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» 2020年07月16日 19時10分 公開

アニメ業界の「病巣」に迫る【前編】:アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が語るアニメーター業界の「過酷な実態」 (2/4)

[伊藤誠之介,ITmedia]

同人誌を作ったことで「お金の処理」に気づいた

――確定申告の説明会を開いたりしているということは、西位さんは以前から、アニメーターの働き方に対する問題意識があったのでしょうか?

 それに関してはいろんな要素があるんです。最初のきっかけは、12年に同人誌で自分の画集を出した時ですね。ちょうど『輪るピングドラム』が終わった後の時期で。

――逆に言うとそれまでは、西位さん自身もそこまで意識はしていなかった?

 そうですね。同人誌を出すまでは、銀行振り込みではない現金収入を、そんなに手にすることがなかったので。アニメーターの仕事は在庫もないですし、仕事にかかる経費もそんなに多くはないですから。でも同人誌だと、実売とか在庫とか、いろんな数字が関わってきちゃうので。

――確かに規模の大きな同人サークルを運営すると、小売りの自営業を突然始めたような感じになりますよね。

 そうなんです。さすがに「自分1人では無理だ」と思って、税理士さんにお願いしたんです。

 そうしたら税理士さんから、自分個人の銀行口座と仕事用の口座を分けておくとか、フリーランスとしてやっておくべきことをいろいろと聞くようになって。それを若いアニメーターさんにも、早めに伝えておきたいと思ったんです。そういうことは最初からやっておけば、後々ラクですから。

 それで最終的には、「ギャランティーの交渉技術を自分で身につけないといけない」という意識を、若いアニメーターさんに身につけてもらいたくて。「自分はフリーランスなんだ、1人親方なんだ」ということを、少しでも多くの人が考えるようになってくれないと、アニメーター全体が良くはならないだろうと。

 だからそれを若い人に伝えることは、回り回って自分のためにもなるはずだ、と思って始めたんです。

スタジオに「所属」していても待遇はフリーランス

――先ほど話題に出たアニメ業界の「非常識」を、『アニメーターの仕事がわかる本』に書かれていることも含めて再確認しますが。アニメーターはスタジオや制作会社【※】の“所属”ということになっていて、スタジオに用意された机に座っていれば仕事が回ってくるんだけど、実際の待遇としては社員でも何でもないフリーランスだと。それなのに本人はスタジオの社員だと思っているから、本来はフリーランスとして必要な、確定申告をはじめとする諸々の手続きをやっていないということですか?

※スタジオや制作会社:アニメーションの実制作を担当するアニメ制作会社には、企画から制作全般を請け負う「元請」の会社、1話単位で下請けの制作を行う「グロス請け」の会社、そして作画や撮影など、セクションごとの下請けを行う会社など、大小さまざまな規模がある

 そういうことです。年末調整をスタジオがやってくれるところもあるんですけど、会社にやってもらうとなぜか、還付金がやたらと少ないんですよね。私の場合、突然3000円ぐらい渡されて「これ何ですか?」って聞いたら「還付金だよ」といわれて。でも自分で確定申告をやったら、10万円ぐらい還ってくるんですよ。年収がまだ120万円とかの頃ですけど。

 なので私はけっこう最初の頃から、自分で確定申告をやっていたんです。ただまぁ、それはさすがに20年ぐらい前の話なので、今はもうちょっと、ちゃんとやってくれるんじゃないかとは思いますけど。

――西位さん自身は、今は完全にフリーランスなんですか?

 フリーランスです。

――西位さんが最初にアニメーターになった時は、スタジオの社員だったのですか? 

 それがねぇ……社員だけどフリーランスなんです(笑)。

 スタジオの先輩からは「社員なんだから、会社がグロスで受けた仕事をやらないのなら出ていけ」みたいなことを言われるわけですよ。でも、じつは社員じゃない。そこが曖昧なんですよね。「社員とはいったい何か?」みたいな(笑)。だって席代を払ってるんですよ。

――「席代」とは?

 スタジオに席を置く代わりに、自分の仕事の報酬の一部を席代として払っているんです。

――その席代のシステムもスゴイですね。そうした待遇について、契約書とかはあるのですか?

 一切ないですね。アニメーターの場合は契約書が送られてきてもたぶん、中身を読めない人が多いだろうと思うんです。私の場合は税理士さんに契約書の中身をチェックしてもらって、それでようやく「この文言は怪しい」というのを指摘していただけるようになったんです。

――「この文言は怪しい」というのは?

 契約書って最初に提示された時は、あまりにも不条理で先方に有利な条件が書かれていることが多いんですよ。それに対して「これはダメです」「変えてください」という交渉が必要で。税理士さんに説明してもらって、私もようやくそのことを理解したんです。

 私自身は交渉が嫌いなほうではないんですけど、それでも契約書は、やはり専門の人に見てもらわないと難しい。それを考えると、一般的なアニメーターさんが契約書をしっかりと読み込むのは、かなり難しいでしょうね。「なんだこれは!」って怒るだけで、差し戻しの交渉はできないんじゃないかと。

 以前、JAniCA【※】の入江泰浩さんとも話したんですけど、最低限、メールで契約書の文言をやりとりして、その経緯を文書として残すことだけでもやったほうがいい、と言っていましたね。

※JAniCA:一般社団法人日本アニメーター・演出協会の略称。「アニメーション制作者実態調査」などを行い、アニメ業界の労働環境問題についても積極的に取り組んでいる。アニメーター・演出家の入江泰浩氏は、同協会の代表理事を務めている

phot 西位さんのオリジナル漫画『ウロボロスの冠』

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