今回のBailey氏の講演で感じた変化は2つある。1つは自社イベント以外の業界イベントに顔を出すことで歩み寄りを見せたこと。そしてもう1つは、これまで正式発表まではクローズドで作業を進めて情報公開を行ってこなかったAppleが、あえて次期iOSに搭載予定の機能をプレビューすることで、早期に関係者を取り込もうという姿勢を見せたことだ。同氏は2018年中にもリリースされるとみられる「iOS 12」の小売店向け機能を一部紹介し、その活用と対応を促している。
ここでプレビューされた新機能がBusiness Chatだ。店舗やサポートセンターが通話の代わりにチャットインタフェースを使って顧客とやりとりする機能で、今後はApple Maps(iOS標準のマップ)やSafariの店舗検索のメニューに標準追加していくと述べている。
基本的にiOS側で利用するのはiMessageのアプリで、Bailey氏は「iMessageは標準的なチャットインタフェースに全て接続でき、企業の設備との組み合わせでユーザーの対話チャネルを増やせる」とそのメリットを強調する。
チャット型インタフェースのメリットは、電話の自動応答よりは顧客にフレンドリーで応答性が早いこと、そして素早く決済等の仕組みに誘導できること。実際、NRFの展示会ではチャットインタフェースでおすすめ商品を選んだ後、そのまま決済へと遷移するサービスのデモストレーションがいくつか見受けられる。
私見ではあるが、チャットの応用範囲は広く、今後はアプリの一部はその機能の比重をチャットへと移し、こちらがモバイル端末利用の中心になるとみている。現在はモバイル利用時間の87%がアプリという状況だが、今後数年でその比重は下がり、最終的にチャットやMessengerなどの仕組みがマジョリティーに近い水準になるのではないかと予想する。
Appleとしてもこのトレンドをいち早く取り入れ、チャットインタフェースを活用するであろうビジネスユーザー(小売店)を先行して取り込んでおこうという狙いのようだ。
機能プレビューの2つ目は「Indoor Maps」、つまり屋内地図だ。既に現行のApple Mapsでも一部建物については屋内地図が実装されているが、今後これをさらに強化していくというのがAppleの方針だ。屋内や地下ではGPSが使えず、道案内を含む直接的な誘導(ナビゲーション)が行えないという問題がある。
そこで、店舗検索を行った際に、建物上のどこに店舗があるのかをハイライトし、そこへの簡単な案内を挿入するだけでもユーザーフレンドリーだというのが同社の考えだ。このあたりのUI(ユーザーインタフェース)の工夫が機能強化のポイントとなる。
最後がCore NFCだ。これはiOS 11以降に実装された機能で、iPhone 7以降のデバイスで利用できる。簡単にいえば5種類あるNFC Forum標準のNFCタグを読む機能で、FeliCaタグの読み込みも可能になっている。
AppleのiPhoneにおけるNFCインタフェース開放の第1弾となるが、現状はまだフォアグラウンドのアプリからタグの読み出しが可能な仕組みであり、AndroidのようにNFCタグをトリガーにして別のアプリを呼び出す仕組みは直接的には実装できない。iPhoneにおけるNFCタグやQRコード読み取りといった標準機能はまだ活用が進んでいないのが現状で、これをアピールするためにあらためて紹介したとみられる。
iPhoneが標準でこれら機能をサポートしたことで、これまであまり導入の進んでいなかった小売で今後活用される可能性が出てきており、特にマーケティング誘導などの面での変化が予想される。これまでは、こうした店舗誘導やプッシュ配信では「Core Location+BLE」といったBluetoothと位置情報を組み合わせた仕組みの活用を促していたAppleだが、2018年後半には新しいアイデアで店舗誘導の仕組みを構築する事業者が出現すると予想している。
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