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» 2009年05月01日 07時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:国内100万台突破も視野に――存在感を増すiPhoneのエコシステム(前編)

9カ月でアプリケーションのダウンロード数が10億を突破――。こんな快挙を成し遂げたのがAppleのiPhoneプラットフォームだ。iPhone OS 3.0の登場で「月額課金」に対応するこのプラットフォームは、今後どこまで勢力を伸ばすのか。また、日本のモバイルICT産業は、iPhoneエコシステムの拡大で、どのような影響を受けるのか。

[神尾寿,ITmedia]
Photo 9カ月でアプリケーションのダウンロード数10億突破という快挙を成し遂げたiPhone 3G

 既報のとおり、iPhoneアプリケーションのダウンロード数が、10億の大台を突破した。わずか9カ月で、単一のプラットフォームが築いた数字としては、モバイルICT業界の歴史に残るものだ。またAppleが、“3年前には携帯電話メーカーですらなかった”ことを鑑みれば、これは快挙といっても言い過ぎではないだろう。好むと好まざるとに関わらず、Appleは今や、モバイルICTの未来をリードする企業の1つになっている。これは紛れもない事実である。

 iPhoneのエコシステムはどこまで巨大化し、今後どれだけ勢力を伸ばすのか。また、その先進性で、グローバル市場のトレンドに先駆けてきた日本のモバイルICT産業は、iPhoneエコシステムの拡大で、どのような影響を受けるのか。今回のMobile+Viewsでは、それらの点について考えてたみたい。

世界で3700万台、国内も100万台突破!?

 全世界で10億ダウンロード、アプリ総数は約3万5000本――。Appleがしかけたキャンペーン効果もあり、「AppStoreで10億ダウンロード突破」のニュースは世界中を駆けめぐった。実際、わずか9カ月間での記録達成は話題性が十分だ。だが、その数字よりも注目なのは、この「10億ダウンロード」を記録した背景の部分である。

 まず、ほかの携帯電話と大きく異なるのが、プラットフォームの構成だ。周知のとおり、iPhone OSを採用するiPhoneとiPod touchは、ほぼ同一のハードウェア仕様となっており、プラットフォームの単一性を維持している。ハードウェア依存の差異性が極めて少ないため、アプリ開発は他の携帯電話やスマートフォン向けよりも容易だ。Appleに確認したところ、iPhone/iPod touchの販売総数は、直近で「(全世界で)約3700万台に達している」(Apple関係者)という。この規模の大きさは、任天堂の「ニンテンドーDSシリーズ」におけるプラットフォーム規模が、全世界で1億台(2009年3月時点)であることと比較すると分かりやすい。しかもiPhone/iPod touchは、モバイルもしくはiTunes経由で、常にインターネットと連携しているのだ。

 日本でもiPhoneプラットフォームの勢力は、着実に拡大している。iPhone 3Gだけで見ても、対応アプリやWebサービス、アクセサリーの充実など周辺環境の整備、さらにソフトバンクモバイルの値下げキャンペーンなどが奏功し、販売数が増加。発売後9カ月がたった今も、順調に売れ続けている。Appleは国ごとの販売台数を公開していないが、複数のソフトバンクモバイルおよび販売会社の幹部から得た情報を総合すると、日本でもiPhone 3Gは「発売後1年頃には、100万台突破になりそうだ」(ソフトバンクモバイル幹部)という。

 「iPhone 3Gがすごいのは、(発売から半年以上だった)今でも販売の勢いがまったく衰えないこと。コンスタントに売れているという点では、むしろ発売直後よりも好調といえます。

 また我々キャリアにとって重要なのは、iPhoneユーザーのARPUや利用満足度の高さですね。パケット料金はほぼすべてのユーザーが(定額制の上限額である)天井にはりついていて、解約率はとても低い。さらにiPhoneでは、ケータイの新しい使い方やサービスが次々と生まれている。これをキャリアとして抱え込んでいるメリットは、(収益などの)数字以上のものがある」(ソフトバンクモバイル幹部)

 また、iPhone 3Gを受け入れるユーザー層が変わってきたのも、最近の傾向だ。ある大手販売会社の幹部は「iPhoneを買っていく客層が確実に変わった」と話す。

 「今までは30代・男性を中心にケータイやPCに詳しそうな人がiPhoneを買うという傾向だったが、最近は若年層や女性の購入比率が高くなってきた。特に女性の伸びは注目している」(販売会社幹部)

 こうしたiPhone 3Gの健闘に加えて、iPod touchも順調に販売数を積み上げている。両者をあわせれば、日本におけるiPhoneプラットフォームの規模は軽く100万台を超えているのだ。

単一性を優位性にするiPhone

 むろん、グローバルでの規模感で見れば、Nokiaが採用するSymbian OSや、MicrosoftのWindows Mobile、さらに新興勢力であるGoogleのAndroidの存在感も大きい。また国内を振り返れば、過去10年の積み上げがある、iモードやEZ Web、Yahoo!ケータイといった既存携帯コンテンツ/アプリ市場の方が巨大であることも事実だろう。

 しかし、iPhone OSのプラットフォームには、それらにない武器がある。それが「単一性のメリット」だ。

 周知のとおり、iPhoneとiPod touchはハードウェアの差異性が極めて少なく、世代間の格差も極力おさえた形で発展してきている。iPhone OSやその上のプラットフォーム全体の設計思想が新しく合理的であり、さらに端末バリエーションが抑えられているため、高いレベルで単一性が維持されているのだ。

 これはソフトウェアやサービスの視座で考えると、iPhone 3Gの大きな優位性になっている。

 なぜなら、端末ラインアップの数が少なく、差異性が乏しいことは、開発や動作検証での負担を大幅に軽減するからだ。開発リソースの多くを、ソフトウェアやサービスそのもののアイディアや機能、UIに注ぎこめるため、クオリティが高く革新的なアイディアを持つアプリを開発しやすい。iPhoneのプラットフォームやエコシステムは、企業や開発者が創造力が発揮しやすい環境になっているのだ。多くのクリエーターがiPhoneの周囲に集まるのは、そこにビジネスチャンスがあるのはもちろんだが、その環境そのものがクリエイティビティを重視したものになっているからだろう。

 実際、AppStoreに参加するデベロッパーのうち69%がApple向けのソフトウェア開発は初めてであり、全体の66%の開発者が他のモバイル端末プラットフォームでの開発はしていないという。iPhoneが持つ単一性は、良質なソフトウェアの流通と、エコシステム全体の成長において、Appleの優位性になっている。

 ハードウェアは単一性を維持し、ソフトウェアやサービスで多様性を構築する。しかも、その基盤となるiPhone OSのプラットフォームはモダンであり、Appleがハードウェアの単一性を維持しているので進化のペースが速い。それは先に発表されたiPhone OS 3.0の1000以上になる機能強化を見ても明らかだろう。

 むろん、これらの副作用としてAppleの権限やコントロール力が強いという側面もある。しかし、これまでAppleは、おおむねオープンな姿勢でデベロッパーとの関係を築いているようだ。例えば、AppStoreに提出されたアプリのうち98%は7日以内に審査を受けて、全体の96%が承認されている。日本でもキャリア公式サイトでのコンテンツ/アプリ公開には審査があるが、「例えば(au向けの)BREWアプリは審査が厳しく数週間から1カ月程度の(審査)時間がかかる。それと比べれば、AppStoreの審査は早いし、その姿勢も日本のキャリアよりオープンだ」(コンテンツプロバイダー幹部)という。

 このようにiPhoneのプラットフォームは、世界市場はもちろん、国内市場でもその存在感を増している。特に今夏投入されるiPhone OS 3.0からは、アプリ開発の自由度がさらに上がり、課金制度の面でも日本市場で普及している「月額課金」と「追加データ課金」を実現する。これによりAppStoreに本格参入する日本のコンテンツプロバイダーは、間違いなく増えるだろう。

 ドコモのiモードやKDDIのEZwebなど、国内キャリアが持つコンテンツプラットフォームの規模と実績は確かに大きい。現時点ではモバイルコンテンツ市場の主導権を握っているのがキャリアであるのは事実である。しかし、iPhoneプラットフォームの成長速度と可能性を見誤り、自社プラットフォームのモダン化とオープン化、コンテンツプロバイダーとの対等かつ良好な関係構築に腐心しなければ、Appleに将来トレンドのキャスティングボートを奪われることもあり得ると筆者は考えている。いつまでも「日本でのiPhoneは少数勢力」「日本のコンテンツ市場はキャリアのもの」と侮っていると、足下をすくわれかねないだろう。

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。


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