脱毛症(ハゲ)は男性だけでなく、多くの人を悩ませている症状だ。その一方で、決定的な治療法が確立されていないものでもある。
この脱毛症を、超音波によって改善しようという試みが発表された。日本医科大学と、筑波大学発のスタートアップであるピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)、東京・名古屋・大阪・札幌・福岡で薄毛治療を手掛けるDクリニック(東京都千代田区)の三者で共同研究されている。
これまで脱毛症の治療には投薬治療や植毛、多能性幹細胞を使った毛髪を再生する治療法、LEDや低出力レーザー照射といった発毛治療法が用いられていた。ただ、皮膚に触れない超音波技術による治療法は初だという。
11月には都内で会見も開かれ、実際に超音波技術を用いた装置が披露された。装置はヘアサロンでパーマやカラーリングをする時などに使用されている遠赤外線照射器に形が似ていて、頭皮に接触せず施術ができるのが特徴だ。Dクリニックによると、「この治療法を長期間行うことで、ミノキシジルの発毛効果が高められることを立証した」と説明する。
この超音波の波動制御技術には、ピクシーダストテクノロジーズの技術とアイデアが使われている。頭皮に照射して刺激し、毛髪の健康状態を維持する機器などを開発。アンファーと共に商品化し、改良したものを来年ころまでにコンシューマー家電として販売する構想だという。
同社の代表取締役を務めるのが、筑波大学図書館情報メディア系准教授の落合陽一さんだ。落合さんはメディアアーティストとしても活躍している。ピクシーダストテクノロジーズは2017年に、「人類と計算機の共生」を掲げ、落合さんらが設立。独自の波動制御技術を中心に、農業から介護、医療まで幅広い分野を手掛けている。
同社は、大学から生み出された多様な研究を、社会に存在する課題の解決手段として「連続的に社会実装する」ことを目指す。1つの要素技術をベースにするのではなく、音や光、電磁波といった波動制御技術をコアに、複数の技術を並行して扱う。つまり大学発の技術と、顧客を橋渡しするのが同社の役割だ。
研究開発に投資するための資金調達も続けていて、19年には約38.5億円を調達したことで話題にもなった。研究開発型ベンチャー企業としての経営課題とは何か。落合陽一さんに話を聞いた。
――研究開発型ベンチャーの現状をどのように見ていますか。
ここ近年、日本では好景気が続いていて、ベンチャーキャピタルからの投資は受けやすい状況が続いています。ただ一方で、出口戦略が立てづらいのが課題です。イグジットの一つには株式上場(IPO)が挙げられますが、IPOは黒字化を続けていないとできないのが問題です。
研究開発型ベンチャーの中には、黒字化を第一の目的とはしていない企業も少なくありませんから、こうした企業にとってはIPOしにくいのが問題ですね。あとはシリコンバレーなどに比べると、M&Aも巨額になるとやりにくい部分もありますから、IPOレベルのベンチャーの買収も進んでいません。
出口戦略のストーリーまで完全に描き切れてないというのはこの社会の問題だと思いますが、われわれはそこもきちんと描いていこうと日々頑張っています。
――ピクシーダストテクノロジーズは大学と産学連携して、新しい技術や研究成果を取得できるスキームを作っていますね。共同研究契約を締結する際、貴社から相手の大学にストックオプションを付与する代わりに、特定の枠組みから生まれた研究成果は譲渡してもらう。これによって貴社はスムーズに事業化できますし、大学側にもリターンを還元できる。優れたビジネスモデルだと思います。
2018年から続けていることなので、僕としては今さら感のあることではあるのですが、4年近くがたってようやく社会や企業からの理解も得やすくなってきたと実感しています。ここ4、5年で、技術開発ベンチャーへの投資は非常に増えたと思います。こうした動きの中で大学へのストックオプション付与を手掛けているわけですが、これが可能になったのも、ひとえにベンチャーキャピタルの人々や政府の働きかけが大きかったのだと思います。
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