AirTagのデザインだが、外観的にはあまりにもシンプルで語ることが少ない。表面は滑らかな白いセラミックのようにも見えるが、実はきれいに磨かれた樹脂のようだ。なだらかな弧を描き、端に行くほど薄くなっている。まるで碁石のような円盤形になっている。Appleの直販サイトでは、この部分に絵文字を含む好きな文字を刻印してパーソナライズするサービスが提供される。
パーソナライズといえば、製品として非常にシンプルなぶん、多彩なオプションによって使い方をカスタマイズできるようになっている。Appleは革製のキーリングの他、革とポリウレタンの2種類のループと呼ばれる製品を提供している。ループはひねって輪を通した状態でスーツケースやバッグなどに取り付けられるようにするアクセサリーだ。
Apple以外にもエルメスがキーリング、ラゲッジタグ、さらにはバッグを楽しく彩ってくれるバッグチャームを出している。Appleの直販サイトには、それ以外にBelkin製のお手頃価格のキーリングとセキュアホルダーも用意されており、今後も他社からさまざまなアクセサリーの登場が期待できる。
AirTag本体の話に戻ろう。
白いセラミック風の表面は、実はスピーカーの振動板としての役割も果たしている。弧を描いているのも、音を全方位に拡散させるためだろう。裏返すと真ん中にAppleのロゴマークが刻印された鏡面仕上げのステンレススチールの面が現れる。AirTagの電源となるCR2032のコイン電池は、先のセラミック風の部分にスッポリ収まっているが、この背面のステンレススチールのパーツがその部分を覆うフタとなっている。
ボタンやスイッチといった動くパーツは一切なく、見ただけでその頑丈さが分かる。この状態でIP67仕様の防じん/防滴基準に対応している。
では、バッテリーはどうやって交換するのか。これが面白く、AirTagの白い面を下に構え、左右2本の親指でステンレスのフタを反時計回りに回す。すると、スムーズで絶妙なトルク感でフタが回転し、パカっと外れる。遊びなどが一切なく、極めて精巧な作りであることが指先や回転時の音から伝わってくる。
バッテリーを取り外してみると、電極に触れる端子部分なども凝った作りで、こんな見えない部分まで丁寧に作り込んでいることに感動すら覚える。
この美しく作り込まれた製品の世界観をうまく補っているのが、本製品に仕込まれた唯一のユーザーインタラクション(対話)機能である音だ。電源投入時の音や探している時の音など、少なくとも2種類の音があることを確認しているが、聞き心地の良い上品さを感じさせる音で、実に美しくAppleらしい(こういった効果音へのこだわりは、日本のメーカーも是非ともどん欲に取り組んでほしいところだ。音は消費者に対して、その会社のブランド価値の重さを刷り込む重要な要素だと思う)。
現在のAppleでは、ハードウェアデザインとソフトウェアデザインのチームが混在となったDesign Studioを持っており、そこには音専門のエキスパートもいる。最新のmacOS Big Surでも、macOSの新しい出発点となるOSとして、何よりも効果音にこだわってデザインを行った。
筆者がCasaBrutusで行ったインタビューでは、ヒューマンインタフェースデザイン担当の副社長、アラン・ダイ氏が「OSが出す効果音全体が同じ作曲家の曲のように聞こえるように、バラバラに作られていた効果音にまとまりを作った」と述べていたが、そうした効果音を見直し、世界観、高級感を作っていく姿勢が、このAirTagでついに完全に身についたのを強く感じた。
携帯音楽プレーヤー、スマートフォン、タブレット。Appleはいずれのジャンルでも、一番乗りのメーカーではなかった。しかし、それはじっくりと時間をかけて、誰もが納得いく品質になるまで議論を重ねてから製品化しているからであって、一度、そうやってブラッシュアップした期待を裏切らない製品を出荷すると、瞬く間に成功し、その製品カテゴリーを世界に広げてきた。
今回のAirTagも、製品の節々から驚くほど多くの議論の痕跡が見えており、これまで色々なメーカーが挑戦するも、なかなか広まらなかった紛失防止タグという新ジャンルが、この製品によって一気に世界に広まりそうだ。
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