8000台のiPad導入は“すべての改革のスタート”――野村證券が賭ける「個の力」への可能性SoftBank World 2012(2/2 ページ)

» 2012年07月18日 16時08分 公開
[柴田克己,ITmedia]
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スモールスタートでフィードバックを得ながら規模を拡大

Photo 野村證券 国内IT戦略部長の藤井公房氏

 野村證券のiPad導入プロジェクトのキーマンとして、具体的な作業を進めてきた人物の1人が、同社国内IT戦略部長の藤井公房氏だ。藤井氏がプロジェクト開始当初に注力したのは、まずは「スモールスタート」で始めることだったという。最初の段階では、できるだけ利用に関する制限を付けずに実験的に運用し、現場でのヒアリングによるフィードバックを次の段階に生かしていった。合わせて、セキュリティや端末管理、コンテンツ配信基盤の仕組みを継続的に見直すことを行ったという。

 もともとガジェット好きだったという藤井氏は、自身で情報を集めつつ、コンテンツ配信基盤の候補としてインフォテリアの「Handbook」に着目した。Handbookは、iPhone/iPad向けの、いわゆる「電子カタログ」の提供に最適化されたオーサリングと配信のための仕組みだ。野村證券では、Twitter上でのサポートなども受けつつHandbookの評価を進め、2010年6月にはiPadとの組み合わせによる実験導入を行った。その後のヒアリングを通じて、半年後にはその有用性を確認したとする。

 「ヒアリングを通じて分かってきたのは、iPadを使った営業で最も大事なものは顧客とのコミュニケーションの向上、逆に一番のストレスになるのがスピードの遅さだった」と藤井氏は言う。こうしたフィードバックを元に、営業担当者が情報を入手するための、より有用な環境を提供すべく改善を図った。

 このプロジェクトでは、メインとなる営業面での活用に加え、ビジネスのそのほかの側面でもiPadの有効活用を目指したさまざまなチャレンジを行っている。例を挙げると、案件管理に利用している「Force.com」のiPadからの活用や、社内会議資料のHandbookによる配布といったものだ。

 会議でのiPadとHandbookの活用では、紙資料の削減といった効果のほか、会議資料提出の締切時間の廃止や、データやグラフを拡大表示できることによる社内でのプレゼンテーションスタイルの変化といった効果が得られたという。藤井氏によれば、iPadによる「ペーパーレス化」は、あくまでもビジネススタイルが変化した結果の一部であるとする。例えば、iPad導入のコスト対効果を説明する場合でも、紙コストの削減だけでなく、印刷や資料差し替えの労務費を換算するほうが、より合理的だという。

 また、プロジェクト推進中に起こった東日本大震災の影響による「計画停電」の実施も、不測の事態ではあるものの、iPadの利用価値を知る1つの契機になった。同社では震災直後の3月17日に、本社で試験導入していたiPadを急きょ回収し、計画停電の対象となる支店に対して配布。アプリケーションとして株価情報とHandbookを活用することで、停電中も必要な業務が行える環境を整えた。これは、業務継続計画(BCP)の一端としての、iPadとクラウド型システムの利用価値を示唆するものとなったようだ。

 現在までに同社では、株価情報、メール、コンサルティングツールといったアプリケーションを拡充しつつ、大規模運用のための管理の仕組みやインフラ等を整備。合わせて、iPadの営業店におけるトライアル規模を徐々に拡大し、7月中旬には8000台のiPadの配布を完了している。

 藤井氏によれば、今後も企業内SNSとしての「Salesforce Chatter」の活用やWeb会議など、さまざまな実験を行いつつ、iPadのビジネス活用の可能性を模索していきたいとする。

 「このプロジェクトを進める中で分かってきたのは、iPadはやはり『個』の力を引き出すための強力な武器になるということ。個人で、必要な多くの情報を持ち歩き、取りにいくことができる。また、コミュニケーションの即時性や情報共有の能力を大幅に高める。さらに、連絡や会議、研修といった業務のあり方、時間の使い方を大幅に変える力を持っている」(藤井氏)

 こうした「変化」を実現するにあたって重要な視点として藤井氏は「モバイルファースト」を挙げた。従来のPCでやっていること、できていることを「置き換える」のではなく、あくまでもiPadのようなスマートデバイスだからこそできること、必要なことを見いだす視点が、変化の原動力になるというわけだ。

Photo 野村證券におけるiPad活用システムの構成
Photo 営業担当者が持つiPadに導入されているアプリケーション

「新たにできること」を生み出す、すべての改革のスタートに

 多田氏は、今回の野村證券におけるiPad導入プロジェクトを「すべての改革のスタート」と位置づける。

 「金融は業界的に、ITシステム面で遅れているともいわれているが、これから全面的にオープン系に作り替え、新しくできることを増やしていきたいと考えている。フロント、ミドル、バックのすべてのレイヤを改革する、そのスタートとして今回のiPad導入プロジェクトがある」(多田氏)

 将来的なビジョンの一部として、多田氏は「ビッグデータ」の活用を挙げた。システム上に蓄積された顧客に関連したさままざなデータと、野村證券自身が持つノウハウのデータとを結びつけて深く分析することで、営業担当者は顧客のことをより深く知り、密なコミュニケーションが図れるようになるのではないかとする。

 「そこから可能になるのは、『個』の生活実態に沿ったコンサルティングだ。これまでの商品によるクロスセルから、サービスによるクロスセルを行う時代へと変わっていくのではないかと予感している。システム全体の変革と並行して、野村證券ではiPadも単に導入するだけでなく、それを活用して、さまざまなことに挑戦していきたいと思っている」(多田氏)

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