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» 2010年06月04日 14時44分 公開

iPad登場で「MAGASTORE」に異変――電通が考える電子書籍のジレンマ (2/2)

[山田祐介,ITmedia]
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デバイスが市場を変える――1コンテンツでマルチデバイスの未来

 どのデバイスに対応するか、デバイスごとにどんな操作性にするかも、電子書籍では重要なポイントだ。MAGASTOREではiPadに対応するや、日本でiPadが発売される前から「日本にどれだけiPadがあるのかと思うくらい購入があった」(文分氏)。日本発売以降は、先述のように売上の8割をiPadが支えている。

 MAGASTOREでは、コスト面をはじめ「語りつくせぬさまざまな事情」(文分氏)で雑誌のレイアウトをそのまま電子化しており、iPhoneの3.5インチのディスプレイでは読みやすいとはいいがたかった。より大画面のiPadに対応することで読みやすさが向上し、購入につながったと文分氏はみている。こうして売上が伸びることで、「『これだけ売れているのだから』と出版社にリレイアウト(iPhoneへの最適化)の提案もできるようになる」(文分氏)という。

 ところが、iPhoneに最適化されているR25 for iPhoneでは、iPadの登場で別の問題が起こった。記事自体が短い上に、画面の小さなiPhone向けにレイアウトされているため、iPadで見ると「画面がスカっとしてしまう」(文分氏)という。現在は、iPadに最適化したアプリの開発を検討中だ。1つのコンテンツを活用して、デバイスごとに最適化された使い勝手を提供する重要性を同氏は説く。

 体験性という面では、コンテンツをダウンロードさせるのか、ストリーミングさせるのかも悩みどころのようだ。同氏によれば、アメリカではダウンロード型が主流。中にはiPad向け「WIRED Magazine」のように動画も含めてダウンロードさせるものがあり、「1号で500Mバイトを超えることもある。ダウンロードに時間がかかっては、何のための電子書籍か分からない」(文分氏)。しかし、ストリーミングでは当然ながらオフラインで読めない。同氏は折衷案として、ストリーミングで閲覧し、気になる特集やページなどを個別にダウンロードするスタイルを提案する。

 価格設定も、紙の書籍とは違う工夫が要求される。無料のコンテンツがひしめくアプリの世界では、ユーザーにコンテンツの値段が安いのか高いのかを感じさせる「参照点」を用意することが大切だと文分氏は語る。その1つが値下げの告知だ。「800円が600円になったほうが、350円が320円になるよりユーザーは引かれる」(文分氏)。

 また、価格と広告のバランスや広告のあり方も、模索すべきポイントという。例えば、R25 for iPhoneのジャック広告は1号あたり500万円が「実際に提案しうる数字」だ。一方、230円の電子書籍でマージンが30%の場合、同等の売上に達するには3万部以上を販売しなければならない。さらに、1表示あたり0.6円の収入が入るアドネットワークのバナー広告では、830万ものページビューが必要になる。コンテンツ料、アドネットワーク、そして表示数やクリック数という指標では図れない雑誌流の広告を、媒体の特性に合わせてバランスよく取り入れることが重要だと文分氏は考えている。

photophoto 1号につき500万円のジャック広告と、雑誌売上(写真=左)およびアドネットワーク収入(写真=右)との比較

Appleに翻弄されないために

 iPhone、iPadとApple製品に対する電子書籍ビジネスを加速させている同社だが、AppleのアプリマーケットであるApp Storeには、「世界中にコンテンツを配信できる」魅力がある一方で、さまざまな問題を文分氏は感じている。グラビア系のアプリが大量削除された前例からも分かるように、App Storeの市場環境はAppleの方針ひとつで変化する。文分氏が現在気をもんでいるのは、「タイトル型の電子書籍アプリをAppleがいやがっている」ことだ。また、書店型アプリにとって痛手なのが「In App Purchase(アプリ内課金)のアイテムが最大1000個」という制限。つまり、アプリ内課金を使った書店型アプリでは、1000以上のタイトルは販売できないことになる。

 また、Apple側に支払う30%のマージンも同社の悩みのタネだ。「出版社に利益をもたらさないといけないビジネスで、マージンを引かれた70%で勝負するのは難しい」と文分氏は主張する。MAGASTOREでは購入したコンテンツを複数のデバイスで閲覧できるようにするためにIDシステムを採用しているが、このシステム上で定期購読のためのクレジットカード登録をさせて、アプリ内課金で発生する30%のマージンを“回避”することも検討しているという。


 「App Storeとは異なるレイヤーでアプリのコミュニティーを形成する必要がある」と文分氏は語る。ビューアや課金システム、広告システムの共通化に加え、さらにアプリ間のプロモーションネットワークなどを通じて、独自のエコシステムを形成したい考えだ。しかし、そうしたアプリを許可するかどうかは、結局のところAppleの判断にかかっている。この「ジレンマ」から抜け出すことは、決して容易ではなさそうだ。

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