秋にはFOMAにも〜3G本格進出するSH-Mobile

» 2004年07月26日 08時34分 公開
[斎藤健二,ITmedia]

 「アプリケーションプロセッサ」という名を世に知らしめたルネサス テクノロジの「SH-Mobile」が、第2ステージに突入する。これまで2.5G携帯電話をメインターゲットとし、シェア獲得を優先してきたが、ドコモとのFOMA向けチップの共同開発を機に、3Gへの本格進出を図る。

 「秋からはFOMAの数機種にも搭載される。そろそろ3Gと海外にかじを切ろう」(ルネサス テクノロジの伊藤卓朗アシスタントマネージャ)

ツインCPUの現状〜OMAPとSH-Mobile

 現在、携帯電話の多くはツインCPU構成を採っている(1月28日の記事参照)。通信を司るベースバンドチップとアプリケーションプロセッサだ。元々はベースバンドチップのCPUだけで、メニュー周りやアプリケーションを動作させていたが、携帯の高度化に伴いアプリケーション専用のCPUが必要になってきた(2002年7月12日の記事参照)。

 このアプリプロセッサ市場で「現在国内外で80機種、2004年度は200機種」(伊藤氏)というトップシェアを持つのがSH-Mobileだ。国内では公表されているだけでも「N505i」や「N505iS」「A5406CA」、Opera搭載で名を馳せた「AH-K3001V」などがSH-Mobileを搭載している。

ワイヤレス ジャパン 2004のルネサスブース。NECやカシオ、日立など国内の名だたるメーカーをはじめ、韓国製端末などSH-Mobileを搭載した端末が勢揃いした

 ただしFOMAを代表としたハイエンドの3G(W-CDMA)端末には、これまで搭載例がなかった。この市場で圧倒的優位にあったのはTIのOMAPプロセッサだ。

 OMAPは当初からハイエンド端末をターゲットとし、最初期からFOMA端末に搭載された。NEC、パナソニック モバイル、富士通、シャープといった主要FOMAメーカーが採用しており、「N900i」「P900i」「F900i」「SH900i」はアプリプロセッサとして「OMAP1610」を搭載した(1月28日の記事参照4月6日の記事参照)。

 このOMAPの牙城を突き崩す武器として、ルネサスが用意したのが同社初の「3G向けのフルアプリプロセッサ」(伊藤氏)である「SH-Mobile3」だ(5月17日の記事参照)。

SH-Mobile 3のブロック図。CPUコアには新開発の「SH-X」を搭載する

 CPUコアに「SH4AL-DSP」を搭載。シングルスカラーだったSH3コアから、2命令同時実行が可能なスーパースカラに変更した。当然処理速度も向上したが、「同じ仕事をするときに半分の周波数動作で済む」(伊藤氏)のが主目的。消費電力が1.6〜1.8倍ほど少なく済む。

 内部のバス構造にも手を付け「ドリームキャスト向けのSH4に使ったバス」(伊藤氏)であるスプリットトランザクションバスを採用。大量のデータ転送に対応した。

 マルチメディア処理にプログラマブルなDSPを使うOMAPに対し、SH-Mobileは「どの機種でも使う共通機能はハードウェア化する」方針。SH-Mobile3ではMPEG-4処理回路などをハードウェア化する

SH-Mobileのロードマップ。2005年のハイエンドSH-Mobileとなる「SH-Mobile 4」の特徴は、H.264デコーダの搭載だ。2005年度末にスタートするモバイル向け地上デジタルテレビ放送をターゲットとしたもの(3月24日の記事参照)。ワイヤレスジャパンのブースではSH-Mobile 3を使ってソフト処理でH.264をデコードするデモも行っていたが、最高クロックで処理してもQVGAサイズ/15fpsが限界。ハードウェア回路としてH.264デコーダを搭載することで30fpsが可能になり、消費電力も100ミリワット以下に落とせるという(7月5日の記事参照

次は海外〜ドコモとW-CDMAチップ共同開発

 同社が次に狙うのはワンチップ化だ。ドコモと共同で、W-CDMA、GSM/GPRS、SH-Mobileのコアをワンチップにまとめる(7月12日の記事参照)。日本でも海外でも利用でき、パフォーマンスも十分で、かつコストも安いチップを作るのが目的だ。

 これまでツインCPU構成をウリにシェアを伸ばしてきたSH-Mobileだが、ワンチップ化はこれまでの戦略と矛盾しないのだろうか。

 「2CPUであるということよりは、リアルタイム部とアプリ部は独立させたほうがいい、というのが当初からの主張」だとルネサスの伊藤氏。ワンチップ化に当たっては、ベースバンドなどリアルタイム動作する部分と、SH-Mobileなどアプリケーションを処理する部分を明確に分け、それぞれ独立して動作する構成にする。給電も独立して制御するだけでなく、もちろんこれまでのソフトウェア資産も利用できる。

 ワンチップ化することで、製造コストが下げられるほか、2チップの場合に必要だった制御ソフトもいらなくなる。これまでの製造プロセスではワンチップ化によってチップサイズが大きくなりすぎるが、「(製造プロセスが)90ナノになって、物理限界がなくなった」(伊藤氏)ことが、ワンチップ化の追い風になった。

 コスト削減とサイズ縮小は、ドコモにとっても重要だ。ドコモのプロダクト部の永田清人部長はルネサスのインタビューに答えて、「これまで苦労して立ち上げたものを広げたい。W-CDMAが入って、かつワンチップのソリューションを渇望している」と期待を話している。

 ドコモがルネサスと組むのは3つの理由があった。1つは、SH-Mobileを通じて海外ベンダーともつながりの強いルネサスの製造・販売能力。2つ目は、ドコモが持っていないGSMに対する技術力だ。ワンチップ化に当たっては、旧三菱が持っていたGSMの技術を使う。3つ目は、SH-Mobileの優れたマルチメディア能力となる。

 2.5Gを制したSH-Mobileの技術は、3Gでもメインストリームになっていくのか。OMAPがほぼ独占していたFOMA向けアプリCPUの分野にSH-Mobileが切り込んだことで、情勢が大きく変わっていきそうだ。

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