それが本当にやりたいことなのか?:感動のイルカ(2/2 ページ)
浩は、最近これまでの人生を回想していた。「そうか、立派な父ちゃんになりたいんだ」。そう思った浩は外務省で青年海外協力隊の募集要項の資料をもらい、応募するのだが――。
店主に起こされた。閉店だから帰れと言われた。水を1杯だけ出してもらった。勘定を払って、タクシーを探した。なんとか部屋までたどり着いたが、その後の記憶はなかった。
気がついたら、昨日の服のまま、昼間を迎えていた。カーテンは開けっぱなしだったので、陽光が目にまぶしかった。テレビをつけたら、タモリが「明日も来てくれるかなあ」と会場にマイクを向けていた。明日という言葉が耳触りだった。
そう言えば、このマンションも今月限りで出て行くんだった。まだ、引っ越し先も決めていない。ふと井の頭線沿いなら、学生も多そうだし、そんなに高くないんじゃないかと思った。営業で回っていたあたりだから、それなりに馴染みもある。高井戸あたりだと、渋谷からそれほど離れてないのに、なんとなく郊外ぽくっていいかもしれない。
よし引っ越しだ。引っ越しで気分を変えよう。こうなると行動のはやい浩である。数日後、高井戸に四畳半一間でキッチンとトイレ付きの家賃数万円のアパートを探し出して契約してしまった。家財道具は少なかったので、引っ越しは2トントラックを借りてきて、自分でやった。ソファーなんかはどうせ入らないんだし、近所のリサイクルショップに二束三文で売ってしまった。
都心の高級マンションを引き払って、その四畳半一間に越してきた。普通なら都落ちの気分だろうが、浩は妙にさっぱりした気持ちになった。元々の自分に戻っただけだ。歳は5つほど老けてしまったけど、まだまだやり直しのきく歳だし、一から始めればいい。希望は見当たらないけど、とりあえず昔のように額に汗して働こう。ドリンクの配送をやっていたオレだ。車で客先を回るような仕事ならなんでもできる。こっちのほうなら道も良く分かる。タクシーの運転手なんかいいかもしれない。
引っ越しの荷物はあっという間に片付いてしまった。近所の食堂で夕食を済ませ、銭湯に行って戻ってきた。郵便受けを見たら、引っ越しのチラシが入ってきた。
今日引っ越ししてきたばかりなのに間抜けな話だ。浩は苦笑したが、考えたらチラシを配るほうはそんなのおかまいなしである。そのチラシが浩の運命を変えた。下のほうに、少し大きめの字で「バイト募集」と書いてあった。
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著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)
ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。
奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。
現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。
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