第2回 課題も多いHTML5、それでも本格採用に踏み切る企業の思惑なぜ今、HTML5なのか――モバイルビジネスに与えるインパクトを読み解く(2/2 ページ)

» 2012年08月09日 15時28分 公開
[小林雅一(KDDI総研),ITmedia]
前のページへ 1|2       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

次々と克服されるHTML5の諸問題

 HTML5はビデオ・ゲーム産業にも導入されつつある。ゲームではソフトの操作性やスピードが重視されるだけに、アクションの少ない電子書籍に比べて、Webアプリ化への障壁は高い。それでも分野を限定すれば、HTML5によるWebアプリ化は既に始まっている。

 例えば最近のゲーム業界は、かつてのドラゴンクエストやファイナルファンタジーのような大作ソフトから、スマートフォンなどモバイル端末上で動く手軽な「カジュアル・ゲーム(ソーシャル・ゲーム)」へと関心がシフトしている。

 この種のゲームはこれまでAdobeのFlash技術を使って製作されることが多かった。それがこの1年ほどの間に、HTML5を使ってカジュアルゲームを開発する業者が目立って増えてきた。東京都内にあるソフト開発ベンチャー、ユビキタスエンターテインメント(UEI)もHTML5に軸足を移しているが、その理由を次のように語る。

 「一言で言うと、開発現場からの声が非常に多い。当社には今、50人ほどのプログラマーがいるが、彼らにFlashでゲームを作らせるとストレスがたまる人が多い。『次(の開発プロジェクト)もFlashでやるなら転職したい』と言う人もいる」(UEIのゼネラルマネージャー、柿添尚弘氏)

 HTML5には今、3Dグラフィックスを実現する「Web GL」をはじめ、ゲーム開発に便利な新機能が次々と取り入れられている。これに対しFlashにはそれほどの進化が見られないという。

 「同じことをやるにも、Flash Lite(Flashのモバイル版)だと『職人技を駆使して』みたいなところがある。しかし今さら、そんなテクニックを磨いても先はない。『これからはHTML5の時代』というのは、当社のみならず開発者コミュニティの一致した見解だと思う」(柿添氏)

 その一方でHTML5には、これまでゲーム開発における技術的な限界が指摘されてきた。すなわちスマートフォンでちょこっと遊ぶカジュアルゲーム程度のものなら作れるが、本格的なゲーム機の上で動くドラゴンクエストのような大作、あるいはMMORPGのような大規模オンラインゲームはHTML5ではできない。これは確かに事実だが、最近ではサーバー側の技術革新も相まって、HTML5で作れるゲームの水準も相当高くなっている。例えば「node.js」と呼ばれるサーバー側のJavaScript機能や、「Web Socket」と呼ばれるサーバー、ブラウザ間のリアルタイム通信機能を使えば、MMORPGほど本格的ではないが、疑似的な対戦型ゲームも構築できるようになった。

 もちろん今でも問題は残されている。その一つは前述したブラウザの仕様分裂だ。これについてゲーム開発の現場担当者は次のように語る。

 「今、(iPhoneの標準ブラウザ)Safari用にWebアプリを作ると、それは(Google製のブラウザ)Chrome上でも完璧に動く。しかし(Mozilla製のブラウザ)Firefoxで動かすためには、そこにちょっと手を加える必要がある。(別のブラウザである)Operaになると、もう2、3回は手を加えないといけない。さらに(古いバージョンの)I.E.になると、全く別のコード(プログラム)に書き換えないといけない」(UEIの企画セクションマネージャー、山崎祥氏)

 本来、HTML5の最大の売りである「プラットフォームの互換性」に問題があるなら、一体何のためにHTML5を使うのか?

 「そうは言っても、(HTML5を使えば)基本的には1つのコード(プログラム)で何とかなる。要するに異なる端末やプラットフォームごとに、違いを調整すればいいだけの話だ。個別にゼロからコードを書き始めるのとは、アプリ開発者の労力において比較にならないほどの差がある」(山崎氏)

 HTML5で作られたWebアプリには、この他にも課題が残されている。前述の通り、SafariやAndroid付属ブラウザなどの主要ブラウザから、カメラやセンサーなど、モバイル端末に内蔵された各種部品を使うことができない、ということだ。実は、Opera Softwareの「Opera Mobile 12」やMozillaが先頃リリースした「Android向けFirefox」などでは、カメラなど端末の内蔵部品を操作できる。しかし市場に出回るスマートフォンの大半には、SafariやAndroid付属ブラウザが搭載されているため、上記のような競合他社によるブラウザの改良も事実上はユーザーの手の届かないところにある。

 もっとも、これらの問題を解決するための開発用ツールが最近整備されつつある。例えば米Nitobe Software社が開発し、その後Adobeに買収された「PhoneGap」や、米Appcelerator社が開発した「Titanium」などがそれである。これらのツールは、アプリ開発者が一旦HTML5で書いたコードを、個々のプラットフォーム(OS)や端末に向けたネイティブコードへと変換してくれる。これによって互換性の問題が解決すると同時に、Webアプリでは使えないカメラやセンサーなどの内蔵部品も使えるようになる。

 ボイジャーの関係者はHTML5が普及するのは、まさにこれからと見ている。前述の通り、W3CがHTML5の最終勧告(事実上の「標準化完了」宣言)をするのは早くても2014年であり、仕様の策定プロセスに若干の混乱が見られるのも事実だ。しかしHTML5の根幹をなす主要部分は、ほぼ標準化が完了し、最終勧告を待たずしてI.E.やSafari、Firefox、Chrome、Android付属ブラウザ、Operaなど主要ブラウザに実装されている。つまり現時点でも、HTML5は十分に利用可能な段階に達しているのだ。それが今後普及する上で必要となってくるのは、便利で使い易い開発ツールの登場である。

 「HTML5を取り巻く今の状況は、ちょうどWebが普及し始めた1996、7年に似ていると思う。当時、(ホームページを記述するための)各種タグは整備されてはいたものの、それらのタグを使って正確にホームページを書き切るのは正直難しかった。が、やがて(Adobeの)Dreamweaverのようにホームページ制作を支援する便利なツールが登場したことで、クリエーターがタグ(技術)を意識することなく、表現だけに集中できるようになった。ちょうと今のHTML5も当時と同じ状況にあり、その種の簡単に使える制作ツールが出始めれば、急速に普及するのではないか」(ボイジャー取締役の鎌田氏)

(連載第3回に続く)

小林雅一氏プロフィール

 KDDIリサーチフェロー。東京大学大学院理学系研究科を修了後、雑誌記者などを経てボストン大学に留学しマスコミ論を専攻(東大、ボストン大とも最終学歴は修士号取得)。ニューヨークで新聞社勤務後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとったあと現職。著書は「神々の『Web3.0』」(光文社ペーパーバックス)、「モバイル・コンピューティング」(PHP研究所)、「Web進化 最終形『HTML5』が世界を変える」(朝日新書)、「日本企業復活へのHTML5戦略」(光文社)など。



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年04月06日 更新
  1. スマホ大型化の裏で高まる「小型音楽プレーヤー」待望論 現役ウォークマンか、“ポストiPod”のiPhone SEか (2026年04月05日)
  2. Suica、JRE POINTのキャンペーンまとめ【4月5日最新版】 チャージで最大2万ポイント還元のチャンス (2026年04月05日)
  3. WAON POINTやAEON Payのキャンペーンまとめ【4月4日最新版】 ポイント10倍多数、1万ポイント還元も (2026年04月04日)
  4. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【4月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のチャンスあり (2026年04月03日)
  5. ソフトバンクが「今回もやる」とGalaxy S26を月額1円で販売――販売方法を早急に見直さないと撤退を迫られるメーカーも (2026年03月08日)
  6. 皆さん、パソコンやスマホを何で持ち運んでいますか? 私はリュックサックです (2026年04月04日)
  7. 選択肢が増えた「Starlink衛星とスマホの直接通信」 ドコモとauのサービスに違いはある? (2026年04月02日)
  8. LeicaコラボのXiaomiスマホ「Leitzphone」、中国モデルはデザインと名称が異なる (2026年04月05日)
  9. au PAYとPontaのキャンペーンまとめ【4月2日最新版】 1万ポイント還元や30%還元のチャンスあり (2026年04月02日)
  10. 「小型iPhone SEを復活させて」──手放せない理由SNSで話題 どこが“ちょうどいい”と評価されるのか (2025年11月29日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2026年