総務省が正式に携帯電話のSIMロック解除の義務化方針を発表しました。これがどのような影響力を持つのか、考えてみます。
もともと携帯電話には、電話機(無線機)と加入者(SIM)を切り離すコンセプトが盛り込まれていました。電話機は通信機能だけを持ち、ユーザーは事業者との間でサービスを契約します。
この分離構造のため、電話機メーカーとネットワークベンダがきちんと国際標準に準拠していれば、ユーザーはどの事業者とも自由に契約を結べるようになります。
その一方、このコンセプトを突き詰めると事業者は他の事業者との競争が難しくなります。そこで、さまざまな付加価値を提供し、それを差別化ポイントとして訴求することになりました。
ここで問題なのが、事業者の提供する「価値」の中に電話機そのものも入っていたことです。事業者は「この電話機を使えるのは当社だけ」と宣伝するために、その電話機が他の事業者で使えないようにロックをかける必要がありました。これが、SIMロックです。
今、SIMロックが解除されると、もともとのコンセプトの通り、全ての電話機が全ての事業者で平等に使えるようになります。しかし、本当にそうなるのか、まだ分かりません。
というのも、事業者が工夫し続けてきた「標準以上の価値」は、電話機だけではないからです。
メールやWEBなどはもとより、アプリやニュース配信など、各社とも独自IDにひも付けた様々なサービスを提供しています。そういった独自サービスのために、端末にいろいろな仕掛けがしてあります。
たとえば、A社の独自IDの仕組みを実装した端末XをB社系のSIMで使うとします。もしかすると、SIMの中のA社独特の情報から独自IDを生成する仕組みを持っているかもしれません。すると、B社系SIMを挿した瞬間、端末Xは「必要なIDが取得できないので電源を落とします」という動作をするかもしれません。
独自IDをネットワークに送信して有効かどうかを確認し、有効でないと一部のサービスをストップさせたり、電波を強引にOFFにするような作り方をしている場合もあります。このような作りこみに関しては公表義務がありませんから、どの端末が動かないのか、利用者が知る方法はありません。
また、もっと基本的な問題として、対応バンド(周波数)の差異があります。コスト削減(試験コスト等)のために、ハードウェア的には対応しているバンドでもわざと動作不可にしている場合もあります。この場合も、他社バンドでは動作しないということが起こり得ます。
特に今後問題になると思われるのが、VoLTEです。日本は音声通信に関する法的規制が特に厳しいため、VoLTEによる音声サービスの提供でもいろいろと独自の仕掛けをしなければなりません。その独自の仕掛けに対応しているかどうか電源ONのときに確かめ、対応していない場合には法令違反になる恐れがあるためわざと電波をOFFにするような作りこみをするようになる可能性もあります(たとえデータ専用SIMでも)。
原則としてSIMロック解除義務化は歓迎すべきことなのですが、だからと言って全ての端末と全ての事業者が組み合わせ可能とは言えない上、たとえば最初は上手く動いていても事業者側のネットワーク調整で動かなくなることもあり得ます。
MVNOなどは他社端末を使うことが前提なので、動作確認を独自に行うことが多いでしょう。ですので、SIMロック解除端末を使うなら実はMVNOが一番安心かもしれません。
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