LINEが携帯・固定への音声電話サービスを開始━━キャリアに料金改定を迫るインパクトになり得るか石川温のスマホ業界新聞

» 2014年03月07日 12時00分 公開
[石川温]
「石川温のスマホ業界新聞」

 MWC取材で疲れ切って、ホテルで爆睡していたら、朝3時に電話でたたき起こされた。某テレビ局から「LINEについて話を聞かせて欲しい」との内容だった。

 LINEが何をしたのかと思ったら「LINE電話」を開始するという。慌ててリリースなどをチェックすると、かなりインパクトがあって驚いた。

この記事について

この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2014年3月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額525円)の申し込みはこちらから。


 まず、LINEに対してツッコミたかったのが、「なぜ、バルセロナで記者会見をやらないのか」という点だ。

 今回、MWCにはFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOと買収されたワッツアップのジャン・コームCEOが参加していた。マーク・ザッカーバーグの基調講演は当然、満員で注目度も高かった。

 ここ最近のMWCといえば「OTTが台頭する中、キャリアはどう生きていけば良いのか」という話題ばかりだ。まさに、LINEは、OTTの代表として、キャリアの音声通話ビジネスに殴り込みをかけてきたわけで、MWCに参加する、世界中の業界関係者の誰もが「LINEの戦略を聞いてみたい」と思っているに違いないのだ。

 別にLINEが日本国内でちまちまと音声通話サービスをやるというのであれば、日本での記者会見で十分だろう。しかし、LINE電話は日本だけでなく、アメリカ、メキシコ、スペイン、タイ、フィリピンでサービスを提供するのだという。

 スペインにはLINEユーザーも多く、MWCの開催地はスペインである。MWCにはアメリカからも多くのメディア関係者が来ている。

 MWCで記者会見を行い、ブースも出展し、海外メディアからのインタビュー取材に答えていれば、世界中へのインパクトは絶大だったはずだ。

 LINEは世界に向けて、まずは5億人、さらに10億人のユーザー獲得を目指すサービスのはずだ。情報発信の視点が日本国内だけに向いているのが残念でならない。

 Facebookのワッツアップ買収報道とともに、LINEが世界で取り上げられれば、それだけでユーザー獲得のチャンスでもある。世界で、ワッツアップとLINEが比較されれば、LINEの優位性を示せたはずではないだろうか。

 LINE電話は、改めて考察するに、これはとてもインパクトのあるサービスだと思う。日本国内でも5000万のユーザーを抱えるLINE。しかし、多くの人が使っているのは「メッセージ」ばかりで、無料通話も使うユーザーというのは意外と少ないのではないか(かつて、KDDIの高橋誠さんが「キャリアがLINEと組むのは、意外とLINEの無料通話は使われておらず、さほどキャリアにとって影響はない」と語っていたことがある)。

 友達や友人など特定の相手や海外渡航時に無料通話を使うことはあっても、仕事先など、普段の通話となると、携帯電話の番号を使うという人が多いだろう。

 今回、LINEは、携帯電話宛に発信した際も、自分の番号が相手に通知されるという(相手がドコモの場合を除く)。これであれば、相手には携帯電話からかけたと思わせつつ、自分はしっかりと通話料金を抑えることができる。

 LINE電話を使うようになり、もし相手もLINEを使っていることがわかれば、LINE同士の無料通話に移行するという流れにもなるだろう。お互い、LINEで連絡を取り合えば、どちらも無料になってハッピーだ。とにかく、LINEの音声通話の敷居を下げるという点では、楽天でんわ以上のインパクトがあることは間違いない。

 この報道を聞いたとき、はじめは「LINEがマネタイズを強化した」と思ったが、それにしては通話料金が安すぎる。また、もともと無料通話を提供している会社からすれば、ユーザーが無料通話に移行してしまえば、すぐに収入は少なくなることが目に見えている。つまり、LINEとしては、儲けを度外視し、とにかく毎日、頻繁にLINEを立ち上げてもらい、ほかのサービスにも触れて、使って欲しいという「接触ポイントの強化」という狙いがありそうな気がする。

 今回、LINEが携帯電話向けの通話サービスを始めたことで、携帯電話キャリアは苦しい立場に追い込まれたのは間違いない。

 ソフトバンクの「VoLTE自体を見据えた革新的な定額プラン」が一気にかすんでしまった。5分以上は30秒30円という高価な料金設定で、孫社長の「5分以上経ったらかけ直せば良い」なんていう、いいわけは通用しなくなってしまった。

 NTTドコモやKDDIは、今年中にVoLTEを始めそうな雰囲気だが、LINE電話に対抗できる料金プランを設定しないことには、一気に音声通話収入を失うことになりかねない。

 当初は発信側の通話収入が見込めなくなるものの、通話先が携帯電話であれば、着信側の接続料は得られることができる。しかし、ユーザーがLINE同士で無料通話に移行し始めるようになると、今度は着信側の接続料もゼロとなってしまう。

 VoLTEでは、各キャリアとも「LINEを使わなくても安い」とユーザーに思わせる料金設定にする必要があるだろう。

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