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» 2011年05月23日 15時30分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:“当て馬”マウスと“本命”マウス (1/2)

量販店の陳列棚に膨大な数のマウスが並ぶ。よく見れば同じメーカーがほぼ同じ仕様の“競合”モデルを投入していたりする。なんでこんな無駄なことをするの?

[牧ノブユキ,ITmedia]

理屈でいえばラインアップは集約したい

 マウスやキーボードといった入力機器は、量販店のPC周辺機器売場の中でも売れ筋のアイテムだ。ユーザーの利用頻度が高いことから故障による買い替え需要も多いし、使い勝手が合わないという理由で買い増すユーザーも多い。多彩なカラーバリエーションやキャラクタータイアップ商品も、ユーザーの追加購入を促進する。

 動きが激しいアイテムだけあって、多くの量販店では実際にサンプルを試せるコーナーを用意し、数多く登場するモデルを比較検討できるようにしている。こうしたマウスやキーボード売場を見ていて不思議なのは、同じメーカーなのに明らかに競合するモデルが存在することだ。マウスであれば、形状こそ異なるものの、ボタンの数、読み取り方式、ボディカラー、有線もしくは無線、といった仕様が完全に重複する製品を、同じメーカーから発売していることが少なくない。

 一般的に、メーカーは製品ラインアップを集約すると量産効率が高くなり、原価も下がって利益を確保できる。在庫管理も容易になる。上位モデルと下位モデルといった明らかな違いがあるのならともかく、仕様がほとんど同じの製品を同一のメーカーがラインアップとしてそろえるのは、このよう“原則”からしても不可思議な行動といえる。

 しかし、これには“PC周辺機器メーカー特有”の複雑な事情が関係する。

事情その1:陳列棚をとにかく埋めて死守

 同じメーカーが同等仕様で複数のモデルを展開する理由の1つに、販売店の陳列棚、いわゆる「面取り」の問題が挙げられる。量販店の売場を自社だけで埋められるだけのラインアップを用意していなければ、陳列棚の空いたところを狙って競合他社の製品に“侵略”されるおそれがある。その防衛策として、仕様はほとんど同じモデルであってもラインアップとして用意し、陳列棚を埋めることで、他社の参入を防止できる。用意した“ほぼ同じ”モデル自体は売れなかったとしても、侵略されて発生する競合他社の売上をなくすことで、その販売店における“局所的なシェア”を確保できることになる。

 もともとPC周辺機器売場は、量販店の数あるコーナーの中でも扱うアイテム数が突出して多い。そのため、量販店側は、なるべく仕入先を集約して効率化を図ろうとする。具体的な方法としては、ラインアップが豊富な大手メーカーに売場作りの責任を持たせることで、販売店側が行う売場作りや陳列の手間を少なくするのだ。大手量販店だとメーカー2〜3社程度、規模の小さい量販店であれば1社だけに絞って売場作りを任せ、定期的な見直し時期を除き、基本的にPOSによる自動発注で運用するケースが多い。

 このように、売場作りをメーカーに任せる場合、重要な条件となるのは、メーカーのフォロー体制はもちろんのこと、メーカー単独のラインアップでどれだけのカテゴリーをカバーできるかだ。特定のカテゴリーがごっそり抜けているのはNGだし、モデル数が少ないカテゴリーがあるのもNGだ。できれば同じメーカーで比較検討ができると、その陳列棚にくる購入予定者は選びやすくなる。

 こうした事情から、メーカー側は扱うカテゴリーをPC周辺機器の全般に渡ってそろえておくだけでなく、自社製品だけでも比較検討できるようにラインアップを展開することが求められる。同等仕様で投入するモデルが2機種になったからといって、そのメーカーの売上が倍になるわけではないが、それでも1.5倍になるぐらいの効果はある。そして、「陳列棚に対する競合他社の侵略」という重要な戦略目標は達成できることに、大きな意味がある。

事情その2:委託工場を増やしてリスク分散

 PC周辺機器メーカーが同等仕様で複数の製品を持つもう1つの理由は、「製品供給」の問題だ。本来、メーカーは製品のラインアップを集約すると、生産効率も在庫管理効率も向上し、その結果、原価が下がって利益が上がる。

 ところが、この理屈が、PC周辺機器メーカーには当てはまらない。それはPC周辺機器メーカーの多くがファブレスで自社工場を持たず、生産をほかの工場に委託しているためだ。

 PC周辺機器メーカーが生産を委託する工場は、小規模の生産能力しか持たないことがほとんどだ。そうなると、マウスに内蔵するイメージセンサーはいくらでも仕入れられるが、ボディは金型の関係で月に最大1万個までしか作れないといった具合に、部材によって生産数の制限がかかるようになる。

 このような場合、マウスメーカーは、別に同等モデルを用意し、その“ボディ”の生産を別の工場に委託する。同等仕様の別モデルを用意することで販売店での売れ筋を分散させ、マウスメーカーとしては品切れが起こらないようにカバーできる。この方法では、委託する工場の数に応じて生産能力は2倍にも3倍にもなるし、万一委託した工場の1つが倒産しても同等仕様のマウスの供給を停止させないというリスクヘッジにもなる。

 「ならば、複数の委託工場でまったく同じモデルを生産すればいいじゃないか」という意見が出てくるが、製品品質管理の現場では、まったく異なる工場で同一モデルを見分けがつかないレベルで生産するのは、大変難しい。同じ金型を使っても樹脂の色が微妙に異なるし、ビスの形状が違うことで重さが均一にならないことも起こりうる。そもそも、ボディの金型をそれぞれの委託工場に持たせる時点で、金型を2セット用意しなくてはならず、量産効果による原価の低減という目的からも外れてしまう。こうした余計なコストを発生させて、かつ、困難を極める生産管理にリソースを取られるより、まったく異なる2つの製品を委託工場ごとに生産させ、それぞれを別型番としてラインアップするメリットがはるかに大きいというわけだ。

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