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» 2004年01月23日 04時25分 UPDATE

“1セグメント放送”が抱える課題と期待

大きなトラブルもなく、順調な滑り出しをみせた地上デジタル放送だが、もう一つの目玉といえる「1セグメント放送」のほうはなかなか動きがみえない。しかし水面下では、新しい放送サービスの形を模索する動きが進んでいるようだ。

[芹澤隆徳,ITmedia]

 2003年末の放送開始から約2カ月。大きなトラブルもなく、順調な滑り出しをみせた地上デジタル放送だが、もう一つの目玉といえる「1セグメント放送」のほうはなかなか動きがみえない。MPEG-4のライセンス課金問題が取り沙汰されたあと、H.264の採用案が浮上したものの未確定だ。しかし水面下では、新しい放送サービスの形を模索する動きが進んでいる。

 日本の地上デジタル放送は、従来のアナログ放送1チャンネルにあたる6MHzの周波数幅を13のセグメントに分けて利用する。これは、広い帯域幅を使うHD放送と通常画質のSD放送などを柔軟に組み合わせ、電波を有効利用するため。そのうちの1つは移動体放送のために確保されており、これを使った放送を「1セグメント放送」と呼ぶ。

 1セグメント放送では、デジタル放送対応の携帯電話やPDAを使って簡易動画やデータ放送を視聴可能だ。当初はサイマル放送になる見込みだが、将来的には独自コンテンツの登場も期待されている。なお、一部の携帯電話メーカーは既に試作機を完成しており、2003年の夏にNEC三洋電機が1セグメント放送対応の携帯電話端末を公開した。

 しかし、電子情報通信学会主催のシンポジウムに参加したNHK放送技術研究所の久保田敬一氏によると、携帯電話メーカーやキャリアが当初から1セグメント放送に好意的だったわけではないという。というのも、TV機能の搭載は端末のバッテリー寿命を極端に短くし、そのうえ通信料金が増える見通しが立たなかったためだ。

 仮に1セグメント放送が広く普及すれば、逆に「iモード」など通信サービスの利用時間が削られる可能性すらあるわけで、キャリアやメーカーの対応が厳しくなるのも無理はない。そんな状況が変化したのは「通信の利用が見込めるプランを提出してからだ」(同氏)。

“放送と通信の融合”は携帯電話から

 NHKが「携帯受信機向けの次世代サービス」として示したプランは、TV放送と通信をシームレスに利用できるものだ。たとえば、データ放送で紹介しきれない情報を携帯サイトに置き、データ放送の画面からリンクを張る。旅行番組なら、行き先の概要をデータ放送で提供し、携帯サイトには“お勧めスポット”やツアーの紹介、さらにはツアーの予約・購入も可能になるといった具合だ。

photo 画面の上半分に動画、下半分にデータ放送を表示するイメージ(写真はKDDIとNHKが試作したコンテンツ)。データ放送から携帯サイトへリンクすれば、1つの画面に放送と通信が共存することになる

 このほかにも、スポーツ中継をみながら感想や解説をメール交換したり、画面の下半分を使ってチャットスペースを提供するといったプランもある。さらに、放送を補完するサービスとして、“シームレス受信”と呼ばれるサービスも提案。放送波が届かない地下街などの場所で、無線LANなど通信ネットワークを使って放送番組を提供するという。

 一方、デジタル放送対応携帯電話では、TV放送が通信を補完することもできる。たとえば災害発生時など、輻輳が発生する可能性が高いとき。放送波を使って関連情報を提供すれば、トラフィックの増大を緩和できる。ユーザーにしても、1台の端末で複数の情報ソースを得られることになり、1セグメント放送が単なるコンテンツサービスの枠にとどまらない存在になることがよく分かる。

“混在問題”とは?

 放送と通信が相互に補完的な役割を担うーーNHKが示したサービスプランは、これまで繰り返し議論されてきた“放送と通信の融合”を体現するものといえる。

 しかし放送業界では、新たに“混在問題”と呼ばれる問題が生じているという。これは、放送と通信が1つの画面に同居するなかで、「たとえば、トヨタがスポンサーになっているサッカーの試合を見ているのに、下半分には日産のカタログが表示されている」といった状況のこと。一般ユーザーにはピンとこないが、広告モデルのTV局にとっては大きな課題になりそうだ。

 また、広告は取らないNHKにも課題が残されている。それは、従来の受信料とは別に、1セグメント放送の受信料を設定するか否か。

 現在、NHKの受信料金は世帯契約になっているため、家族構成やTVの台数に関わらず料金は一律だ。この原則に則れば、家族の一員が携帯電話でTVを視聴していても、新たな料金が発生することはない。「とはいえ、新しいサービスには設備投資や運用資金がかかるのも事実だ」(久保田氏)。

 もちろん、現在の制度ではNHKが別料金を設定することは不可能。また携帯電話ユーザーを対象としたアンケート調査(電通総研、日経BPコンサルティングの調査)でも「無料なら携帯でテレビをみたい」という意見が8割を占めており、「有料でもみたい」とする回答は、わずか2%だ。

 だが今のところ、将来的にNHKが利用者の経費負担を求める可能性は否定できない。1セグメント放送は、NHKを含む放送業界全体にビジネスモデルの転換を求めるのかもしれない。

 なお、今回のシンポジウムでは、2005年放送開始というスケジュールに対して否定的な意見は出てこなかった。動画フォーマットは未だ確定せず、そのため細かい運用仕様も策定されていないが、フジテレビジョン技術局の関祥行技師長は「局としては、MPEG-4とH.264のどちらにも対応できるよう、準備を進めている」とした。

 「2006年には地上デジタル放送は全国展開する。それに遅れないよう、2005年には(1セグメント放送が)始まるだろう」(関氏)。

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