25年の歳月をかけて誕生 カシオの自動作曲アプリ「Chordana Composer」とは?佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)

» 2015年05月22日 11時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 たった2小節のメロディーを鼻歌で歌うだけで、楽曲を1曲、丸ごと作成してしまうという、カシオ計算機のiPhone用アプリ「Chordana Composer」が人気だ。しかしなぜ、スマートフォンで自動作曲なのか。またどうやって、2小節のフレーズから楽曲を作り上げているのだろうか。気になる疑問を開発者に聞いてみた。

頭の中のメロディーを自動で1つの楽曲に

 音楽の知識やセンスがあるわけではないけれど、頭の中に浮かんだフレーズをなんとなく口ずさんだことがあるという人は、意外と多いのではないだろうか。だがそのフレーズを1つの曲に仕立て上げるとなると、残りのメロディーや伴奏はどうするかなど、途端に音楽の知識とセンスが求められることになる。

 音楽を聴かないという人はおそらくかなり少数派だろう。また演奏を楽しむ人も多い。音楽に触れる機会が増えているにもかかわらず、曲を作ることのハードルは高い。それゆえ自分だけのフレーズが浮かんでも、「作曲家でもないのに、曲を作るのは……」と、諦めてしまう人がほとんどなのではないだろうか。

「Chordana Composer」

 作曲はできないけれど、曲を作ってみたい――。そんな矛盾した願いを実現してくれるのが、カシオ計算機が1月にリリースしたiPhone用アプリ「Chordana Composer」だ。これは、たった2小節のフレーズを入力し、曲のジャンルと曲調を選ぶだけで、フレーズをもとにメロディーや伴奏を自動的に作成し、1本の曲を作り上げてしまうというアプリ。フレーズの入力は鍵盤を用いるだけでなく、マイクから入力することも可能。つまり鼻歌を歌うだけで、曲が1曲完成してしまうのだ。

photo カシオ計算機の南高純一氏

 Chordana Composerを開発したカシオ計算機のコンシューマ事業部 企画部 アプリ企画推進室の南高純一氏にこのアプリの開発理由について聞くと、やはり「誰でも頭の中に自分のメロディーがあって、世間のヒット曲よりもそちらの方がいいと思っている。それだけに、頭の中のメロディーをにしたいという潜在的な願望があるのではないかと思い、アプリとして開発した」とのこと。誰しもが密かに抱いているニーズを顕在化できたことが、アプリのヒットにつながったといえそうだ。

photo 「Chordana Composer」は、入力された2小節のフレーズをもとに自動で曲を作ってくれるアプリ。鍵盤や音符入力だけでなく、マイク入力にも対応している

 実際Chordana Composerは、配信後1週間が経過した2月1週目には、App Storeの「ミュージック」カテゴリの有料アプリランキングで1位、総合、有料アプリランキングでも2位を記録するなど、配信直後から高い人気を獲得。執筆時点(4月末)でもミュージックカテゴリの有料アプリランキングで3位を記録するなど、今でも高い人気を維持している。

2フレーズのメロディーからどうやって作曲?

 ではChordana Composerはどうやって2小節のメロディーから曲を作っているのだろうか? 「多くの独自ノウハウが詰め込まれている」と話す南高氏に、その仕組みをできるだけ簡単に教えてもらった。

 アプリを利用するには、まず最初にフレーズを入力(鼻歌の録音、またはピアノ鍵盤による演奏)し、どんな風に仕上げたいのか、曲のジャンルや曲調を設定する。アプリには、人間が自然な音階と感じる音符の接続ルールや、コード進行などのデータベースが収録されており、入力フレーズをもと曲の骨組みと言えるモチーフを生成。そこに曲調ごとのリズムとテンポ、そして伴奏や間奏を付け加えて作曲するという。

 人間が聴いて自然と感じるメロディーには音符の接続ルールがあり、それはキーとコード進行によって決まってくる。アプリは曲調ごとの「らしい」コード進行や接続ルールを元に、独自のアルゴリズムによってモチーフからイントロ、Aメロ、Bメロ、サビといったメロディーを構成し、伴奏を作り上げていくのだそうだ。そこには、ユーザーが入力するフレーズはもちろん、楽曲のジャンルと曲調、そしてメロディーの動きの大きさやテンションなど、いくつかのパラメーターが大きく影響してくる。

photo Chordana Composerの自動作曲の仕組み。入力されたフレーズや設定と、接続ルールやコードなどのデータベースをもとにメロディーや伴奏を作り上げる(出典:カシオ計算機)
photo フレーズ入力後にジャンルや曲調を選ぶ必要があるが、これが自動作曲する上での大きなポイントとなる

 完成した曲はアプリ上の五線譜にも表示され、音符を直接タップして編集することもできる。その際に譜面を見ると、赤や青で表示された音符が出てくる。これはメロディー内の音がコードに合っているのか、テンション(和音を構成する音以外で緊張感を与える特徴的な音)なのか、あるいはコードから外れるため利用に注意すべき音(アボイドノート)なのかを判別して表示されるもの。この仕組みがあることによって、音符が苦手な人でも、簡単にかつ音を外すことなく編曲ができるという。

photo 作成された曲のメロディーは後から編集も可能。音符を色分けし、コードに合った音かどうかを確認しやすくしているのがポイント(出典:カシオ計算機)

 ちなみにChordana Composerが“2小節で作曲できる”とうたっているのは、最初のバージョンではマイクによる入力が2小節までしか対応していなかったことが大きいという。だが現在ではマイク機能が改善されたことで、設定を変更して入力できるフレーズが1〜8小節まで変更できるようになった。ということで、実は1小節のフレーズだけでも作曲が可能なのだ。

 自然な形で自動作曲を実現したのに加え、一見すると複雑に見えるという複雑な仕組みを、手軽に利用できるよう設計しているのも、Chordana Composerの大きなポイントといえるだろう。実際、鍵盤だけでなくマイクから音声を入力できるだけでなく、作曲を開始してから、曲が完成するまで待たされることなく、瞬時に曲を楽しめるようになっている。

 南高氏も「時間をかければより多くの取り組みができるが、誰でも楽しめるよう、できるだけ短時間で作曲できるようにした」と話しており、譜面が読めなくても作曲を楽しめることを強く意識していることが分かる。もちろん、作曲の知識や経験のあるユーザーが使えば、より楽しめるのは間違いない。

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