ゲルにITはあるか?──モンゴルで見たIT事情山谷剛史の「アジアン・アイティー」(3/3 ページ)

» 2006年06月26日 00時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]
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人気の携帯電話に公衆“移動”電話

 電脳街の次は携帯電話“市場”にも出向いてみた。ウランバートルには大きな携帯電話市場がいくつかあるが、その1つ「TEDY」を紹介しよう。横に長い建物の中に通っている直線通路の両側に、これまたびっしりと携帯電話関連の店が並ぶ。携帯端末を売る店が最も多く、続いてストラップやケースなどのアクセサリを扱う店、そして携帯電話の修理屋が並ぶ。こちらは「平日昼間の秋葉原電気街」のように閑散とした電脳街とはうってかわって、「日曜の秋葉原」のように多くの客でごったがえしている。

 携帯電話を利用したサービス、着信音楽や待ち受け画面の配信サービスをする会社も存在する。モンゴルで唯一となるPC雑誌の広告ページにもそのサービスを見ることができる。待ち受け画面には、モンゴルらしい「馬が駆けていくシーン」があれば「モンゴルの英雄」朝青龍の土俵入りなんて画面もある。

 携帯電話のキャリアは数社あり、方式はGSM(SKYTEL)、CDMA(MOBICOM)の両方がある。値段は一般市民にも手軽な額だそうで、携帯電話は(とくに安価な白黒画面の携帯電話だが)そこそこ普及している。一方で有線の一般電話は電話を引くのに当局の許可が必要。そのため、FAXを利用する企業やインターネットを利用する家庭を除けば、電話がある家はほとんどないらしい。

 携帯電話端末の価格は首都のウランバートルが一番安い。首都以外でも端末は売られているが、多く人はウランバートルまで買いに来るらしい。値段は5000円程(5万トゥグルグ)が一般的だが、「中古」となると一番安いもので1000円程(1万トゥグルグ)で購入できる。モンゴル全土に展開するMobicomショップで売られる新品の価格は白黒画面の廉価機種「NOKIA1100」が約9000円(9万トゥグルグ)、同じNOKIAでもモンゴルで販売されるなかでは最上位機種となる「Nokia 7260」で約3万1000円(31万トゥグルグ)だ。Nokia 7260は金持ちのケータイか、と思いきや若者(さすがに職についているが)が持っていたりする。

 モンゴルではウランバートルの都市住民はもちろん、広い草原を移動する遊牧民の間でも携帯電話は普及している。意外にも遊牧民同士の連絡に大活躍しているそうで、「いまどこにいる?」「向こうの山にいる」「ちょっときてくれ」というと、はるか彼方の山の上から騎馬隊がやってくる、ということがごく普通にあると聞く。

携帯電話の売り場は人でごった返す

 このように遊牧民が使いこなしている携帯電話だが、そうはいってもモンゴルの一般庶民に浸透しているとはいいがたい。携帯電話を持たない庶民は公衆電話を利用することになる。ウランバートルの公衆電話は、PHSなのに外観は家庭用電話機といったシロモノを人間が携えている。使いたい人は「公衆電話」に声をかけて電話を借り、「公衆電話」に使った時間分だけ金を払う。街中にある公衆電話は電話を携えている人間(得てして彼が“公衆電話屋”の主人であったりする)が道路に電話機を置いた机と自分が座るいすをおいて客を待っている。中には電話機を抱えてつったっている公衆電話や、デパートの前で待ち客がきたら「電話を使いませんか?」と擦り寄ってくる公衆電話や、市場の中で巡回し「ちょっと電話使わせて」という店長の声に自ら店に向かい受話器を渡す公衆電話も見かけた。なかなか衝撃的というか、カルチャーショックを感じる公衆電話である。


町にたたずむ公衆電話(写真上)とその公衆電話を利用する人(写真下)

 ちなみにモンゴルの田舎町になると、このような公衆“移動”電話ではなく、町の電信局が公衆電話となる。この場合、電話をかけるのは容易だが、電話をかけられる側になると面倒だ。電話を受けた電信局の係官が「何分後に電話してください」と指示して一旦電話をきってしまうのだ。係官はご苦労なことに電話の相手を家まで呼びに行き、わざわさ電信局まで時間内に連れてきて電話がかかってくるのを待つ、という仕組みになっている。

 筆者がこれまでに行ったことのある多くの発展途上国で、どの国でも所得による階層が社会の中に存在して、その国でもリッチで溢れんばかりの富を持つ富裕層が存在することを実際に見てきた。その国の所得水準がどうであれPCを購入できる個人がいて、ユーザーのために電脳街が存在する。その一方で豊かでない人がIT技術を利用できるためのインフラも整っている。モンゴルも例にもれず多くの人の身近にITはあった。

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