2021年3月11日、東日本大震災から10年を迎える。この震災では、東北地方の太平洋側を中心に、長期間に渡り携帯電話サービスが中断した地域もあった。
このことは、ソフトバンク(当時はソフトバンクモバイル)も例外ではない。携帯電話サービスにおける復旧作業は、完了するまでに1カ月以上の時間を要した。
この10年間で、ソフトバンクの災害対策はどのように進化したのだろうか。震災当時の担当者に話を聞いた。
ソフトバンクでは、基幹通信を担う「ネットワークセンター」を全国各地に設置している。東日本大震災の発生後、その建物や設備について見直しを行い、建て替えや設備の改修を実施したという。
建物については震度7クラスの地震にも耐えられるようにした。合わせて、主要なネットワークセンターについては、外部からの電源供給が途絶えた場合でも48〜72時間稼働できるように無停電電源装置と非常用発電機を整備した。
ただ、携帯電話の通信には「基地局」の存在も欠かせない。2019年の「令和元年台風15号」では、外部電源の途絶が長時間続いたことによる基地局の停止(≒通信障害)が発生したことも記憶に新しい(参考記事)。
そこで同社では、全国の都道府県庁や市区町村役場、災害拠点病院をカバーするものを中心に、基地局の無停電化も進めているという。現時点では、全国で2200局が停電時24時間稼働に対応している。その他の基地局についても、物理的制約(※)を考慮に入れながら停電時の対応を進めているとのことだ。
合わせて、基地局に電源を供給する「移動電源車」(全国に82台)や「可搬型発電機」(全国に1000台)も配備している。非常時に発電機や電源車で利用する燃料を確保する体制も構築したという。
(※)主に基地局を設置している場所の面積や耐荷重
東日本大震災では、主に三陸海岸沿いを中心に通信ケーブル(伝送路)が途絶したことによる通信障害も発生した。ソフトバンクの場合、固定通信の99%復旧まで半年以上の時間を要している。
携帯電話の通信でも、基地局とネットワークセンターの接続、あるいはネットワークセンター同士の接続に通信ケーブルを用いている。通信ケーブルは、あらゆる通信の“要”となるものなのだ。
同震災を受けて、ソフトバンクでは携帯電話ネットワークの通信設備を二重化した。「音声交換設備」「パケット交換設備」「非音声サービス系設備」といったコア設備を東日本と西日本にそれぞれ設置し、片方に障害が発生した場合にもう片方でサービスを継続提供できる体制を整えた。
さらに、伝送路(通信ケーブル)をリング状にすることで、何らかの理由で障害が発生した際も障害の発生箇所を迂回(うかい)して通信できるようにした。現在は迂回路をより広げるべく、伝送路のメッシュ(網状)化も進めているという。
通信ケーブルに障害が発生した場合、先述の通り復旧までに時間がかかる。そこで、同社では移動基地局車や可搬型移動基地局を増備した。現在、移動基地局は全国に100台、可搬型移動基地局は全国に200台配備しているという。通信ケーブルが途切れた場合に備えて、無線式のマイクロエントランス(通信回線)も全国に128対整備した。
ただ、移動基地局車や可搬型移動基地局はどこにでも設置できるとは限らない。特に山間部の場合、自動車が入り込めないような場所にある基地局が“命綱”となるケースもある。
そこで同社は、そのような場所にも人力で持ち運べる可搬型衛星アンテナの増備も進めている。現在は182台を整備済みで、そのうち可搬性をより高めた新型アンテナは100台用意しているという。
衛星通信は、通信ケーブルと比べると容量(通信速度)が限られる上、遅延(レイテンシー)も大きい。一方で、“つながる”という観点では、迅速にエリアを復旧できるというメリットがある。2018年に発生した「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」や「北海道胆振東部地震」では、可搬型衛星アンテナによってエリアの復旧を速やかに行えたという。
さらに、同社では係留気球を使った中継基地局を開発し、2016年の「熊本地震」において実戦投入した。この基地局をさらに洗練したものとして、現在はドローン無線中継システムの開発も進めている。
災害時のエリアカバー手段として、NTTドコモでは大ゾーン基地局を、au(KDDIと沖縄セルラー電話)は大ゾーン基地局や船舶式基地局を活用している。ドコモが「陸」、auが「海」でカバーするのに対して、ソフトバンクはある意味で「空」でカバーする考えのようだ。
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