スタートアップ企業のpringが注目するのは「決済」というよりもむしろ、「お金の流れをもっと簡単にする」という部分だ。
海外では広まりつつあるモバイル端末を使った送金サービスは、日本では驚くほど普及していない。利用開始までのハードルの高さがその理由の1つだが、これを徹底的に単純化するのが同社の狙いだという。
pringのウォレットでは銀行からのチャージや送金、店舗への支払い、銀行口座への出金は全て手数料無料となっており、pring同士であれば1円単位での送金が可能だ。一方でpring経由での支払いを受ける加盟店には1%程度の手数料を徴収する計画で、これが事業を開始したばかりの同社の収益源となる。
通常、日本国内でクレジットカードを利用すると2〜3%程度の手数料が徴収されるが、銀行口座を直結させることで、手数料を極限まで抑えた。pringにはみずほ銀行が出資しているが、接続先口座はみずほだけでなく三井住友銀行にも対応している。
一部のウワサでは、現在これに三菱UFJ銀行を合わせたメガバンク3行が策定中の「QRコード決済」の共通仕様にpringを採用したという話も出ており、手軽な送金・決済手段として注目を集めることになるだろう。
決済以外でのお金の流れ全体に着目したのがpringだとすれば、「販売チャネル拡大」という部分で新しい決済方法を導入しつつあるのがAmazon.comだ。同社はAmazon.co.jpのサイト外での取引の決済代行サービスとして「Amazon Pay」を3年前から国内展開している。
最初の提携相手が「出前館」「劇団四季」といったように、Amazon.co.jpのインタフェースで購入が難しい、あるいは「デリバリー代行」という取り扱いが難しいサービスであり、自身の商圏を広げるための手段としてAmazon Payを活用している。
Amazonも間もなくではあるが、QRコードなどを使った店頭での決済サービスに参入するという話があり、オンラインサイト最大手のオフライン(店頭決済)進出として話題を呼んでいる。
「1強」「2強」というサービスが今後1〜2年で登場する可能性は高いものの、もともと未開拓だった領域を新しい市場参入者らが開拓しつつあり、全体で見てキャッシュレス比率を引き上げつつあるのが日本の現状といえる。
一方で、野放図に決済方式が乱立するのはあまり好ましい状況でない。主に加盟店での処理負担軽減のために、経済産業省を中心に関係各社が集まってQRコード決済共通化に向けた取り組みが進みつつある。恐らく、国主導というよりも各社の自主的判断により統一化が進むことになるだろう。
ただしこの取り組みは国内限定となるため、例えばAlipayやWeChat Payの共通化については難しいと考える。この点についてpringの荻原氏に尋ねたところ「各国の事業者とローミングをするしかないのでは」と答えている。つまり、加盟店が複数のサービスにPOSで対応していくのではなく、例えばpringウォレットが台湾PayのQRコードを表示して台湾現地で日本人旅行客が利用できたり、あるいはその逆が実現できたりと、サービス間でウォレットが連携するイメージというわけだ。
中国からの訪問客を中心にインバウンド需要で導入が本格化した日本のQRコード決済市場だが、さまざまな業界や企業を取り込んで事業領域を広げつつある。
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