Office for iPadの4アプリケーションは、いずれも「1からiPad用にデザイン」されたものだ。
例えば、要素の挿入などの機能を呼び出すためのリボンと呼ばれる領域(画面の上のアイコンが添えられたメニューのこと)なども、指でタッチして操作しやすいように、PC版Officeよりも大きくなっている。また、iPadの音声認識による文字入力に対応するほか、挿入した画像の拡大/縮小や回転といった操作もタッチ操作で行える。
ただし、操作の方法はiWork for iPadなどのApple純正アプリとは異なる部分もある。例えば、iWork for iPadでは画像を回転させる際、画像の上に指を2本置いてそれを回転させるが、Office for iPadでは、画像を選択すると回転用のつまみが表示されるので、これを指でドラッグして(引っ張って)回転させる。人によって好みが分かれるところだが、細かな角度指定はOffice for iPadのほうがやりやすい。
Microsoftが、Apple製ハードウェア向けにOfficeを出すのは3年ぶりだ。Appleの不調時代、一時はMac用Officeがなくなる可能性もあったが、1997年、実権を握ったスティーブ・ジョブズが、ライバルであり、親しい友人でもあるビル・ゲイツ(当時は同社会長)とトップ会談を行い、Appleへの投資に加えてOfficeのMac版を5年間に渡って提供してもらう契約をとりつけた。
その際、MicrosoftはMac用アプリケーション開発の専属部隊、Mac BU(Macintosh Business Unit)を誕生させて、MacにふさわしいOfficeの開発に勤しんだ。Mac BUチームは「We don’t do Windows(我々はWindowsはやらない)」といった反社内体制的なTシャツを着て仕事に臨んだり、Windows版Officeのフォーマルな感じとは正反対な、アーティスティックな製品パッケージを採用したり、時にはWindows版のOffice以上に派手な宣伝を打ったり、そしてアプリケーションとしても、時には大胆にもWindows版Officeにない機能を先取りして搭載したり、と独自のカルチャーを作っていた。
そして時には、このMac BUが作り出した新しい機能が、逆にWindows版Officeのチームによい刺激を与え、Windows版に採用されることもあった。
Microsoftの歴史においては、DirectXと呼ばれる技術のチームや、ゲーム機であるXboxのチーム、音楽プレーヤーのZuneに携わるチームと、常に傍流が新しい道を切り開いてきた。そういう意味では、傍流からCEOに就任したサティア・ナデラ新CEOの活躍にも期待が高まる。
Mac BUはその後、2011年にOffice for Macの最新版「Office for Mac 2011」をリリースした後にApexという新しい組織に生まれ変わり、今回のOffice for iPadの開発でも中心的な役割を果たしたようだ。
新体制のMicrosoft、新CEOによる最初の公式イベントの目玉はこのOffice for iPadとなったが、これはMicrosoft新時代にとって象徴的な発表だった。
MicrosoftやAdobeといえば、昔から数万円の業務用スイートパッケージを1年から1年半のサイクルで更新し、販売を続けてきた。しかし、今やクラウドサービスが中心の時代に入り、店頭でソフトウェアパッケージを買う機会も減った。
それにあわせるようにしてAdobe Ststemsも同社の主力製品をサブスクリプション型のクラウドアプリケーションスイート、「Adobe Creative Cloud」に移行したが、今後はMicrosoftも徐々にその方向へ移行していくとみられる。
特にiPadに象徴されるスマートデバイスは、こうしたクラウド化の流れを一気に加速させ、IT機器の主役を変えた。今、Microsoftも新体制と新CEOの下、新たな船出を迎えようとしている。
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