出すものだと信じている。
特別講演の後、石黒教授は参加者からの質疑に応じていた。世界的に著名な石黒教授に質問する機会ということもあって、積極的なやり取りが見受けられた。
アバターは未来の日本、そして世界をどのように変えていくのか――そのヒントが見える講演だった。大阪・関西万博に足を運ぶ人は、ぜひ「いのちの未来」も見に行ってみてほしい。
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