新料金プランの導入で好転、LTEの150Mbps化も順調――ドコモ永田氏に聞く 関西での戦い方(1/2 ページ)

» 2014年10月30日 14時06分 公開
[石野純也,ITmedia]

 関西は、全国で見るともっともキャリアの競争が激しい地域の1つだ。特にかつては、ドコモに対して強い逆風が吹いていた。価格面では、KDDIがケイ・オプティコムとタッグを組み、auスマートバリューでユーザーの獲得を加速させている一方で、ドコモは固定とのセット割引を提供できていなかった。「ドコモは高い」というイメージも相まって、流出が続いていた格好だ。

 こうした状況が「新料金プランの導入で一変した」と語るのが、2013年、同社の関西支社長に就任した永田清人氏。1.7GHz帯を用いたネットワークが広がるのに合わせ、同氏が得意としていたマーケティングを駆使して、ユーザーへのアピールも強化している。料金、ネットワークに加えて、iPhoneの導入もユーザーの出戻りが増える契機になったという。

 実際、電気通信事業者協会(TCA)のデータを見ても、2013年は関西地域の純減が目立っていた。その状況が2014年になって変化し始め、2月と3月は純増を記録。TCAが毎月の純増数の公開をやめた後に初めて公表した6月末の四半期での加入者数を見ても、関西地域は3月からほぼ横ばい。純増数はあくまで1つの断面でしかないが、少なくとも加入者数に関しては、2013年より状況が好転しているようにも見える。

 そんな激戦区とも呼べる関西で、ドコモはどのように戦っているのか。同社で関西支社長を務める、常務執行役員の永田清人氏にお話を聞いた。

2013年9月ごろから「全駅やれ」という指示を出している

photo NTTドコモ 常務執行役員 永田清人氏

―― 永田さんが支社長に就任されてから、1年以上たちました。あらためて、関西市場の動向や、永田さんが支社長になってから変化したことなどをお話ください。

永田氏 もともと本社で全体の数字は見ていましたが、関西は市場が厳しい。平均値よりお客様の減り、つまりポートアウトや解約率が高かった――。これは過去形でお話した方がいいですね。1年前に来たときは、残念ながらネットワークもナンバー1と胸を張って言える状況ではありませんでした。そのころはiPhoneも導入する前でした。

 局面が大きく変わったのは後でお話する新料金を入れてからですが、当時はその3要素(ネットワーク、端末、料金)がなかった。iPhoneは2013年9月に導入しましたが、関西として努力してやってきたのは、やはりネットワークです。2013年12月に環状線の全駅150Mbps化をやり、あそこからドコモショップのスタッフにも自信がつきました。ほかが「ナンバー1」と言うので、お客様からもいろいろと言われて、ちょっといけない状態になっていました。

 そこから明確に分かる形で150Mbps化を打ち出しました。ネットワークの部隊も相当がんばってくれましたから。ネタばらしになってしまいますが、2013年9月ぐらいから「全駅やれ」という指示を出していました。それまでも一生懸命やってくれてはいたのですが、「環状線の“ほぼ”全部ができる」「8割ぐらいならできる」と、こういうような返答が返ってきていました。自然にやっていくとそうなるのですが、どうしても12月の商戦期に「全駅と言わせてくれ」と言ってきました。

 努力というのは、分かりやすい形でプロモーションしないと伝わらないですからね。そこに相当こだわって、相当な無理をして実現をしてもらいました。12月に全駅をやるという約束どおりできました。次に3月に向けて、点で19駅だったのをぐるっと線でつながていき、最終的には環状線の中を150Mbps化しました。これは、お客様にとっても分かりやすいですし、ショップでもお伝えしやすい。

photophoto 神戸線と京都線の全駅で150Mbpsのエリア化が完了した(写真=左)。4つのLTEバンドを用いたクアッドバンドエリアと100Mbps超えのエリアを、関西全域で展開する(写真=右)

 合わせて、USJのオフィシャルパートナーにもならせていただいているので、そこも含めて150Mbps化しています。お客様がたくさん集まり、認識しやすいところをやらせていただきました。3カ月ごとに畳みかけるようにやり、2014年の6月には神戸線や京都線も全駅150Mbps化しています。これも今度は線にしていこうとしています。

 150Mbpsは1.7GHz帯に20MHz幅持っているので、素直に150Mbpsを出せるのは我々だけです。その強みを使って、2013年からお客様にご理解いただけるように進めてきましたし、ショップにもそれが伝わっています。今は非常にいい状態ですね。

 先日のiPhone 6、6 Plus発売に合わせてgooが調査した結果が、ここにあります。auさんもソフトバンクさんも、技術的にはTD-LTEをお使いになって、下りはだいぶ速くなっていますが、我々としてはそれでも平均値で勝たせていただいています。合わせて、TD-LTEは下りにスロットを取ればそれだけ上りが遅くなります。上りでは断トツで我々の方が速くなっています。お客様の感覚から言うと、環状線については我々が優位というところでしょう。

 自信をなくしていたところから、1年半かけてようやくここまできました。あとは、実体験として、100Mbps以上のエリアをもっとワイドにしていきたい。3月末の状況がこんな感じで、2015年の3月にはここまで広がっていきます(下図参照)。お客様が行かれるところは、ほぼ100Mbps以上というようになります。基地局の数はお客様に見えるものではありませんが、それも21倍にします。広さと厚みをやっているので、ネットワークについては負けるつもりはありません。これがすべてのベースですからね。

 その上で、ドコモショップは日経リサーチさんに出してもらったアワードで「おもてなし魅力度」で1位になりました。ドコモショップのおもてなしはいいと言われていましたし、我々もいいと言ってきましたが、なかなか第3者がああやって調査したものがなかったので。同率首位がティファニーさんだったのもうれしいですね。ティファニーさんと同じくらいのおもてなし度があると認められていることは、ショップで働いている人の自信にもつながります。ネットワークとフロントであるショップが、関西では磨かれてきています。その評価はずっと続けられるようにしないといけないですね。

 今回、新料金を6月から入れて、お客様のポートアウトもグッと少なくなりました。これは非常に大きいですね。やはり関西ですから、コスト意識が高いお客様が多い。カケホーダイ、パケあえるは相当刺さっていると思います。他社も(同様の料金プランを)出してこられていますが、最初にやったことで、お客様の認知も高い。これは、ショップのスタッフとも話していると分かります。あとは我々が先導したことで、よく言われていた「ドコモは高い」というイメージも払しょくできました。イメージを変えられたというところで、あっちがいい、こっちがいいと思う率が下がってきました。これまで通話料をたくさん払ってきたお客様には、やはり2700円でどこにでもかけられるというのが響いています。

 これからはパケあえるですね。これは家族で入ると相当おトクですから、ご家族で“戻って”きてほしい。今はiPhone 6、6 Plusもありますので、iPhoneを扱ってこなかった間に出られたお客様にも戻ってきていただければと思います。

 さらに、今日見ていただいた(災害対策や災害に備えた訓練の)ように、スピードやエリアの広さだけでなく、本当に安心して使ってもらえるのがドコモです。関西は南海トラフ巨大地震にも関心が高いことですから。和歌山では8月末までに特別な対策をしましたが、こういうこともまだお伝えしきれていません。速度は決して負けていないし、むしろ勝っています。さらに安心してお使いいただける。何か起きると、設備はもちろんですが人的な努力が必要です。車で出て、一時対策をする。そういうことができる人間を育てたいという思いで、ああいうことをやっています。

photophoto 南海トラフ巨大地震の発生に備えた取り組み

関西はauスマートバリューが強い

―― お話の冒頭で、関西は非常に厳しい市場とおっしゃっていました。なぜ、関西はそのような傾向があるのでしょうか。

永田氏 先ほどお話した、コスト意識が関西全体で厳しいというのが1つ目の理由です。2つ目は、今後どうなるか分かりませんが、我々がシェアやブランドを伸ばしたのは、iモードが始まってからです。それ以前を見ると、関西セルラーの方がシェアが高かったんですね。決してドコモは昔から盤石で、圧倒的なブランドを持っていたわけではありません。

 あとは、人の住んでいるエリアが山に囲まれている。大阪も神戸も京都もそうです。エリアの構築も、人のたくさんいるところだけなら集中してできるという地形的なお話があります。他社も決して悪いわけではなく、数字を見ていただければ分かるように、互角に勝負をしている中で我々が勝っているという状況です。3社で市場を取り合っていますし、過去のブランドもあります。

 もう1つ、やはりauスマートバリューもあるだろうというふうに思っています。関西ではケイ・オプティコムさんが非常に強い。実利的な関西人の感覚から言うと、あちらに流れる方もいます。ケイ・オプティコムさんも一生懸命広げられていて、シェアも高い。東日本と西日本では、そういう競争環境も違っていて、我々には厳しい状況になっています。

―― 関東やその他の地域に比べると、固定でNTTの力が弱い。そことセットにしたモバイルの割引が入ると、ドコモにとって不利になるということですね。

永田氏 これまで、auさんが有利だったと思います。ただし、新料金プランが入って、その辺の感覚もだいぶ揺らいでいます。パケットも分け合って賢く使うと、タブレットも今までのようにプラスα、プラスαでお金がかかるわけではありません。新料金が入ったことで、別の勝負の軸を考えていただけるようになったかなと思います。

―― ここに今やろうとしているNTTの回線を使った光コラボレーションが入ってくれば……。

永田氏 そうですね。光コラボが入ってくれば、もう一度見直して、光の回線とともに我々に戻っていただくこともできると思います。

 流動的な市場というのは、それだけチャンスもあるとういことです。我々も、この1年半でだいぶ変わりましたからね。

―― まだ始まっていないので何も言えないと思いますが、光コラボについてのお話をもう少し詳しく教えてください。

永田氏 この間、ようやくNTTさんが基本的な考え方をお話になったところで細かいことは決まってません。ただ、我々からすると、出ていったお客様に帰ってきてほしい。今お使いの方がおトクになるというのは当然やっていくとして、やはり帰ってきていただけるものにしていきたいですね。といっても、これは私が決めるわけではありませんが(笑)。

―― 永田さんが関西支社長になってから、そうした全体の方針を一気に転換させたのでしょうか。

永田氏 私がやっているのは、プロモーションのところですね。もともとはマーケティング部長だったので(笑)。そういうところはあると思っています。新料金もジャンプスタートしようと言っていました。そのへんは、みんなで意識を高めていけたと思います。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年