任天堂は「やらないこと」で目標を達成した最強フレームワーカーへの道

やらないよりはやった方がいいに決まっている。しかし、ここに落とし穴がある。サウスウェスト航空、任天堂、QBハウスに見る目標達成の方法を個人で実現するためには。

» 2009年08月11日 12時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 仕事をしているとどこまでやるべきか判断に迷うことも多い。もちろん、なるべくやれることはやった方がいい、そう思うのが一般的だろう。

 勉強や自分のスキルを磨く場合も同じだ。やらないよりはやった方がいいに決まっている。できないよりはできる方が価値が高いに決まっている、と素直に思う。……しかし、ここに落とし穴がある。

 この考え方最大の問題点は、すべてが中途半端になりがち、ということだ。より多くのことを成そうとすれば、1つだけに集中している者に勝てるわけはない。企業が競争力を失うケースもこうした原因が少なくない。

「選択と集中」――イケてる企業はやっている

 こうした企業が取るべき道として「選択と集中」という言葉がある。競争力が高く、独自性のある領域に集中して資源を投下しようという取り組みだ。多角化路線とは対極にある経営戦略と言ってもいい。

 ただし、言葉が独り歩きしているケースも目立つ。文字通り、「何かを選択して、何かを集中する」と思っている人がほとんどのようだ。しかし、厳密にはちょっと違う。「選択と集中」の意味するところは、「何をやらないか、を決めること」にある。

 例えば、顧客満足度No.1の米サウスウェスト航空(Southwest Airlines)はどんなにもうかっても「遠距離や国際線の運航はやらない」と決めている。任天堂だって、潤沢なキャッシュを背景に多角化戦略も可能だが、「ゲームや遊びビジネス以外はやらない」と決めている。1000円カットの理容チェーン、QBハウスだって、断固として「シャンプーはしない」方針を崩さない。不況期に強い企業は「何かに集中する」前に、「何をやらないかを決めている」点が特徴だ。

サウスウェスト航空は金をかけずに顧客を楽しませる。ラップで機内アナウンスを行うフライトアテンダントの映像

やるのをあきらめる――ではなく「しなくてもいい仕組み」を考える

 ひるがえって、僕らの個人生活はどうだろう? やった方がいいことを全部実行したら、誰だって24時間では足らない。やった方がいいと思いながらもできていない自分を考えるとストレスも感じるだろう。

 「本はいっぱい読みたいし、でも映画漫画も読みたい。体をジムで鍛えたいし、栄養価の高い食事を3回摂って、病気知らずでいたいけど、ビールも好きだし、飲み会は絶対参加したい。新聞やニュースは紙と携帯端末で押さえておきながら、業界新聞も目を通して顧客と共通の話題を振りまきたい。それと、やはり英語と中国語くらいはしゃべれるようにしておかないと……。でも、たまにはキャンプでもしてリラックスしたいなあ……」

 ――さすがに、これは無理というものだ。詰め込みすぎである。そのためには、「やらないことを決める」必要がある。

 ただし、「やらないことを決める」というのは「単純にあきらめる」のとは同義ではない。「やらないことを決める」というのは、「やらなくてもいいように、別のことでカバーする」という意味である。

 例えば、電話でアポとりして、見込み顧客のところに営業しに行くのが苦手、という人がいたとしよう。彼あるいは彼女は「営業はできればしたくないなあ」と思うだろう。その時に「営業をあきらめる」のであれば、ただのデキナイ人になり下がるだけだ。

 あきらめるのではなく、「営業をしなくても売れる仕組みを考える」ことが一番大事なことである。もし、営業しなくても見込み顧客から問い合わせが来るようなWebマーケティングの仕組みを作ったり、別商品の販売チャネルやリストを使って効率的に見込み顧客を誘引できるようなパートナーシップが築いたりするのであれば、「営業しなくていいように、別のことでカバーできた」ことになる。こうした仕組みを作ることに自分の時間や資源を投入すること、これが個人における「選択と集中」だ。

個人で「選択と集中」するなら知っておきたい「ERRC」

 個人における「選択と集中」を行うために、使い勝手のいいフレームワークがある。それはブルーオーシャン戦略でしばしば用いられたERRCだ。ERRCはご存知の方も多いと思うが念のため、以下のような意味の頭文字である。

  • Eliminate=取り除く
  • Reduce=減らす
  • Raise=増やす
  • Create=付け加える

 つまり、取り除き、減らすことによって無駄な労力を抑え、その分、もっと価値ある部分を増やしたり、新しい価値を付け加えたりしようと言うものだ。中でも「取り除く」と「付け加える」のコンビネーションが一番、強力であり、イノベーションを起こす可能性が高い。新しい価値を生み出すために、同時に古い何かを捨てる潔さが、競争と変化の激しい現代に生きる僕らに大切なことだと思う。

  • もう、新聞は読まない→それを上回る貴重な情報を得る? それは何か? どこで?
  • もう、結婚はしない→それで得られる膨大な時間を何に費やすか? 結婚以上に人生の満足度が得られるものか?
  • もう、英語はやらない→通訳やとえばいいじゃん。でも、それを上回るスキルを身につけるには? 代わりに中国語やるとか?
  • もう、会社に行かない→自宅でも現在の収入以上を得る方法は何があるか?

 ――などなど「何をやらないかを決める」ととってもスッキリするはずだ。何でも万能な能力が求められがちな世の中だが、「やりたくない!」パワーが強力であれば、それを不要にしてしまう仕組みを作り出すパワーも強力なはず。ぜひ、自分が自分らしくあるために「何をやらないかを決める」を実行してみてほしい。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com


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