消毒薬、マスクだけじゃない――新インフル対抗の“秘密兵器”樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2002年当時の筆者はネパールのカトマンドゥで現地駐在事務所の所長を務めていた。パンデミックが避けられない事態になるに連れて、このまま滞在していると全滅してしまうような嫌な気分になったものだ。そんな筆者には秘密兵器があったのだ。

» 2009年05月07日 20時30分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 先週「SARSから新型インフルエンザへ」を執筆してから、SARS(重症急性呼吸器症候群)のことをいろいろ思い出してきた。2002年当時の筆者はネパールのカトマンドゥで現地駐在事務所の所長を務めていた。事務所でたった1人の日本人でもあった。

 SARSの発生で、まったく身動きが取れなくなった。日本の本社では、不用意な海外出張を禁じていたが、筆者の場合はすでに現地にいたわけで、どうしようもない。徐々にパンデミック(世界的な流行)が明確になって来るに連れて、このまま滞在していると全滅してしまうような嫌な気分になったものだ。

 インドの駐在事務所とも電話で頻繁に連絡を取って連携するのが精いっぱいだった。だが、たとえ日本に帰国しても大変だったはずだ。発熱していようといまいと、日本到着と同時に検疫で長時間待たされて、出発国や経由国によっては一定期間隔離されたりもする。海外駐在員が帰国した場合、日本の本社でも「会社に出てきてはだめ」と自宅待機を厳命したとのことだった。

 というわけで日本に帰っても仕事ができないことが決定的になった筆者は、とにかくできるかぎりネパールに滞在しようと考えた。

土足の殺菌

 カトマンドゥ事務所の中は土足だったことから、先週説明した浅いブリキの容器に靴の泥落としマットを敷いた。靴の裏を消毒するためだ。消毒薬は英国製の「Dettol」だった。強烈な臭いの薬剤だが、大きなボトルで購入。容器に流し込んで、靴の裏を徹底的に殺菌した。

 さらに入口には病室のようにウエルパスを台の上に置いて、ネパール語と英語で、「事務所に入る前には必ず両手を殺菌してください」と紙を貼った。筆者は、海外でわけの分からないホテルに宿泊する時には、まず便座、トイレの蛇口、トイレのドアノブ、洗面台をDettolで殺菌。風呂に入る前にもお湯にDettolを“点滴”していた。

マスク

 事務所に日本人は筆者1人だったが、総務や営業担当のネパール人は総勢15名。バスで通勤するスタッフにはマスクを配った。現地のマスクのサイズはバカでかく、顔にかけると巨大なサロンパスが貼ってあるのかと思ったほどだ。おかげで、道の向こうから当社の事務所員が歩いてくるのはすぐに分かった。世間でSARSが最盛期でもマスクをしていたのは、当社の所員だけだった。

体温測定

 所員には熱が出たら出社しないようにと指示した。中国製の電子体温計を数台手に入れて、総務担当が所員の体温を毎日に測定して記録した。

 さらに、筆者自身が罹患する可能性も考えて、耳の穴で瞬間的に体温を測定する温度計を日本から送ってもらった。オムロンの「けんおんくんミニMC-510」である。これは3990円ほどだから一家に1台あってもおかしくない。

 ただ、これは直接、耳の穴に入れるタイプ。耳の穴が不潔な他人とは一緒に使いたくないし、もしかしたら感染者もいるかもしれない。なので、体温計にはカバーを使った。耳の穴に入れる部分に掛ける、薄い指カバーのようなカバーである。

ハンドシェイク後の殺菌は「握手用右手殺菌装置」

 SARSが本格的に流行し始めたころ、見知らぬ人と握手することも気になりだした。日本では客先で握手をしなくてもよいが、海外では握手するのが普通だ。相手が手を出しているのに、握手をしないと敵意を見せているのと同じになる。

 だが、感染するかもしれない非常事態である。不用意に初めて会う人と握手はしたくない。そう思っていると、余計にたくさんの人と握手したような気になる。

 そこで、筆者は「握手用右手殺菌装置」を作った。それがこのポケットに忍ばせる殺菌装置である。仕組みは、ウエルパスの液をしみこませたペーパータオルかガーゼをジップロックに入れて、背広のポケットに入れておくだけ。誰かと握手した後、何気なく握手した手を背広のポケットに入れて、殺菌ガーゼを指先で触って殺菌するものだ。

 相手はまったく気が付かず、自分の右手だけを殺菌することが可能なのだ。これは、日本国内でも応用できるかもしれない。電車のつり革、エスカレーターのベルトなどを触れた後にも良さそう。ドアノブも同じである。

 もちろん筆者はまだやっていないが、やろうかと思い始めているのが最近の心境だ。こうして神経質にやっていると、災いの女神があきれて通過するか、あるいは皮肉に近寄ってくるか――。筆者にも答えは分からない。

今回の教訓

 災いの女神と握手した後にも使ってみたい――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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