レガシーだからこそヒントがある――音声通話サービスの可能性神尾寿の時事日想

» 2008年10月31日 11時13分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 10月後半から11月初旬にかけて、携帯電話業界は“冬モデル”の発表ラッシュだ。今週はKDDIとソフトバンクモバイル、ウィルコムが新製品を発表し、来週にはNTTドコモの発表が控えている。携帯電話市場全体に停滞感が漂う中で、各キャリアがどのような対策を新製品・新サービスに織り込んでくるのかが、目下の注目ポイントである。

 →KDDI、au秋冬モデル7+1機種発表(参照記事)

 →ソフトバンクモバイル、2008年冬モデル16機種発表(参照記事)

 →ウィルコム、2008年冬モデル3+1機種を発表(参照記事)

 各社の冬商戦戦略の分析と評価は、姉妹誌であるITmedia +D Mobileの筆者コラムで行う予定だ。今回の時事日想では少し切り口を変えて、筆者が興味深いと感じたウィルコムの新サービス「ウィルコム ミーティング」から、音声サービスの可能性について考えたいと思う。

「音声定額」は、ボイスチャット!?

 少し過去を振り返ると、ウィルコムが業界初の同一キャリア内音声定額サービスを開始したのが、2005年5月のこと(参照記事)。同サービスはウィルコムの契約者増に大きく貢献し、若年層や女性にまでユーザー層を拡大する要因になった。その後、ソフトバンクモバイルも同様の音声定額サービスを始めた(参照記事)ことでウィルコムの独壇場は崩れたが、それでも「音声定額」は同社を支える重要な商品になっている。スマートフォンや法人向けデータ通信サービスでは、携帯電話キャリアの台頭でウィルコムの苦戦が続いているが、コンシューマー向けの音声定額サービスとシンプルな音声端末「HONEY BEE」は好調なことからも、それは分かる。

 今回発表された「ウィルコム ミーティング」は、この好調な音声定額サービスを背景に、新たな利用方法を提案するものだ。同サービスでは最大7人での同時通話が可能になり、利用料金は60秒で10.5円で月額上限が1050円。特定の友達同士やサークルなどで、気軽に同時通話を楽しむという用途を狙うという。

 →最大7人で同時通話「ウィルコム ミーティング」、11月4日開始

 筆者は携帯電話・PHSの音声定額サービスは、「Skype」などIM(インスタントメッセンジャー)と類似した利用傾向に進化していくと考えている。ウィルコムミーティングが実現する多人数・定額の音声通話サービスは、まさに“ボイスチャット”の世界だ。このコンセプトは、PCやゲーム機のネット対戦でボイスチャットに馴染んでいる若い世代には受け入れられやすいと思う。

 しかし、その一方で、筆者は今の「ウィルコム ミーティング」にはUIの部分に大きな課題があるとも感じている。同サービスは利用申し込みが不要であるが、利用時には専用Webサイトにアクセスするか、ウィルコムガジェット対応機種で利用できるウィルコムミーティングガジェット経由で設定する、もしくはmtg@willcom.me宛てに定型Eメールを送るといった操作が必要だ。これは「HONEY BEE」のようなシンプルな端末を使い、気軽に音声定額サービスを使いたいユーザーにとって、利用のハードルが高いと言わざるを得ない。

 ウィルコムミーティングのような高度な音声サービスを普及させるのならば、その機能を端末の「アドレス帳」に統合し、シンプルな端末でも簡単な操作で利用できるようにすべきだ。その際には、相手のプレゼンス情報まで確認できるのが望ましいだろう。

レガシーな「音声」に新サービスの可能性

 音声関連のサービスというと、データ通信サービス全盛の今となっては“時代遅れ”と見られがちだが、レガシーなものだからこそ改良による新サービスの可能性がある。

 例えば、Appleの「iPhone 3G」では、古めかしいボイスメール(留守番電話サービス)の機能が、視覚的で分かりやすいUIで抜本的に改良され、タッチパネルで操作できる「ビジュアルボイスメール」(参照記事)として生まれ変わっている。筆者はこのビジュアルボイスメールを日常的に使っているが、その便利さと使いやすさは、従来の留守番電話サービスとは隔世の感がある。これは音声関連のサービスでもアイデア次第で訴求力のある新機能に生まれ変わるという好例だろう。

iPhone 3Gのビジュアルボイスメール

 メールやコンテンツなどデータ通信サービスが急速に進化した一方で、音声関連の機能やサービスは、これまで大きく進化してこなかった。だが、ウィルコムの「ウィルコムミーティング」やiPhone 3Gの「ビジュアルボイスメール」を見れば分かるとおり、音声サービスにも新サービスや改良の余地は大いにある。アドレス帳や留守番電話サービス、マナーモードの在り方など、既存の機能・サービスをすべて見直し、今の時代にあわせて作り直すだけでも、多くの新提案ができるはずだ。音声サービスは携帯電話の基本中の基本である。各キャリアとメーカーは、この分野でも積極的なチャレンジをして欲しい。

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