パネルディスカッションと質疑応答を通じて、デジタル社会で私たちが失いかけた主体性と尊厳を取り戻すための3つの道筋が見えてきた。
第1に、思想と設計の道だ。Appleが示すように、「プライバシーは人権である」という哲学を設計の初期段階から組み込み、ユーザーに誠実なテクノロジーを提供すること。これは、企業の倫理観が問われる道である。
第2に、市場と認証の道だ。アントニオス氏が提唱するNDD認定制度のように、良い設計を可視化し、消費者がそれを選択できる環境を整えること。これにより、倫理的な行動が市場で正当に評価されるメカニズムを構築する。
第3に、法と規制の道だ。呂氏や林氏が指摘するように、国際社会と協調した公正なルールを作り、最低限守られるべきプライバシーの基準を法的に担保しつつ、競争促進が他の価値を毀損しないか多角的に評価することだ。
これら3つの道は、どれか1つだけで完結するものではない。企業の哲学、市場の自浄作用、そして国家による公正なルールメイキングが相互に連携し、補完し合うことで初めて、私たちは真に人間中心のデジタル社会を築くことができる。
シンポジウムの最後に、参加していたジャーナリストの小山安博氏から「テクノロジーが分かりにくくなっている状況で、リテラシーを向上させるべきか、技術が降りてくるべきか」という本質的な問いが投げかけられた。
エリック氏は「その両方だ」と答えた。私たちの努力と、テクノロジーを提供する側の誠実さ。その両輪がそろったとき、私たちは「客体」であることをやめ、再びデジタル社会の「主体」となることができるだろう。福澤諭吉が説いた「独立自尊」は、今、この地点で私たちに試されている。
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