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» 2008年03月24日 22時26分 UPDATE

韓国携帯事情:韓国“ヨコ画面”ケータイ事情――「横本能」シリーズの歴史

テレビやカメラなどAV機能が携帯電話に搭載されたため、端末のディスプレイを横画面で利用する機会が増えている。韓国でもっとも有名な横画面ケータイ「横本能」シリーズの歴史を振り返ってみよう。

[佐々木朋美,ITmedia]

 現在、携帯電話のディスプレイといば“縦長”が一番多い。しかし、カメラやテレビなどのAV機能が携帯電話に搭載され、ディスプレイを横にするというスタイルも珍しいものではなくなった。携帯電話自体を横にして画面を見るというスタイルもあるが、画面自体をくるりと回して横にするといったスタイルも結構多い。日本では、サイクロイド機構を採用したシャープ製の「AQUOSケータイ」が有名だが、韓国ではSamsung電子製の「横本能」が有名だ。

横本能8兄弟

photo 初代横本能携帯「SCH-V500」。2.2インチのQVGA(320×240ピクセル)表示に対応したTFT液晶を搭載している。大きさは52(幅)×99(高さ)×27.7(厚さ)ミリ。2004年に、韓国デザイン振興院が主催した「優秀産業デザイン商品」の最高賞、「大統領賞」を受賞した

 横本能とは、画面がくるりと回って横倒しになるスタイルのSamsung電子製端末を指す。初代「SCH-V500」(SK Telecom用)が2004年8月に発売され以来、これまでに計8モデルが発売されている。

 横本能が登場した当時はまだ地上波DMBサービスが始まっておらず、動画撮影やVODによる映像コンテンツの視聴に適した端末という触れ込みだった。ディスプレイを回して横長にするという発想はもちろん、テレビ画面にあわせた横画面により、映像を最適に見るというコンセプトに説得力があり、ユーザーも受け入れやすかった。

 翌2005年3月には、「SCH-V600」(SK Telecom用)と「SPH-V6000」(KTF用)が発売された。横本能の後継機であることや、CMに韓国のトップ歌手を起用していたことから、販売開始から3カ月で42万台という売り上げ実績を打ち立てた。また当時は、LG電子など他社も人気端末の“2代目”を出すことが多く、注目を集めやすかった。

 2006年5月に販売された4代目の「SCH-B250」(SKT用)は、衛星DMBに対応しているのが最大の特徴だ。新サービスとして注目を集めていた衛星DMBが見られる横本能端末として、多くの支持を得た。

 さらに当時は、LG電子の「チョコレートフォン」や、Motorolaの「RAZR」など世界的なヒット作も多く出ていた頃だ。デザインならチョコレートフォンやRAZR、機能で選ぶなら横本能、という傾向もあった。

photophoto SCH-V600(左)の大きさは、48.7(幅)×92.5(高さ)×29.3(厚さ)ミリ。初代よりも小さく、手に収まりやすいのが特徴。横画面にした際に楽しめるゲームが2種類搭載されている。表面は抗菌効果があるという、銀ナノコーティングが施されている。2005年10月に発売されたSCH-V700(右)は、200万画素のカメラを搭載したモデル。「PMP」(Portable Multimedia Player)携帯と銘打ち、200Mバイトの内蔵メモリや、外部メモリ用のRS-MMCスロットを備えていた。音楽の速度調節機能など、音楽機能も強化している

 2006年はスリム携帯全盛期でもあった。そんな中登場したのが、2006年8月に販売された6代目の「SCH-B540」(SKT用)だ。厚さは14.9ミリと、4代目SCH-B250の厚さ29ミリから半分程度になった、スリム路線は、2006年10月に販売された7代目の「SCH-B560」(SKT用)/「SPH-B5600」(KTF用)/「SPH-B5650」(LGT用)にも受け継がれている。

photophoto 「SCH-B250」(左)は、グレーの他にピンクやブルーなどのカラーバリエーションもあった。大きさは48(幅)×94.7(高さ)×28.5(厚さ)ミリ。衛星DMBに対応する端末として、最小クラスといえるサイズだった。2006年5月に販売された「SCH-B410」(SKT用)/「SPH-B4100」(KTF用)/「SPH-B4150」(LGT用)は、地上波DMBに対応した5代目横本能端末。ステルス戦闘機からインスピレーションを受けたという直線的なデザインと、メタリックな素材感が特徴だ(右)

 7代目発売から1年以上経った2008年2月、8代目の「SCH-W350」(SKT用)/「SPH-W3500」(KTF用)がお目見えした。定番となたスリムデザインを採用し、ピアノのような光沢がある質感など、デザインが非常に洗練されている。下り7.2MbpsのHSDPAに対応したほか、300万画素カメラやBluetooth機能などを搭載している。

photophoto 「SCH-B540」(左)は衛星DMBに対応。待受画面に番組表を表示しておけば、現在放送されている番組をチェックできるほか、予約した番組をアラームで知らせてくれる。また、衛星DMBを受信しながらの通話が可能など、単にDMBを受信するだけではない、プラスアルファの機能が盛り込まれた。「SCH-B560」(右)は液晶ディスプレイの角度を自由に変えられ、好きな角度で画面を見ることができる

 ちなみにここで型番に注目してみると、2004〜2005年は「V」、2006年には「B」、2008年には「W」がついており、微妙に異なっていることが分かる。これは年毎に変えているのではなく、仕様の違いによるものだ。また、「SCH」や「SPH」にも意味がある。

 SCHは「Samsung Cellular Handset」、SPHは「Samsung PCS Handset」の略で、前者はSKT、後者はKTFやLGT用の携帯電話に使われる。そしてその後につくアルファベットの場合、VはVideoで映像関連の機能があること、BはBroadcastingで放送(DMB)が受信できること、WはW-CDMAに対応していることを意味している。

photo 地上波DMB、HSDPAに対応した「SCH-W350」。質の高いデザインも併せ持ち、機能・デザインを両立させている

 携帯電話が多機能化している最近は、いずれの機能も持ち合わせる端末が多いが、どれを最大の特徴としているのかが型番から分かるので、韓国で携帯電話を選ぶ際の参考になるだろう。

横本能、人気の理由

 横本能は、初代が登場した際も注目を集めたが、横画面を活用できるDMBサービスが普及したことから、人気が再燃した。2006年上半期、韓国で販売されているDMB携帯の70%以上はSamsung電子製であったという。こうした快挙を支えたのが横本能シリーズで、地上波DMBに対応した「SCH-B410」などは、販売開始から1カ月で5万台を販売した。

 横本能シリーズがこれほど人気になる理由は何だろうか。初代が登場したころは、印象に残る斬新なデザインと、“横本能”という語呂の良い愛称が人気の理由だったと言えるだろう。広告に人気のミュージシャンを起用するなど、話題性作りもうまい。

 ほかのメーカーからも、ディスプレイを回転させるデザインの携帯電話が登場しているが、ブランド名をつけてシリーズ化しているのは横本能のみだ。名前から形が思い浮かべられ、一貫したイメージがあるのも成功している要因と言えるだろう。横本能は製品の固有名詞であると同時に、似たスタイルの携帯電話を表す代名詞となっている。

 また、型番の変化からも分かるように、常に最先端の機能やデザインを採用している。デザインは、工業デザイナーのキム・ヨンセ氏が手がけているという。キム氏は韓国でもっとも人気のあるMP3プレーヤー「iriver」のデザインを担当した、韓国を代表するデザイナーだ。

快進撃の横本能に「待った」

 8代目の横本能であるSCH-W350/SPH-W3500が発売されて間もないこの3月、Samsung電子は横本能端末に使われている技術に関して、ベンチャー企業2社に訴えを起こされた。

 訴えの内容は「Samsung電子が、画面を横にして見る携帯電話に関した特許とデザインに関し、関連の技術資料を無断で利用した」というもの。ベンチャー2社は、ソウル中央地方裁判所に10億ウォン(約1億円)の損害賠償請求訴訟を起こしている。

 ベンチャー2社は、「携帯電話のディスプレイを、垂直および水平にできる携帯電話」に関する特許を2001年に出願し、2005年に登録を受けたという。そして、「Samsung電子は2002年、この技術が独自の技術であるかのように特許出願をした」と主張する。

 原告側によると、Samsung電子は2002年時点で、ベンチャー2社のうち1社が横本能携帯に関する技術を持っているということを知り、この企業に投資する意思を見せたようだ。そのためベンチャー企業は、Samsung電子とこの携帯電話の商品化のための協議を進め、その中で関連資料をSamsung電子に公開した。守秘義務を守る約束を交わしたものの結局守られず、Samsung電子が横本能携帯に関する特許を出願、実際に製品を発売したというのだ。

 Samsung電子は、こうした主張を全面否定している。実は2つのベンチャー企業は、横本能端末について2005年にも特許侵害行為の是正に関する仮処分申請を行っているが、これは最高裁判所によって棄却された。Samsung電子はこの判例を盾に争う構えを見せている。

 横本能に関する訴訟は、初代が登場した2004〜2005年ころに、LG電子との間でも起こっている。そのデザインが大統領賞を受賞して脚光を浴びる中、同様の端末をLG電子も開発し、Samsung電子よりも早く意匠登録をしていたというのである。そのためLG電子は、Samsung電子の受賞には問題があるのではないか、ということで韓国デザイン振興院に抗議までしている。

 ベンチャー企業2社にとってもLG電子にとっても、自分たちが最初に市場に出すつもりだった製品なのに、思いがけない形で先を越されたことになる。特許や意匠登録をしていただけに、彼らにとっては悔しさもひとしおだろう。

 しかし、Samsung電子がいち早く製品を市場に投入し、“横本能”というブランドを確立したことに違いはない。すでに世間一般では、画面を横にするスタイルといえば横本能のことであり、それはSamsung電子製の携帯電話という図式が成り立っている。LG電子の訴えはすでに過去の話となってしまい、今回のベンチャー2社の訴えが仮に通ったとしても、おそらく横本能シリーズの人気は覆らないだろう。

 それにしても画面を横にするという仕組みに限らず、デザインにしろインタフェースにしろ、携帯電話は似ている部分だらけだ。最初に技術やデザインを開発したことの証明として特許や意匠登録があるわけだが、出願時期が近く、認められるまでの期間が重なっていればこうした問題が起きてしまう。

 横本能の事例を見ると、特定の技術や機能、デザインを最初に形にするだけでは成功しないことが分かる。その携帯電話をうまくブランド化し、マーケティングをいかに成功させるかが重要といえるだろう。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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