HPのwebOS撤退が示すこと――世界シェア1位のPCをなぜ切り離そうとするのか本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2011年08月22日 15時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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webOS撤退が招くPC事業の見直し

HPのあらゆるデバイスをwebOSでつないでいくという戦略は断たれた

 さて、ここまで急峻(きゅうしゅん)な動きになったのはなぜだろうか。webOS関連事業の売却を含め、ほかにもwebOS事業の終息あるいは切り離しに向けたシナリオは描けただろう。ところが、12億ドルの買収費用、その後の開発投資とマーケティング投資、それに大量に抱えた在庫を含めて“損切り”するかのように捨ててしまった。

 HPは2010年にPalmを購入した際、当然のように「なぜAndroidではダメなのか」「独自のプラットフォームを持つ必要性が本当にあるのか」といった質問を受け、それに対してスマートフォンやタブレットが普及初期段階であり、まだプラットフォームベンダーとしての足場を作るだけの余白が大きいこと、クラウドへの出入口として独自性を発揮するためにOSを自社で持つ利点などについて話していた。

 言い換えればwebOS事業の終焉(しゅうえん)は、これらHP自身が目指していた陣地を捨てるということだ。つまり、PCがカバーしていた市場がPC、タブレット、スマートフォンに再分割されるとき、それらに対する独自の統一された解決策の提供をあきらめたということを意味する。したがってHPのパーソナル製品は、他社製プラットフォームの上でハードウェア事業を行っている企業と同じ立ち位置での事業展開にとどまることになる。

 景気後退でコンシューマー市場が冷え込もうとしている時期に、新たなプラットフォーム立ち上げに巨費を投じて勝負をかけ、アップル的なプラットフォーマー兼エンタープライズベンダーという立場を目指すギャンブルを張らないとした判断は、おそらく妥当なものなのだろう。

 筆者は現時点におけるHPのPC事業は、周囲が言う程に悪いものではないと感じている。PCがコモディティになろうとしたとき、再びパーソナル製品としての価値を引き出し、シェアナンバーワンに立ったHPの商品力は決して弱まってはいない。しかし、スマートフォンやタブレット端末を含めた業界の再編成に対し、今回の結論が“座して待つ”ことへとつながるのであれば、PC事業をHP内に持つ理由について考え直さなければならないことは自明だ。

 大きな流れの中で、HPのPC事業の要不要ではなく、目指していた事業領域への戦略を中断した痛みは、しばらくの混乱の後に再編成を促すことになる。webOSに対する米市場の期待は大きく、iOSに次ぐ期待を集めていた。販売は不振だったが、決して注目度が低かったわけではない。

 HPが大きな投資を継続すれば、Windows Phoneを超える支持を得られていた可能性もある。しかし、今回の発表でスマートフォン、タブレット市場に新たなメジャープレイヤーが加わる可能性はなくなったと言っていい。一方、webOS廃止により漁夫の利を得るのはマイクロソフトになるだろう。

※記事初出時、Palm買収時におけるHPのCEOの記述に誤りがありました。おわびして訂正いたします(2011年8月22日18時)

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