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» 2012年09月24日 16時00分 UPDATE

スマートデバイスのビジネス活用を考える(5):スマートデバイス活用の新たな流れ“BYOD”とは

企業が社用端末を配布するのではなく、社員が私用で使っている端末を業務に利用する――。こんなスマートデバイスの導入手法が注目を集めている。この手法にはどんなメリットがあり、どんな課題があるのか。

[小澤浩一/内山英子(KCCS),ITmedia]

 スマートデバイスを活用することで、業務の生産性が向上するだけでなく、企業における通信コスト・管理コストの削減にもつながるという期待がある。このコスト削減の方法が、個人の私有スマートデバイスを業務で活用するBYOD(Bring Your Own Device)という手法である。このBYODについてどう取り組むべきかを考えてみたい。

スマートデバイス活用の新たな流れ「BYOD」

 ここまで、スマートデバイス活用のポイントやセキュリティ対策について述べてきたが、ここでスマートデバイス活用の新しい流れについて触れておきたい。それはBYO(Bring Your Own)やBYOD(Bring Your Own Device)と呼ばれる導入手法である。

 もともとはレストランやパーティなどでのアルコール類の持ち込みを指す言葉で「(当店/主催者はアルコールを用意していませんので)アルコールは持ち込んでください」というシステムのことだ。国や地域によっては、“料理のみを提供してアルコールは持ち込み”というシステムをとるレストランも多いと聞く。背景にはアルコール類の提供に関する免許制度などがあったようだが、こうすることでレストラン側もワインセラーの設置やソムリエの人件費などのコストを抑え、料理の提供に注力できるというようにも解釈できる。

 これが企業のITに転用され、「会社ではIT機器を用意しませんので、社員のみなさんは自分のPCやデバイスを持ってきて、それで仕事をしてください」という導入手法を指す言葉として使われるようになった。レストランがコストを抑えて料理に注力するように、企業のIT部門がスマートデバイスの導入コストを回避し、業務システムの企画・提供に注力する考え方といえるだろう。

 概念自体は、デスクトップ仮想化技術を提供するCitrixなどのベンダーが主導して提唱されたものであるが、「売上を最大にし、経費を最小にする」という企業の行動原理と照らし合わせても、企業にとって有力な選択肢の1つになることは間違いないだろう。

 とくにスマートデバイスについては、多くのビジネスパーソンがすでに個人用途で所有し、活用している。また、データ通信料が定額制となっていることから、業務で使用したとしても個人の通信費負担が増えるものではないなど、活用を後押しするインフラ側の素地もできている。

 個人所有のスマートフォンを業務で使用させ、いくらかの通信費を会社側で負担するような制度を導入すれば、会社が端末を配布するのに比べて導入コストや通信コストを抑えられる。ユーザーも使い慣れた端末を使えるため作業を効率よく進められ、社用と個人用の複数端末を持ち歩いて管理する手間も省ける。

 現在、企業においては、携帯電話による音声通話やデータカードを使用したPCデータ通信など、さまざまな通信サービスが利用されている。ここにスマートフォンやタブレット端末が加わると、従業員一人あたりの通信コストは1万円をゆうに超えるレベルになることもある。ここにさらに端末の維持管理コストも発生するなど、コストはかさむ一方だ。このような回線契約・端末種別を集約し、コストを最適化することが、BYODへの期待の最大のものである。

運用コストで見合わないケースも

 しかし、BYODもいいことばかりではない。導入/通信コストは軽減できたとしても、安全に運用するための手間やコストがそれ以上にかかるケースもあるからだ。

 私用端末を業務でも使うとなると、業務時間外の紛失などの事態に備えて、“端末側に業務データを残さないようにする”“ウイルス感染の恐れがあるソフトや悪意のあるソフトがインストールされたデバイスを社内に接続させないようにする”といった技術的な対策や運用上の対策が必要になる。

 ほかにも、“企業内の情報をどの程度まで個人のスマートデバイスに保存しても良いするのか”“紛失時に遠隔消去をする際、私的なデータも含めて消去することを社員が受け入れるか”など、運用上の取り決めも重要になってくる。

 端末側にデータが残らないようにする技術としては、仮想化や変換ゲートウェイなどがあるが、環境構築や変換ゲートウェイの設置には、それなりのコストがかかるのが現状だ。

 BYODは通信コストや端末購入コストを低減できるというメリットがある一方、ポリシーや運用ルールの策定、運用のための環境構築など、“BYODを実現するからこそかかるコスト”もあるということは知っておきたい。現に、あまりに運用コストがかかるため、BYODの導入を断念したという企業も出てきている。導入を考える際には、BYODならではの運用コストも踏まえたうえで、自社のセキュリティポリシーや運用キャパシティなども考慮して取り組みたい。

スマートデバイスだけではない、BYOのさまざまな可能性

 BYOは、スマートデバイスに限ったものではなく、ほかにもさまざまな可能性があるように思う。

 例えばモバイルデータ通信などのBYOもあるかもしれない。高速のモバイルデータ通信が普及した現在、さまざまな場所から社内システムにアクセスできるようにすることで、業務効率は著しく向上する。

 今や若いビジネスパーソンを中心に、固定電話を持たず、自宅のインターネット環境もWiMAXや3G/LTEなどのモバイル回線であるという人は多い。このような場合には、モバイル回線もBYOの対象となるだろう。

 小さな事業所であれば、事業所内にLANを敷設せず、インターネットを経由して直接本社やデータセンターに置かれたシステムにアクセスするということもできるかもしれない。つまり、1人に1枚データ通信カードを貸与せずとも、業務効率を向上させることが可能になる。BYON(Bring Your Own Network)とでも呼べるのではないだろうか。

 また、GoogleやFacebook、Twitterなど、個人が所有する各種のIDを業務で使用することもできるだろう。これらのサービスでは各種の認証APIが用意されている。社内システムの認証をこれらのインターネットサービスに任せることで、企業内に高価なシングルサインオンのシステムなどを構築する必要がなくなる。同じようにBYOI(Bring Your Own Id)とでも呼べるだろう。

 このように、BYOというスタイルはさまざまな可能性を秘めている。読者のみなさんも、自社の業務スタイルに合ったBYOの形を探してみてはいかがだろうか。

執筆者プロフィール:小澤浩一(おざわこういち)

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 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ネットワークサービス事業本部 コミュニケーションサービス事業部 事業部長。

 1996年、京セラコミュニケーションシステムに入社。ID管理や文書管理などの自社パッケージシステム「GreenOffice」シリーズの開発企画に携わる。2009年10月よりコミュニケーションサービス事業部事業部長に就任。データ通信サービス「KWINS」をはじめとするリモートアクセス/モバイルアクセス、仮想デスクトップなどのサービス事業に携わる。近年では、リモートアクセス/モバイルアクセスでの経験を生かし、スマートフォンやタブレット端末など、PCに限らないさまざまな情報端末の導入支援やアプリケーション開発に取り組む。



執筆者プロフィール:内山英子(うちやまひでこ)

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 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 事業推進本部 事業推進部 企画1部 部長 公認情報システム監査人。

 大学卒業後に外資系企業にシステムエンジニアとして入社。数多くのIT企業の日本におけるスタートアップに携わった後、2002年に京セラコミュニケーションシステム入社。セキュリティ関連の事業開発責任者や米SOX法対応に関する同社のシステム導入プロジェクトに携わる。現在はICT関連事業のマーケティング、プロモーションを担当。



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