2人の学生は、この優れた本を定義するアルゴリズムは世の中のWebサイトの優劣を決めるにも大変有効だと考えました。
当時(1990年代)のWeb検索システムは、キーワードの一致したサイトを単純にピックアップするだけ。山ほどのゴミサイトをひっかけてしまい、まともに使えませんでした。もっと精度の高い検索システムが望まれていたのです。
そこで、2人の学生は電子図書館のアイデアを転用し「他の類似テーマのサイトから参照されている(=つまり、被リンクが貼られている)サイトは、優れた情報を掲載しているサイト」だと定義し、世界中のWebサイトを検索ロボットに周回させてサイトごとに評点を付けていきました。その点数は後に、その学生の1人、ラリー・ペイジの名前を冠して「ペイジランク」と呼ばれました。
これが言わずと知れたグーグル創業の物語なのです(現在は、被参照数の数だけでなく、さまざまな指標を組み合わせて評価されていますが、アルゴリズムは公開されていません)。
もちろん優れた情報の抽出には、さまざまなアプローチがあるでしょう。経験を積んだ編集者によるセレクション、分野ごとの専門家によるアドバイス。これらは、ヤフーのディレクトリサービスやオールアバウトの専門ガイドとして実際にサービス化されています。
しかし、これらの手法は膨大な情報量を効率的に処理するには、労働集客的な限界があります。結局、天文学的な数に上る世界中のWebサイトをインデックス化するニーズに応えられず、検索ビジネスはグーグルの1人勝ちとなりました。
問題の解決策は、このように問題を再定義することで見えてくることがあります。問題の再定義とは、質問を変えてみることです。「どうやったら、うまくいくのか?」を「うまくいっているものの共通点は何か?」に言い換えるのです。
例えば「どうやったら、この病気が治せるだろうか?」の課題には、「この病気にかからない人に共通点はないだろうか?」と言い換えられます。18世紀に猛威を振るった天然痘の治療方法発見のきっかけは、地域の開業医エドワード・ジェンナーの着眼点の切り換えでした。
「なぜ、乳搾りをしている女性は天然痘にかからないのか?」
答えは、意外なものでした。天然痘にかからない人たちは、既に牛を宿主とした牛痘にかかっていたのです。牛痘は人間が感染しても軽度の症状で済む上、天然痘にDNA配列が似ていることから、天然痘の免疫として機能していたことが分かっていました。
ジェンナー医師は、牛痘を基に作ったワクチンを打った少年に天然痘のウイルスを打ってみましたが、発症しませんでした。その後、あっけなく天然痘は消滅しました。
観察眼の視点を変えると、難解な問題がスルッと解けることがあります。「どうやったら、雨をしのぐ洋服が作れるか?」ではなく、世の中で水をはじくものを探すのです。自然界に目を向ければ、「なぜ、蓮の葉は水をはじくのか?」と着眼点を変えることができます。おかげでレインコートが誕生しました。
また、軍事目的で「どうやったら、暗がりで敵の位置を把握できるのか?」の質問を、暗がりで器用に動く生き物に目を向け、「なぜ目の見えないコウモリはぶつからないのか?」と変換したことで、レーダーが誕生しました。問題解決のための視点を変えれば、世の中はヒントで満ち溢れていることが分かります。
問題解決に詰まったら、別のアングルから問題を見直してみることです。問題を別の角度から見るために便利なオズボーンのチェックリスト(ブレーン・ストーミングなどを生み出したアイデアの第1人者アレックス・オズボーンが作成)を本連載の基となった書籍『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)の134ページで紹介していますので、よろしければ活用ください。
「どうやったら、顧客はうちの商品を買ってくれるだろう」の質問を変換してみましょう。それは、「うちの商品を買ってくれる顧客の共通点は何か?」に転換できます。その共通点を見つけ出すことで、今まで気づいていなかったまだ見ぬ顧客がどこにいるのか見当がつくでしょう。
「どうやったら、プロジェクトの遅延を防けるのか?」と質問にダイレクトに答えるよりも、答えは「時間通りに進行するプロジェクトリーダーの共通点は何か?」に見つけられます。
答えはいつも私たちの目の前にあります。しかし、当たり前すぎて気が付かないことが実に多いのです。そんな時、問題を再定義して自分への質問を言い換えてみましょう。スルッと、思わぬ答えが導き出せるかもしれません。
なお本連載の基となった『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)では、5Aサイクルの具体例として、グーグルのほか、ダイソン、アマゾンなど今をときめくイノベーティブな企業群のエピソードを18のケースストーリーで紹介しています。
本連載は2012年12月19日に発売した『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』(永田豊志著、かんき出版刊)から一部抜粋しています。
本書は、イノベーションを起こして、ビジネスで勝ち残るための「思考法則」についての解説書です。これからの働き方は、大きく変わります。今まで通りに目の前にある仕事を頑張って働くのではなく、新しいイノベーションを起こしてソリュ―ション(問題解決)することが不可欠になります。本書はあなたの仕事にイノベーションを起こすために、トップ1%のできるビジネスマンだけが実践している「思考の法則」を著者、永田豊志氏が見つけ、分かりやすくまとめたものです。
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知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
ビジネスマンの「知的生産性の向上」をテーマに精力的に執筆・講演活動も行っている。近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』『ノート・手帳・メモが変わる絵文字の技術』(中経出版刊)、『すべての勉強は、「図」でうまくいく』(三笠書房刊)がある。
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