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決済手数料「0.95%」 個人間送金+モバイル決済サービス「pring」の挑戦

» 2018年06月28日 12時47分 公開
[田中聡ITmedia]

 「pring(プリン)」という決済サービスをご存じだろうか。2017年5月にメタップスとみずほ銀行が設立した「株式会社pring」が、2018年3月から提供しているサービスだ。まだ始まったばかりのサービスということもあり、知らない人が大半だろう。

pring お金コミュニケーションアプリ「pring」

pring(プリン)とは?

 pringでは、銀行口座からアプリに即時チャージができ、そのお金を他のpringユーザーに送金できる他、アプリにたまったお金を銀行からキャッシュアウト(現金の引き出し)することもできる。送金やキャッシュアウトの手数料は一切かからない。現在、みずほ銀行、三井住友銀行、福島県の東邦銀行の口座と連携できる。

 QRコードやバーコードを使った実店舗での決済も可能としており、6月27日には加盟店の募集を開始した。注目は、店舗側が負担する決済手数料が0.95%と低いこと。pringはこの数字は「業界最安値」だと説明している。

pring pringでは、送金、出金、決済の3つができる

 さまざまな決済サービスが日本で乱立する中、pringはどんな狙いで参入したのか。またどのように差別化を図っていくのか。6月21日に日本キャッシュレス化協会が開催した「キャッシュレスが創る未来」で、代表取締役CEOの荻原充彦氏が語った。

pring pring 代表取締役CEO 荻原充彦氏

pringを導入した狙い

 日本では「○○ペイ」といった決済サービスが乱立しており、QRコード決済を使ったサービスも多いが、一般ユーザーにとっては違いが分かりにくい。そこでpringでは「お金でコミュニケーションを活性化させる」ことを狙った。新たなマーケットを作ろうと考え、サービス名にはあえて「ペイ」とは付けなかった。pringの由来は、「p」が「ペイ」や「プレゼント」を、「ring」が「お金のコミュニケーションの輪を広げていく」ことを意味する。

 お金のコミュニケーションとはどんなイメージか。例えば割り勘代金の請求は、少し気まずいものがあるが、pringアプリではメッセージ機能も使える他、1円単位で送金できるので、立て替えた人が損をしにくい。また、単純に借りた側が忘れている場合でも、pringのメッセージ機能を使えば催促しやすい。荻原氏は、こうした“気まずさ”を少しずつ解消していきたいと言う。

pring 一般消費者の課題とpringの解決策

 荻原氏は、他の決済・送金サービスとの大きな違いとして、銀行などの金融機関以外の業者でも為替取引ができる「資金移動業者」に登録していることを挙げる。これにより、連携している銀行から、pringアプリにたまったお金を現金化できる。例えば「Suica」でチャージしたお金を現金に戻すことはできない。

 荻原氏が一般ユーザーに話を聞いたところ、交通費として毎日700円を使うのに、Suicaに1000円しかチャージしない人がいた。その理由は「お金を取られるのがいやという感覚があった」そうだ。電子マネーを日常的に使っている人にとっては理解しにくい感覚かもしれないが、「現金化」が響くユーザーも一定数いそうだ。

 裏技的な使い方になるが、対応している銀行間でチャージとキャッシュアウトをすれば、手数料ゼロで振り込みができてしまう。例えば、みずほ銀行でチャージしたお金を、pringアプリから三井住友銀行へキャッシュアウトすれば、結果的にみずほ銀行から三井住友銀行へ振り込まれる形となる。しかもこの操作は全てスマホだけで完結する。

 より多くのユーザーに使ってもらえるよう、アプリのUI(ユーザーインタフェース)も工夫した。サービス開始当初は「入金」「送金」などの言葉を使い、アイコンが小さかったが、現在は「お金をおくる」「お金をもらう」「お店ではらう」といった分かりやすい言葉を使ってメニューも大きく表示している。

pring アプリのUIは徹底的に簡略化した

店舗がpringを導入するメリット

 pring側の収益は店舗が支払う決済手数料だが、先述の通り、現在はこれを0.95%と圧倒的に低くしている。クレジットカード会社や決済代行会社などを介せず、銀行口座と直結させることで、手数料をここまで抑えられるという。加盟店にとっては、決済手数料がキャッシュレス決済導入のハードルの1つになっているため、それを解消する狙いだ。「他社の場合、クレジットカードの決済手数料は安くても3.24%程度だが、われわれはその3分の1以下を提示する」(荻原氏)

pring 他社と比べても圧倒的に低い決済手数料を実現

 「クレジットカードの決済手数料で3%を払っている業者が、差額の2%をマーケティング費用に使って売り上げが伸びればハッピー」と荻原氏は考える。現在は「投資をしてユーザーを獲得するフェーズ」であり、「銀行とpringユーザーがつながって、pringユーザー間でやりとりをしてコミュニケーションが発生すればいい」と同氏は話す。

 加盟店には初期費用や月額費用は発生しないため、低コストでpringのQRコード決済を導入できる。最低限必要なのはスマートフォンかタブレットのみで、紙に印刷したQRコードをユーザーに読み取ってもらうことでの決済も可能だ。

 また荻原氏によると、購入履歴、会員機能、集客支援機能も提供していくという。これにより、加盟店はユーザー1人1人に合ったマーケティング施策を打てる。「例えばApple Payのユーザーは増えたと思うが、誰がいつApple Payで買ったかは(店舗側は)分からないので、それを生かしたマーケティングができない。でもpringなら、例えば特定のユーザーに向けて『20円の割引クーポン』などを発行することができる」(荻原氏)

口コミとキャンペーンで波及を狙う

 課題は認知度の低さだが、「夫婦やカップルでの利用が多い。会社の部署やサークルで使って、3人から7人に増えて、うち1人が新しいコミュニティーに波及して、という循環が起きている」(荻原氏)という。

 こうした口コミでの広がりを促進するための施策を打っていく。「一番効くのが友達紹介キャンペーン」(荻原氏)で、pringのアプリを紹介すると、紹介した人とされた人に500円がプレゼントされる(関連リンク)。また、pringの使い方を想起する動画も、荻原氏が自ら出演しながら制作している。

 個人間送金のサービスは「LINE Pay」や「Kyash」などもあるが、pring独自のメリットは、「銀行口座へのキャッシュアウト」と「格安の手数料」の2つ。競合サービスとの相乗効果も含め、pringがどこまでキャッシュレス決済を広めるかに注目したい。

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